第40話 レブラとの決戦
「おや、ルルカじゃありませんか」
「あ、マリベルお姉様」
控室に向かうとそこにはルルカの姉、マリベルがいた。
「ああ、誰かと思えば。いつぞやルルカさんと戦ってこてんぱんにやられたオバサンじゃないですか」
「……青髪のチビっ子もお久しぶりですわね。相変わらず減らない口ですわ。決勝で当たったら見てらっしゃい」
マリベルのギルドも順当に勝ち上がってきているようだ。
女性であるマリベルのこと、優勝者の権利である王女との婚約が目的では当然無いだろうが、上級ギルドとしての威光を示すために参加しているのかもしれない。
同じ側の控室にいるということは、俺たちがレブラと戦った後の第二試合で別チームとの対戦になるということだ。
「随分早いんですね、マリベルさん。まだ次の試合までは時間があるのに」
「アリウス様、きっとこのオバサンはルルカさんに一声かけたくて待ってたんですよ」
「そ、そんなことなくってよ!」
マリベルは慌てて否定しているが、実際はリアの言う通りだろう。
上級クエストをめぐる決闘があった後、姉妹のわだかまりは解けたようで、ルルカは時々マリベルと会っているようだった。
以前とは変わって姉と楽しげに談笑しているルルカを見ていると感慨深いものがある。
「アリウスさん。これまでの戦い、見ていました。妹を強くして下さってありがとうございます」
「いえ。俺こそルルカには助けられていますから」
「ふふ。謙虚なことですわね。ですが、負けたら承知しませんわよ。私たちも当然勝ちますから、ぜひ決勝でお会いしましょう」
マリベルと言葉を交わし終えると、ちょうど俺たちのギルドの名前が呼ばれる。
「それではこれより準決勝の第一試合を始める! ギルド《白翼の女神》と《黒影の賢狼》の代表者は前へ!」
「よし、行こう!」
俺はリアとルルカ、クリス副長に声をかけ、控室を出る。
俺たちがアリーナに姿を表すと観客たちからは大きな声援が飛んできた。
最前列にはルコットたちギルドメンバーの姿も見える。そして奥にはサーシャ王女も。
緊張気味な表情を浮かべ胸の前で両手を合わせながらも、まっすぐと俺たちを見つめていた。
そうして俺たちは、中央で腕組みをしながら待っているレブラと相対する。
レブラの横には黒装束に身を包んだ男が三人並んでいた。
これが、昨日レブラの話していた新しいギルドメンバーだろうか。
レブラは無愛想な奴らだと言っていたが、無愛想というより何の感情もこもっていないような……。
「フフフ。野次馬たちの注目を集めているからっていい気にならないでくれよ、アリウス君。ここに集まった連中は新生《黒影の賢狼》が勝利する様の見届人に過ぎないんだからねぇ」
「……」
レブラは昨日に続いてやはり自信満々のようだ。
呪術士ガルゴから授かった新しい力とやらの影響だと思われるが、それでも何故ここまで偉そうに振る舞えるのか疑問である。
――まあ、レブラはいつもこんな感じだったか。
思えばあの日、レブラから解雇通知書を受け取ったことが始まりだった。
解雇通知書を受け取った後ジョブ能力を使用し、レブラに付与可能な称号一覧を見せたところ激怒され、結局その能力を理解されることはなく……。
因縁――、というのは俺の感情を表すのに相応しくないかもしれないが、それでも俺はどこか場違いな懐かしさを感じながら剣を抜く。
リアとルルカ、クリス副長も俺に続いて構えを取った。
「それでは、始め――!」
「ククク。それではお前たち、かかれ!」
審判の開始宣言がなされた直後、レブラが号令を発すると周りにいた黒装束の男たちが短剣を構えこちらに向かってきた。
妙だな。
レブラのジョブ【バトルマスター】は全てのステータスを上昇させる前衛向きのジョブ能力のはず。
だというのに、黒装束の男たちを向かわせた後でレブラは後ろに控えている。
――あれは、何か魔法を使おうとしている?
不可解な行動を取るレブラは気になったが、俺は前衛に位置するクリス副長と一瞬だけ視線を交わして迎撃体制に入る。
「リアとルルカは魔法の準備を! 黒装束の男たちは俺とクリスさんで食い止める!」
「わっかりました、アリウス様!」
「了解です、師匠!」
俺は自身に称号付与を試みる。
選択するのは連続剣技を使用可能にする《疾風迅雷》と筋力ステータスの上昇効果がある《豪傑》。
これで近接武器を持つ黒装束の三人をまず撃退する狙いだ。
黒装束の男たちの動きは素早く、右に左にと揺さぶりをかけながら接近してくる。
「ククク。捉えられるかい? 彼らの動きを!」
後ろでレブラが吠えているが、俺は無視してクリス副長に合図を送る。
「クリスさん!」
「応っ――!」
クリス副長は剣を大きく後ろに引き、力を込めた重撃を放つ。
「フハハハハ! どこを狙っている!」
レブラの言う通り、クリス副長の剣撃は黒装束の男たちを捉えることはなく、前方の地面を激しく穿った。
だが、これでいい。
「「「――ッ!」」」
「何ぃっ!」
クリス副長の剣によって巻き上げられた石畳がつぶてとなり、突進してきた黒装束たちの行く手を阻んだ。
――今だっ!
「三連続剣技、《トリプルアサルト》――!」
俺は突然の出来事に
《豪傑》の称号付与により強化されていたその攻撃は3人の男を捉える。
大武闘会に向けてクリス副長と連携の特訓を行ってきた成果だ。
俺の繰り出した連続剣技は男たちの装備していた短剣を粉々に破壊しつつ、大きく後退させることに成功する。
「リア、ルルカ!」
「アクアショット――!」「ソニックダート――!」
「「「ガァッ……!」」」
すかさずリアとルルカが水撃と風の矢を放ち、その魔法は男たちへともろに直撃した。
男たちは地面に倒れ込み、白目を向いている。
あの様子では戦闘不能だろう。
眼前に残ったのは一人後ろに控えていたレブラのみとなった。
「さぁて。覚悟して下さいよ、糞ギルド長」
「……ク、ククク」
リアが言ったその言葉に対し、レブラの顔に浮かんでいたのは焦燥ではなく、怪しげな笑みだった。
「覚悟するのは君たちの方だ。ボクは駒たちを使って時間が稼げれば良かったのさ」
「何……?」
「見たまえ! ボクが新たに得た《闇魔法》の力を……!」
レブラがそう言って両手を掲げると、その上空には巨大な《黒い渦》が出現していた。
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