第27話 簡単じゃない
俺たちはおとなしく帰路へついた。
なんでも屋アクロスザスターは限りなく黒だ。とはいえ「盗んだ金を出せ!」と殴り込むわけにもいかない。直接的な証拠がないのだから、あの店舗から金が出てこなかったら大事だ。
走る車内、俺はイサムの運転席で腕組みした。
「イサム、あの女は間違いなく犯行グループにいたんだな?」
「うぇーい、なにごとも百パーとは言い切れないぜー。俺は九十パーセントっていったはずだぜ?」
「そうだったな。でもこんな偶然の一致もないだろ。やつらが犯人だ。で、どうするんだい、博士?」
助手席の世ノ目博士は歯切れの悪い言い方をした。
「我々は次元接続体の犯罪を予測して作られた組織だが、なんにせよ初の事件だ。このあとどうなるかわからんね。もちろん、強盗の検挙が最終目的だが。今回得られた情報は警察に渡す。通常捜査で外堀を埋めてもらいたい。相手が悪あがきして大捕物がはじまるまで、我々の出番はもうないかもしれない」
「ふーん、そんなもんか。楽に終わりゃいいけどな」
「あとは今日仕掛けたカメラでなにかしっぽがつかめるかもしれない。イサム、さっき仕掛けたA一、二、三の画像を出してくれ」
「うぇーい」
返事のあとすぐネガティブなセリフが続く。
「こりゃあダメだぜ、博士」
フロントガラスの内側にノイズの画像が三つ映しだされた。どのカメラからも映像が届いていない。
博士は慌てた。
「どういうことだ? 録画はどうなってる」
画像が出た。俺の応対をしたあの女が一個ずつカメラに触れていき、そのたびにカメラがダメになっていく。カメラは三台あったから、その様子がわかった。女は迷うことなくカメラへ一直線に移動していた。
博士はあごに手をあてて唸った。
「うぅむ、そういうことか……。イサム、犯行グループで彼女がマッチしたのは現金輸送車からケースを取りだした人物かね?」
「ビンゴ。そのとおりだぜ」
俺は解説を求めた。
「どういうことだよ、俺にも教えてくれよ」
博士が答える。
「彼女の能力は電子機器を操れるんだ。現金輸送車の電子ロックもその力で解除した。おそらく電磁波の類を感知することもできるんだろう。それで不審な電波を出しているカメラに気づいた。この能力はオンオフが自在なはずだ。そうでなければ電磁波に溢れた現代社会でまともに生活することはできない。カメラは彼女が能力をオンにするまでは気づかれなかったんだ」
「こっちが次元接続体の能力を使ったとしても、向こうも次元接続体だと簡単にはいかねぇな!」
それから気になったことを聞く。
「あの姉ちゃん、俺がカメラを仕掛けたと思うかな」
「人並みのカンがあれば関連を疑うだろうね。だが、そこはもとより化かしあいだ」
「菓子折りにはなにも小細工しとかなくてよかったな、とりあえず」
しばらく黙ったあと、博士は口を開いた。
「こっちとしても手がないわけじゃない。たぶん遠距離から望遠で撮れば気づかれないはずだ。彼女の力の範囲外になるかもしれないし、範囲内に収まったとしても遠く離れればそれだけ電磁波のノイズは膨大に増える」
俺は頭をかいた。
「あと敵の能力で推測されるのは念動力に麻酔、透明化か。先が思いやられるなぁー」
俺はあらためてそら恐ろしさを感じた。敵は次元接続体、超人だ。一筋縄ではいかない。
ケイオスウェーブに曝されると次元接続体になる人間がいる。ケイオスウェーブは不可視、不可知の流動体。太古の昔より局所的に発生していた自然現象。
それだけか。何か気にかかる。
「この前、博士言ってたよな、ケイオスウェーブは昔からあったって」
「そう考えられている。ケイオスウェーブは太古から稀に発生し、局所的に超人を出現させた。その痕跡が神話や伝説だよ」
「神話や伝説って、神やヒーローのほかに怪物も出てこね?」
「不吉な考えを抱くね、君は。その点について危惧している者もいるとは聞くが、ほとんどの研究者は気にしていない。次元接続体同士の争いが神と怪物に置き換えられたと考えられている」
突然、イサムがスピードを落とした。
「うぇーい、なにか揉め事だぜ」
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