第55話 5-5 米国軍人


「そう、それがあなたが短期間で達人のごとき力を手に入れたわけね」


 静香は理解していた。自分も武に身をおくものとしてイメージの大切さはわかっている。

武術だけではない。スポーツや格闘技、あらゆる体を動かす行為においてイメージを作ることがどれほど重要か、そして完璧なイメージが、完璧な動きを生むことも。


「あなたが私の攻撃を受けたのは理解したわ。じゃあ、最後の一刀は?」


「あぁ、あれは大したことではないよ。ほかのギフトも同様に開花したが、どちらも身体能力の倍率が上がっただけ。その力を最大限に発揮した居合切りそれだけさ」


 きっとそれもただの居合切りではないのだろう。人間の身体能力を超えた私たちがどう動かせば最大の威力がでるのか、なんどもなんども頭で反復した結果のたまもの。

私では。真似するには若すぎる。静香は、脳内で何十年と繰り返してきた居合切りを想像する。



「そろそろつくころだね」

八雲さんが口を開いた。修行のことや三か月の間にあったことなどを話していると時間はあっという間にすぎ、アメリカへ。






「そういえば、八雲さん。僕英語なんかしゃべれませんよ?」


「ん? 英語? 何を言っているんだ? 話す必要などないだろう」


「え?」


ブブブッ──


「すみません、僕何言ってるんだろう」

何だ今の違和感。脳が直接いじられたような。

言語は違っても意味は通じるはずなのに。

得体の知れない悪寒を感じながらも剣也は思考をやめる。


八雲は首をかしげるが、それ以上は追及しない。


「シートベルトを着用してください。まもなく着陸します」

アナウンスが流れた、いよいよ着陸か。


そして一同は、アメリカの国土に足を踏み入れる。

出迎えられたのは、米国の軍人たち


「長旅ご苦労様です! 日本の戦士たちよ! 私はビアンカ少佐であります!」

年は僕たちと変わらないだろう。高校生ぐらいのその金髪ロングの女性は軍服を着ていた。

胸はでかい。自然と視線が下りる。これが血というやつか。


「米国では、日本のような学園ではなく、全員が軍に所属することになっているからね、きっと彼女もナンバーズだろう」


初めて海外の事情を聞いた。

確かに軍に所属するのは米国らしい。

日本では、まず間違いなく承認されないが。


「本作戦の、米国代表として参加いたします。ともに戦えること光栄に思います。よろしく。日本の英雄殿」

そういってビアンカ少佐は、笑顔で剣也へ握手を求める。

そういえば、あのゴブリンキングとの動画は世界中で流されているんだった。

海外でも人気といっていたな。少し照れ臭い。



「あぁ、よろしく」

握手を交わした剣也が感じたものは、すさまじいまでに力。

まるで巨大な岩を触っているかのような感覚。

この人のギフトは一体。



「では、挨拶も済んだことだし、作戦会議と行こうか」

そして一同は、軍用車に乗り込みNY付近の軍事施設へと向かう。


「ビアンカさんは、何のギフトなんですか?」

彪雅が不躾に聞く。


「秘密ですよ! 一応軍事機密扱いなので。といっても作戦会議のときに話しますけど」

ビアンカが、剣也の口に指でふたをする。

赤くなる剣也。発育の良さは日本人とは比べ物にならない。視線が下を向く。


「剣也、みすぎ」

静香からのカツが入る。


「はい!」

姿勢をただして、剣也は前を見る。すみませんでした。


「まだ、復興は進んでないんですね」

倒壊したままの建物を見て剣也は、つぶやく。


「お恥ずかしい限りですが、正直目途もたっていません」


やはり日本と違って海外の影響は甚大だったようだ。

特に地震なんか滅多に経験しない国ではほとんどの建物は倒壊したのだろう。



「つきました。ここがNY奪還作戦の最前線基地です」

 鉄格子に囲まれ、軍用へりが立ち並ぶ、そこはまさしく軍事基地

剣也一同は、案内されるがまま一室に迎えられる。

そうして三名が部屋に入る。

その部屋には大きな机を囲むようにして、数十名が座っていた。

各国の代表、そしてその後ろには二名の高校生ぐらいの少年少女

きっと、他の国も代表の大人と、二人のギフト所持者がこの部屋に入っているのだろう。


「ようこそ! 日本の英雄たち!」

招かれた部屋に入るや否や、大きな声で出迎えられる。

年は50は超えている。まさしく軍人という風貌のその初老の男は、大げさなパフォーマンスで剣也を出迎える。



「君が、かの有名な日本のサムライ 御剣剣也君だね。会えてうれしいよ。わたしはカーネルだ。カーネル中将と呼んでくれ。米国の代表としてこの場に座っている」

カーネル中将は、席を立ち、剣也の前まで来て握手を求める。

剣也はそれに応じる。軍人の手で。ごつごつしていて硬い。

きっとたくさんの死線をくぐってきたんだろう。


「では、全員集まったため作戦を発表する」

カーネル中将が、そのまま作戦の概要を説明しようとする。


「まず、NYのドラゴンだが、Aランクであることは確定している。Aランクを討伐したものもここには数名いるはずだ。しかし侮らないでほしい」

剣也は、Aランク魔獣ならもう何度も倒した。

ダンジョンの奥ではAランク魔獣のドラゴンのような存在もいた。

しかし、別に苦戦しなかった。



「Aランクの中にも強さの差はある。最弱のAランクは最強のBランクと大差がないように。その点からいえば、あのドラゴンは調査を重ねた結果最強に分類されるだろう。Aランク最強と。」

カーネル中将は、剣也を見る。

暗にゴブリンキングよりも強いぞと言わんばかりに。


「なので、作戦はこうだ。日本の英雄よ。君がドラゴンと相対し時間を稼いでくれ」

部屋の全員が剣也を見る。

俺ですか?


「君ならばあのドラゴンの攻撃も受け流しながら時間を稼げるだろう。そして攻撃は、各国代表の総火力でタイミングを合わせて攻撃する。概要は以上だ。詳細は手元の資料を見てもらおう」


そういって資料に目を通す。

待機ポイントや、攻撃の合図など、詳細に記されている。


「頼むぞ、少年少女達。この国を救ってくれ」

カーネルは頭を下げる。

同時に各国の代表も頭を下げる。そして翌日 作戦は決行された。






結論から先に言おう。

剣也が一撃でドラゴンの首を落として終わった。

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