第45話 称号士は女神の祝福を受ける
――グォルアアアアアアア!
漆黒の竜の咆哮が響き渡る。
その姿と迫力は大災厄の預言の通り、大陸一つを滅ぼす力を持つ竜という伝えに
しかし、分からないことがある。
「何で漆黒の竜が……」
大災厄の預言の時期まではまだ時間があったはずだ。
リアの方を見やるが、分からないといった様子で首を振る。
その答えを知っているのは目の前いる赤眼の男、ガルゴなのだろう。
「何故、《漆黒の竜》の顕現が早まったのか解せない、といった様子だな。それもそうか。ククク……」
「答えなさい、ガルゴ・アザーラ! 一体何をしたのです!」
「女神よ。貴様は漆黒の竜がどうやって顕現するか知っているか?」
ガルゴの問いにリアは答えない。
この世界に伝わる大災厄の預言も、示されていたのは漆黒の竜とそれが現れる時期だけだ。
リアにも以前聞いたことがあるが、それ以上は分からないと言っていた。
「私は知っている。百年前、この漆黒の竜は私たち赤眼族の前に現れ、我が同族を喰らった。その際に取り込まれた同族の声を私は聞いたのでな」
「漆黒の竜に、取り込まれた?」
「百年に渡って積もった人の憎しみや怨嗟。それを喰らいに漆黒の竜はこの世界にやって来るのだ」
……そういうことか。
ガルゴはさっき、レブラの行動によって百年の怨嗟は閾値を超えたと言っていた。
つまり、漆黒の竜が現れるに足るだけの「餌」をガルゴは用意したというわけだ。
「でも、それだとあなたも無事では……!」
「心配は無用だ、女神よ。私がこの世に留まり、呪術を研究してきたのは全てこの時のためなのだからな」
「この世に留まった? それじゃあお前は……」
「察しの通りだ、アリウス・アルレイン。――私は既に生者ではない」
「……っ」
そうか。
記者のパーズが調べた通り、やはりガルゴは百年前に死んでいたのだ。
それが今もなお、この世界に実体を持って存在しているのは赤眼族の力によるものなのだろうか。
「あの日からずっと、私の頭には同族たちの声が響くのだ。『この世界を恨め。救援を寄越さず、我らを見殺しにした人間たちに復讐せよ』とな」
ガルゴの赤い瞳が少しだけ悲しそうに揺れる。
「よせガルゴ! お前は――」
「それ以上言葉は不要だアリウス・アルレイン。私をこの世界に留めた同族の怨嗟は、もはや私自身にも止められぬ」
言って、ガルゴは漆黒の竜に手を向ける。
「漆黒の竜、ヴリトラよ! 我が一族を滅ぼしたその力、今こそ私が貰い受ける!」
ガルゴと漆黒の竜の周りをが激しく発光する。
一瞬の静寂の後、その声は漆黒の竜から響いてきた。
「さあ、アリウス・アルレイン。終局の幕を上げよう」
ガルゴの体は消え去り、ヴリトラの目は赤く染まっていた。
「漆黒の竜と、同化した……?」
そこから感じたのは体を震わせるほどの力だった。
漆黒の竜と化したガルゴはまだ行動を起こしていないのに、肌を通して殺気が伝わってくる。
「し、知らない! こんなこと知らないぞ! ボクはただ、ギルドじゃできない汚れ仕事を請け負ってもらう代わりにガルゴ君へ資金提供をしていただけだ! まさか、こんなことになるなんて……」
近くにいたレブラが狼狽し、その場にへたり込んでいた。
黒い竜が放つのはそれほどの圧力だった。
「戦うしか、ないみたいだな」
「倒しましょう、アリウス様! 要するに、この竜を倒せばハッピーエンドってことには変わりありません!」
「リアの言う通りです!」
「アリウス! 何としても食い止めるぞ!」
俺は仲間たちと頷き合い、眼前の脅威と相対する。
「《白翼の女神》のギルドメンバーは観客たちと王族を守れ! 称号付与の力を活かすんだ!」
「「「はい、アリウスさん!」」」
俺はギルドメンバーたちに命じ、漆黒の竜と同化したガルゴに向けて火属性魔法を放った。
「メテオボルケーノ――!!」
炎の火柱が巻き起こり、それは黒い竜を飲み込んでいく。
しかし、その凄まじい火力も竜の外皮を少し焦がす程度の結果に終わる。
「さすがの威力だ。……と言いたいところだが、硬質の鱗で囲まれたヴリトラの装甲はそう簡単に貫けんぞ」
次はこちらの番だと、そう言ってガルゴは大きく口を開ける。
そこから放たれたのは黒い雷のような衝撃波だ。
まともに喰らえば無事ではいられないことを瞬時に察し、俺たちは散り散りに回避。
その着弾点から逃れるも、そこから生じた風圧に飲まれて大きく後退させられる。
「きゃあ……!」
「くっ!」
地面に大きく穴を開け、瓦礫が観客席まで飛ばされる。
ギルドメンバーたちの防護で観客に被害は出ていないようだが、ガルゴが力を振るい続ければ多くの被害が出ることは明らかだった。
「まだまだゆくぞ!」
今度は立て続けに
一度、二度と俺たちはその攻撃を躱しつつ、反撃を試みる。
「エアリアルドライブ――!!」
「バーストストライク――!!」
「ククク、無駄だっ!」
ルルカとクリス副長が攻撃を試みるが、竜の体には傷一つ付けられていない。
そうする内に、距離を詰められ――、
「ルルカっ!」
体勢を崩したルルカに向けて鋭利な鉤爪による攻撃が迫る。
「むっ――」
しかし、その軌道は予期しない方向からの攻撃によって逸らされた。
「微力ながら協力しますよ!」
「私も助太刀致しますわ!」
「俺たちに勝ったんだからな! ちゃんと倒してくれよ、大将!」
そこに現れたのはキール協会長の他、マリベルさんやアデル三兄弟など、大武闘会で戦ったギルドの人たちだった。
「小癪な。まずは貴様らから葬ってやろう」
「マズい……!」
ガルゴが攻撃を仕掛けてきた連中の方へと回頭し、大きく口を開けた。
先程の咆哮波をまた放つ構えだ。
「させるかっ! 称号付与、《豪傑》、《画竜点睛》――!」
俺は跳躍し、竜の頭部めがけて刺突剣技、《ライトニングバッシュ》を繰り出す。
捉えた。
そう思った次の瞬間。
――シュウン。
「なっ……!?」
ガルゴが纏った黒い邪気のようなものに触れると、剣が腐食していく。
崩れ落ちた剣がガルゴの体に届くことはなく、空中で無防備になった俺に向けて鉤爪が横払いに振り回された。
「もらったぞ、アリウス・アルレイン!」
「くっ!」
――これは喰らうか……!?
そう思って身を構えるが、
「師匠っ!」
横から吹いた突風によってガルゴの攻撃は空を切る。
ルルカが咄嗟に放った風魔法により、俺はガルゴの攻撃範囲外に逃れたようだ。
「ほほう。見事なものだ。良いギルドメンバーを持ったようだな」
「師匠、大丈夫ですか!?」
「大丈夫だ。助かったよルルカ」
「いえ……。でも、師匠の技でダメージを与えられないとなると、どうすれば……」
「ああ。私も先程から攻撃しているが、ここまで硬いとはな……」
ルルカとクリス副長が揃って呟く。
「そら、考えている暇は無いぞ!」
「キャッ……!」
「ぐあっ……!」
「ルルカ! クリスさん!」
ガルゴが地面を叩きつけ、飛んできた土塊にルルカとクリス副長が弾き飛ばされた。
無作為に飛ばされたそれはキール協会長たちにも直撃し、《閃光》の称号付与で何とか回避した俺だけが残る。
「さあ。そろそろ決着といこうか、アリウス・アルレイン」
「くそ、どうすれば……」
最も攻撃力の高いライトニングバッシュでもガルゴには阻まれてしまった。
それに、先程ガルゴが放った黒い邪気によって剣は腐食し、俺は武器を失っている。
そうして次の一手を決められずにいた俺の背中に、そっと手が触れた。
「アリウス様」
かけられた声に振り返ると、そこには白い翼を生やしたリアが立っている。
こんな状況だというのに、リアは何故か優しく笑っていた。
「アリウス様に私からお渡ししたいものがあります」
「渡したいもの?」
聞き返した俺の口を何かが塞ぐ。
それがリアの唇だと気付くまでに少し時間がかかった。
「……!?」
理解し、一瞬、時が止まる――。
カシャリと妙な音が聞こえて、それが何なのか考える余裕もなく。
そして、触れたリアから何か暖かい力が流れてくるのを感じる。
俺はその力が何なのか、すぐに理解することができた。
――これは……。
「んっふふー。アリウス様の唇、いただいちゃいました」
リアがほんの少しだけ赤面してはにかむ。
あまりに場違いな表情と行動と言葉。
でも――、
「どうかしました? アリウス様」
「いや、何かリアらしいなって」
「むぅ。何ですかそれ」
リアがそう言って膨れっ面になる。
それを見て俺は少し笑ってしまった。
「でも、ありがとう」
「いえいえ。言ったじゃないですか。一緒に戦うって」
「ああ、そうだったな」
初めて会った時、確かにリアは言っていた。
二人でギルドを立ち上げ、大災厄の魔物を倒そうと。
だから俺は今こうしてここに立てている。
「どうした? 武器も失い勝つことを諦めたか?」
ガルゴの言葉がかかり、俺は再び黒い竜と対峙する。
「いや、お前を倒して終わりにするさ」
「……面白い。手があるなら試してみよ。もっとも、ヴリトラの体を貫くことなどできんだろうがな!」
ガルゴは言い終えると、黒い邪気を纏い突進してきた。
俺は一つ大きく息を吐く。
そしてリアから授かった力を発動させるため、青白い文字列を表示させた。
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【選択可能な称号付与一覧】
●
・聖剣《レーヴァテイン》を召喚します。
●
・
●閃光
・一時的に素早さのステータスがアップします。
●疾風迅雷
・《連続剣技》の使用が可能になります。
●豪傑
・筋力のステータスがアップします。
●紅蓮
・初級火属性魔法の使用が可能になります。
・中級火属性魔法の使用が可能になります。
・上級火属性魔法の使用が可能になります。
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