第41話 出会うとき
俺にしたって次元接続体と戦うのは初めてだった。
相手は超人だ。恐怖はある。強い恐怖が。
だが、恐怖の縛めを超えて、身を絞るようなアドレナリンが心地いい。俺は燃えた。
「うぉおおおおッ!」
「くたばれッ!」
烏羽は腕を振り下ろす。俺はすでにステップしていた。ずん、とコンクリートの地面がひび割れる。こんなもの、まともに食らったらただじゃ済まない。
間合いまではあとワンステップ。俺は強化された脚力で斜めに跳ぶ。間合いに入った。
烏羽の胸に手のひらを当てる。
勝ったか?
「スタンショット!」
電撃を放ったが、烏羽はビクリと震えただけだった。
「痛えなッ!」
「うぐっ!」
俺は烏羽に横殴りされた。ガードしても吹っ飛ばされる。スタンショットは効かなかった。
烏羽は衝撃波だけじゃない。セツみたいに怪力と頑丈さも持ち合わせている。
地面に転がるも、命がかかっているので痛みをこらえて素早く立ちあがる。
烏羽が腕を振り下ろす。俺は避けた。コンクリートの地面が砕ける。
優位な点としては万筋服を着た俺のほうがいくぶん素早い。
二歩跳んで再び間合いに入る。
「くらえ!」
俺は烏羽のあごを殴りつけた。
烏羽はぐるんと回って倒れたがすぐ起きあがる。その顔には驚愕が刻まれていた。手加減して殴っても倒せない。だが、予想外に重い一撃によって、驚かせることはできたようだった。
と、衝撃。
俺の身体が宙に飛ぶ。
烏羽に集中していたため、赤い車のドライバーにはねられたのだった。
「うぐ!」
万筋服の肩から落ちたのでケガはしていない。意識も確かだ。
態勢を立て直すと、烏羽が車に乗りこむところだった。赤い車は急発進して逃げだす。
俺はイサムのもとへ走った。
「追うぞ、イサム!」
「うぇーい、もう無理だぜ。消えちまった」
「なに?」
振り返ると、もう赤い車は見えなかった。
イサムが諦めたように言う。
「透明化だったね」
「そうか……」
やはりやつらの能力は、博士の推測どおり衝撃波と透明化だったか。
俺たちはしばし立ち尽くした。
イサムが鼻を鳴らした。
「命拾いしたな、おっさん」
「なにが? よゆーだっただろが」
「透明化のやつがいたぜ。やつらが冷静に透明化して衝撃波を撃ってきてたらおっさんはイチコロだった」
言われてみて初めて背筋が寒くなった。そのとおりだ。俺はため息をついた。
「こっちが予想外に手強いんでビビったってところか。逃げてくれて助かったな。どうするか? 次はこうもいかねぇぜ……」
「博士に相談するしかないだろ。ところでもうすぐ警察が来るぜ、とっくの昔に通報してある」
「よし」
俺は倒れているヤクザどもを結束バンドで拘束した。どっちのグループにもスーツを着たやつがいて、襟元には代紋を付けていた。
俺はイサムにも見えやすいように、代紋をスマホで撮影する。
「わかるか、イサム?」
ややあって返事がくる。
「わかったぜ。手前のグループが橘組。奥が千垣(せんがき)組だ。烏羽が味方してたのは千垣組だな」
「透明化のやつと衝撃波のやつ、ふたりもいた。諸戸の一味全員が向こうにいると思うか?」
「その可能性は高いな。ふたつの組は抗争しているようだから、次元接続体は強い味方になるだろうしな」
「めんどくさくなってきたな……」
博士から通話が入った。
「ふたりとも無事でよかった。丈くん、君に会わせたい人物がいる。すぐに戻ってくれたまえ」
ヤクザと鉄砲が転がっているんだから説明不要だろう。俺たちは警察への事情説明を避けて、すぐに研究所へ戻った。
イサムのなかで着替えたが、今日の服は特に傷んでいた。サンダル履きだし、あんまり客に会いたいカッコじゃないが、急用みたいだからしかたない。
研究所に戻るとえひめが出迎えた。
「おじさま! 今日はわたしの友達を紹介するから!」
「その人が俺に会いたがっているのか?」
「そ! はい、自己紹介して!」
えひめは後ろにいた女の子を前に押しだした。
一直線の前髪にポニーテール。そこはかとなく華やかさのあるえひめに比べると、ちょっと地味な感じのする子だった。
その娘は真っ赤に上気して、目を泳がせながらしどろもどろに言った。
「あ、あの、はじめまして、た、た、たちばな、橘香華子といいます……」
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