半世紀前の音
私の地元には、もう使われていない廃校がある。町おこしにも使われておらず、ただ自然に身を任せて朽ちるだけのむなしい建物だ。
私が生まれる前には、少子化と市町村合併で既に廃校と化しており、昭和末期から平成初期までは子供の声がしていたらしい。
校庭には学校の備品が散らばっている。撤去すらされない机、椅子、黒板、ロッカー。そして、校歌斉唱の必須アイテムであるピアノ。私は白を失った白鍵に手を添え、調律のされていないメロディーを奏でる。猫を踏めない猫踏んじゃったが、校庭に響いて、自然の中へ消えていく。
そんなふらふらした音を奏で、聞きながら、ふと、どうしてここに来たんだろうな、と考える。そこそこの山の中は、夏にも関わらず私の肌をひんやりと冷やしてくれる。おかげでここに来るまでに汗をかくこともなかった。けど、そんなことは関係ない。多分私は今日が雨でも、今日が冬でも、今日この時間にここへ来ただろう。猫を踏めない猫踏んじゃったを奏で、聞いて、そう思う。そんな必然・予定調和・運命とでもいうものを私は今日このズレたピアノに感じているのだ。
一曲が終わる。白鍵から離れた指は、泥や砂やら、堆積されていたもので茶色くなっている。運命の時間はこれで終わりだ。山を下りて家に帰るころには日も落ちているだろう。私は一切の躊躇なく、流れるように、ピアノへ背を向け、来た道を引き返す。
廃校の敷地から一歩足が出ると、廃校から追い出すように、急な風が私の背を押した。その瞬間に、特別な時間は本当に終わったのだという実感が腰の上から全身に行きわたった。
テキトウ @3sugi
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