第40話 撃ちあい

 俺は今日も消炎鎮痛薬を塗りたくっていた。昨日の今日じゃ痣もまだ鮮やかだ。

「まだあちこち痛えよ、昨日は風呂に入るのも難儀したぜ」

 昼のパトロール。イサムの車内で俺は愚痴った。イサムが鼻を鳴らす。

「えひめにもっと鍛えてもらえよ、おっさん。万筋服がすごくても中身が鈍ってたら話にならないだろ」

「余計なお世話だよ!」

 軽口が飛んでくるかと思いきや、イサムは沈黙した。直後に鋭く言い放つ。

「銃声だぜ、うぇい!」

「真っ昼間だぞ! 確かか?」

 昼間じゃなくても大事だが、俺も混乱したのかもしれない。

「確かにオートマチック拳銃の発砲音だったぜ! こっちだ!」

 イサムは車体を急ターンさせて、坂道を登っていく。

 一分もせずに倉庫地帯へ入った。銃声が連続して爆ぜる。

 大きな倉庫が並ぶ前で、ふたつのグループが争っているようだった。どちらも車を盾にして銃を撃ちあっている。

 手前のグループのほうが三人、奥はふたりだ。

 あのなかへ飛び込んでいくのは流石に嫌だが、仕事とあってはしかたない。

「やつらの背後までつっこめイサム!」

 俺は怒りを醸成した。

 まったく身体が痛えのに!

 真っ昼間からいい歳こいた大人どもが!

 鉄砲遊びか、ふざけんじゃねぇぇぇ!

 俺は怒りに燃えた。

 身体が熱くなり、服が破けて万筋服が現れる。

 イサムが突進する。

「うぇえええええい!」

 途端に銃口がこちらに向けられたが、イサムの車体は銃弾をものともしない。グループに肉薄して急停止。俺は間髪をいれずに飛びだした。

「スタンショット!」

「あがっ!」

 ひとりが倒れる。あとふたり。

「スタンショット!」

 こいつも問題なく倒れた。そして残るはひとり。そいつが俺に向けて引き金を引く。発砲音。

「ぐっ!」

 弾丸は俺の腹に命中した。衝撃で身体が縮こまる。だが倒れるほどじゃない。俺は耐えた。

 俺を撃った男は驚きに目を見開く。その隙に間合いを詰めた。

「スタンショット!」

「うぐっ!」

 最後の男も倒れた。こっち側のグループは全滅だ。だがもう一方も始末しなけりゃならない。

 むこう側からは銃声が止んでいた。そちらの男が声をかけてくる。

「味方か?」

「そうだ」

 もちろん嘘だ。俺は答えながら近づいていく。敵はふたり。

「あんたずいぶん強いみたいだが、えらい格好してるもんだな」

 スーツの男が銃口を下げた。

 もうひとり、スタジャンの男が歯の欠けた口で笑った。

「こっちは強え味方いっぱいいるじゃないすかー。この抗争負けるはずがないっすよー」

 スーツの男が答える。

「不意打を食らったが、カラスバを呼ぶほどのこともなかったな」

 カラスバ……? どこかで聞いたような言葉だ。なんだったっけ……?

 いや、それより今は! 間合いに入った!

 俺は無言で握手を求めるように右手を差しだした。

「お、おう……?」

 スーツの男は銃をしまって俺の右手を握ろうとしてくる。甘い!

「スタンショット!」

 スーツの男の胸を電撃で貫く。倒れた。もうひとり。

「スタンショット!」

 スタジャンの男もわけがわからないといった顔で気絶した。

 ふぅ、これで一仕事終わった。あとはこいつらを拘束しておけば警察が来るだろう。

 イサムへ戻ろうとしたとき、赤い車が猛スピードで突っ込んできた。

「うお!」 

 はねられちゃたまらない。俺は強化された跳躍力で停まっている車の屋根へ飛びあがった。赤い車は俺をはね損ねて急停車した。

 中からのっそりと男が現れる。

 えらの張った逞しいあごをした、背の高い男だった。 

 俺は、この顔に見覚えがある。研究所のモニター室で見た。

 そうだ、こいつがカラスバ! 烏羽鉄火(からすば・てっか)、諸戸の一味だ!

 烏羽は俺をにらみながら両腕を振りあげる。

 俺は嫌な予感がして、飛び退った。

 烏羽が両腕を振り下ろしたとき、ずんという衝撃音とともに、俺のいた車が潰れた。

 こいつだ。こいつ、烏羽鉄火が衝撃波の男だった。それがいま目の前にいる。

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