第4話 おいしすぎて、どうしよう!?

「たしかに、ある程度の【料理】スキルは身に付けさせたっけ?」


 ボクはセーナさんの職業を、【コック】にしていたのである。

 後衛ヒーラータイプの職業で、どうせなら楽しく回復する手段が欲しかった。

 治癒なんて魔法でブワーってやるほうがお手軽なのだが、味気ない。

 採掘など、レンジャースキルも高いため、多少ソロで戦闘もできる。


「はい。水道や家電などの知識はノゾムさんの記憶を拝借していますので」


 本当だろうか。セーナさんが追い出されたゲームって、剣と魔法のファンタジー世界だ。

 現代文明なんて皆無である。

 IHどころかレンチンもできないぞ。


「ならば、実際に見たほうが早い」


 ユキヤが言う。


「わかりました。なにか食べたいものはありますか?」

「では、ハンバーグを」


 ゲーム内で【料理】のスキルを持っていると、最初に作れる食事だ。


 なので、ハンバーグを作ってもらった。


 さっそく、セーナさんは玉ねぎをみじん切りにして、耐熱皿へ。


「玉ねぎを五分ほどレンチンすると、甘みが増すんですよ」

「どこで覚えたの?」

「えっと」


 なぜかセーナさんは、ボクの勉強机を漁る。


「これですね。このレシピノートです」


 それは、ボクのおさななじみのお姉さんが残していった、自炊用ノートではないか!

 ボクは読んですぐ棚に戻したっけ。専門的すぎて。


 しかし、セーナさんはIHコンロまでラクラクと使いこなす。


「できました」


 あっという間に、ハンバーグが完成した。まったく焦げ付いていない。 


「うまい!」


 なにこの奇跡!?

 ゲームキャラに料理を作ってもらったことさえ、神がかっているのに。


「お嫁さんになってください」


 人のアバターを口説くなよ!


「ありがとうございます! あの、お世話させていただきます!」

「ほら、セーナさんも言っているじゃないか」

「いえ。お世話をするのはノゾムさんだけです」

「おおおう」


 セーナさんの手を取ろうとしたユキヤが、手を引っ込める。


「やはり、わたしはノゾムさんから生み出された存在ですので」

「まあ、オレもノゾムの分身とお付き合いとかは、複雑な気分になるからな」


 ユキヤほどのルックスなら、他の女子たちも黙ってはいないだろうし。


「それはそうと、問題点はひとつある」

「うん。アキホ姉さんだよね」


 ゲームをしない彼女が、この状況をどう見るのか。


「あの、アキホさんとはいったい?」


 質問をした直後、こちらに向かって激しい靴音が鳴る。


「こんばんはーっ! アキホお姉さんがやってきましたよぉーっ!」


 ユキヤにメガネをかけさせたような巨乳お姉さんが、玄関からバタバタと現れた。

 両手には食材が詰まったマイバッグが。


「姉さん、ちょっと落ち着いてくれないか?」


 弟のユキヤが、アキホさんをなだめる。


「あらあら?」


 ボクのおさななじみであるアキホさんが、セーナさんを見て硬直した。


「どうして私そっくりの女の子が、ノゾムくんのおうちにいるの?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る