第168話 エルフな勇者さまは、日本で商いを始めました!(7)

「へぇ~、そうなんじゃ?」


「北欧って言ったら。ベ〇サイユの薔薇?」


「ベ〇バラかね?」


「ベ〇バラはフランじゃろぅ。じゃけぇ、違うんじゃない?」


「どうじゃろうか?」


「北欧っていったらバームクーヘンの国じゃないかね?」


「えっ? どっち?」


「西? 東? どっちのドイツ?」


「ソ連じゃろぅ。ソ連! あの寒い国の出身なんじゃ、ないんかね? 珍味屋のお兄さんの嫁さんは……」


「ああ、美人が多いいと言うしね」と。


 まあ、こんな感じで、パートのお姉さま達皆は、家の奥さまの出身地、国を自分達の思っている国で、勝手にそこだと決めて解釈し。納得。『うんうん』と、頷いてくれたから。


 エルの夫である僕にこれ以上は尋ねる。問いかけてくることもなかったのだが。


 でもね、この後に、お姉さま達の興味がエルではなく、僕へと移り変わり。


「お兄さんが立っとくより。お姉さんが立っとく方が売れるんじゃない?」


「──いつもよりも、売れとるように見えるよね?」と。


 パートのお姉さま達の中ら声が、意見がでればね。僕の方へと一斉に視線が向き、注目──。


 その後は?


「さっき、お兄さんがお姉さんの横に立っとったら。不満のある顔。拗ねたような顔をしていたから。お客さんが寄ってこんかったけぇ。お兄さんは販売の邪魔になるけぇ、車に乗っとる方がええんじゃない?」


「ああ、その方がえぇかもしれんねぇ?」


「お兄ちゃんが奥さんの横から退いたら。直ぐにお客さんが集まってきたもね」


「ああ、確かに……」


「うちも、見た。見た」


「あっ!私も見た」


「見た、見た。うちもね」と。


 僕の話題。話題なのだが。完全にこの僕を。エルの夫である僕のことを愚弄。侮る言葉、台詞を。広島のおばちゃんだから平然と告げてきたのだ。


「お兄さん。あんたぁ~。邪魔ぁ~。商売の邪魔になるけぇ~。車に乗ちょきんさい~」とね。


 だから僕は心の中で『ムッ』と不満。不満を募らすから。僕自身の顔が自然と強張り。頬が引きってくるのがわかるから。


「そ、そうですね。そうします……」


 パートのお姉さま達へと作り笑いを浮かべて車にて待機することに決めたのだ。不満ばかり募らせた顔を、いつまでもしておく訳にはいかないだろう。


 それでも時々エルの様子。奥さまの様子を不安な顔で見詰めにきては、「(大丈夫だろうか?)」と、思う。また思っていれば直ぐに。


「(一樹、大丈夫だから。車で休んでいて。何か遭ったら知らせるから)」と。


 エルが僕の脳へと直接話しかけ説明をしてくれるから。


「(うん)」と、僕は頷き。その場を後にして、自身の車へと重い足取りで向かい。時間が経つのを只ひたすら待つ生活が、ここ一週間ぐらい続いているといった情けない様子の僕だけれど。


 それでも、家のエルフな、神秘的な奥さまが、毎夜のようにクリスマスツリーが、点滅しながら光る様子を楽しそうに見詰め。光りに照らされる美しく神秘的な顔、容姿が映り出されるのは。夫の僕自身も毎日見ていて飽きないし。大変に幸せを感じるから。


 あの日。あの夜。寒い日の夜に、宇宙人さんを拾い。保護。連れて帰ってよかったと、僕は心から思う。




 ◇◇◇◇

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