第39話 決戦前夜


 レブラは俺たちの座る卓に向かってヅカヅカと歩いてくる。


「ボクとの戦いを前に悠々と食事とは。アリウス君も偉くなったものだねぇ!! A級ギルドになったからって調子に乗るなよ!」


「別に戦いの前でも食事は摂りますよね? 馬鹿なんじゃないですか、この糞ギルド長」

「今更ですよ、リア」

「相変わらず、か……」

「おい、何だその目は!」


 女性陣に言い返され、レブラは不愉快極まりないといった様子でわめく。


「このボクとの戦いを前にして優勝とは、ナメられたものだよアリウス君。確かにギルドランクについて今は君の方が上かもしれないが、まだ戦闘において優劣を決したことは無いはずだ」

「レブラ。お前じゃアリウスにはまず敵わないと思うが? 《黒影の賢狼》に私がいた時も何度か報告を聞いているはずだろう?」

「大きなお世話だよクリス君。ボクだってあの頃とは違うんだ。君たちのように恩知らずなギルドメンバーだって不要さ。ボクは新たな力を手に入れたんだからねぇ」


 レブラはわざとらしく髪をかき上げる。

 その様子をジトッとした目で眺めていたリアが呆れながらも問いかけた。


「大した自信ですねぇ。そもそも何で大武闘会に参加してるんです? 大人しくギルド再建してればいいものを」

「フフフ、愚問だね。この大会に優勝すればあのサーシャ第三王女と婚約することができるんだよ? あの見目麗しい乙女を我が物にできるなど、男としてはこの機を逃すわけにはいかないだろうに」


 レブラは言い終えると口角を嫌らしく上げていた。


「うわぁ、キモいです」

「ええ。100点で気持ち悪いです」

「確かにこれは不愉快だな」


 女性陣がレブラに向けた目はゴミを見ているようだった。


「王女をボクのものにしたとなれば王族だって協力を惜しまないはずさ。そうなればギルドも再建することができる。ハハハ! 完璧なプランだろう!」


 いや、プランって言うほどのものじゃないのでは?

 そう思ったが言葉には出さないでおく。


 傲慢な態度は変わっていないが、以前とはまた違った自信に満ちている。

 そんな印象を持った。


「レブラ。お前がさっき言っていた新しい力とやらは、もしかしてガルゴによるものか?」

「おや。ガルゴ君を知っているのか? ククク、その通りだよアリウス君。彼は非常に優秀でねぇ。新生《黒影の賢狼》のギルドメンバーを調達してくれたばかりか、ボクに相応しい力を貸してくれると申し出てくれたのでね」

「何だと?」


 どうやら当たりのようだ。

 やはりレブラは赤眼の男、呪術士ガルゴと関わりがある。


 それにしても、何故あの男はレブラに対して協力しようとしているんだ?

 第一、レブラはあの男の正体について知っているのか?


「まあ、新しいギルドメンバーはどうにも無愛想な奴が多いが、ボクの駒としてはちょうど良――」

「レブラ、お前はガルゴとどういう関係なんだ?」


 そのまま放っておいたら一人で延々と喋り続けそうなレブラを遮り、俺は疑問に思っていたことを突きつける。


「ボクも彼のことは詳しくは知らないさ。ただ、前々からボクに対して援助をしてくれていたからねぇ」

「その援助の目的は? それにお前、あの男の正体を知っているのか?」


 もしかするとレブラは何かに利用されているんじゃないかと、そんな考えがよぎる。

 レブラが事情を知った上であの男に加担している可能性もあるが、どうにもそういう風には見えない。


 だから、忠告をしておくかと思ったのだが。


「うがっ……! ぐっ……」

「……?」


 突然、レブラが額に手を当てて苦しそうに呻いた。


 ……何だ?


「くっ、まあいい。とにかく明日はボクが勝たせてもらう! アリーナでの衆人環視の前で君たちをひざまずかせてやるからな」


 それだけ捨て台詞のように言い残すと、レブラは頭を手で抑えながら足早に酒場を出ていく。


「お、おいレブラ」


 ガルゴとの件も気になるところ、俺はレブラを追って酒場の外へと駆け出すが、何故か酒場を出たばかりのはずのレブラはどこにも見当たらなかった。


「邪魔しちゃ悪いと思って黙ってましたが、あのギルド長、中々の屑ですな。本当に、アリウスさんとクリスさんはよくあんな男の元で仕事してましたね」


 卓に戻った俺に記者のパーズからそんな声がかかる。


 まったく同感だとリアとルルカが頷き合っていて、俺はクリス副長と顔を見合わせて苦笑した。


 ――しかしレブラのあの様子、気になるな。それに、新しい力を得たと言っていたが、一体……。


 俺は頭を振り、いずれにせよやるべきことは大武闘会で優勝し王族たちを救うことかと気持ちを切り替える。


 そうして、レブラとの決戦の前夜は過ぎていった。


 その次の日、王都を巻き込む大事件が発生することになるとは予想もしないままに――。

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