第16話 能力測定

俺の初仕事はミーティングとなった。言い方を変えれば事情聴取ってやつだった。応接間でそのまま行われたので、ロボのいれてくれたお茶が無駄にならずに済んだ。

 メモを取りながら世ノ目博士が聞いてきた。

「ではそのAIには直接触れていないんだね」

「でも刺されたよ。鉄の棒を投げてきて、それを受け取った。すべての空間を含めて自分だと言っていた」

「ふうむ、そういうものか……」

 世ノ目博士は顎に手を当てて考え込んだ。

 俺は請われて万筋服を手に入れたときの経緯を話していた。さらに付け加える。

「AIの呉羽が外に出られるのかしらないけど、外の世界に干渉はできるぜ。俺に手紙を送ってきたくらいだし」

 黙って聞いていたセツが口を開く。

「でも犯罪的傾向はない様子ですし、観察したまま放置でいいんじゃないでしょうか」

 世ノ目博士は頷いた。

「いますぐ脅威となるわけではないようだな。もしかすると向こうは我々が監視していることも知っているかもしれん」

 それだ。俺はかねてよりの疑問を聞いてみた。

「そもそもなんであんな農機具倉庫を監視しはじめたんだ? 知らなけりゃ不思議なところなんてぜんぜんないのに」

 世ノ目博士の眼帯がきらりと輝いた気がした。

「我々は広域にわたって様々なものを計測しているが、副次的に計測しているもののなかに次元の変動を感知した。それがあの農機具倉庫だったわけだ。なにがあるかもわからず観察を続けるほかはなかったが、君の親戚の家は農家で木々に囲まれてるから、監視カメラの取り付け場所には困らなかった」

「そこへ俺がノコノコやってきて万筋服を披露しちまったというわけか……」

「そういうことだ。今は知れることも少ないが、なにがあるかはわかった。状況は大いに進捗したよ」

「それで次の仕事は? パトロールか?」

「今日は君のパワードスーツ、万筋服の能力を測定しよう。自分の力を知っておくことは大切だ」

 そこで俺たちは地下の施設に移った。いつ裸に戻ってしまうとも限らないので、セツはいない。俺と博士の二人だけだった。

 更衣室で裸になり、むかっ腹を立てる。体が万筋服に包まれると、トレーニングルームような場所へ出ていった。

精神を集中させて、わざと苛ついた気分を維持しながら言う。

「本気で怒ってないからいつ戻るかわからない。手早く頼む」

「では、手順はこうだ……」

 説明が終わり、測定が始まった。

 俺は測定機器を殴り、または蹴る。垂直跳びもした。

 結果、パンチの衝撃力は六トン。ヒグマも殺せる。キックは機械が壊れて測定不能となった。おまけに軸足を置いていた床にはひびまで入った。少なくとも三十トン以上の衝撃力があるという。ダンプカーも蹴り転がせる力だ。

 垂直跳びも測定不能。

 天井までの高さは六メートルあるというのに、思いきり跳んだら天井に激突しそうになってしまった。頭をかばって手をついたところ、そのまま体当たりすることになり、天井にもひびが入った。

 何度目かの変身解除となり、素っ裸の腰にタオルを巻く。

 水深二メートルになるプールもあったので、俺はかねてよりの懸念を口にした。

「俺、たぶん水に浮けないと思うんだよね。試してみていいか?」

「なるほど、水が弱点になる可能性があるのか。試してみたまえ」

 俺はタオルを取るとプールサイドへ行き、はしごを伝わってゆっくりと水のなかに入っていった。水は冷たいがこれを確かめておくことは命にかかわる。我慢して身体を沈めていく。

 首まで浸かったところでだいたい感触がつかめた。やはり沈むだろう。

 俺は息を吸うとはしごから手足を離した。すーっとまっすぐ身体が沈んでいく。

 やはり浮くことはできない。重りもなしで水底を歩くことができる。それならそれで試したいこともあった。水底でむかっ腹を立て、万筋服を着る。

 水のなかで身を屈め、思い切り床を蹴った。ミサイルのように身体が上昇する。俺はさらに水中でドルフィンキックをした。

 思惑通り、水しぶきを上げて水面を飛び出し、プールサイドに着地する。

 水は弱点であり危険ではあるが、簡単に死ぬこともなさそうだ。

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