第48話 4-10 豚の饗宴
「ここが、一世が入ったダンジョンか」
静香と剣也は、新宿の塔に来ていた。
塔の周りは封鎖され、新宿といえど、人はいない。
二人は、食料と、武器をもってダンジョンに到着した。
食料はいるかわからないが、仮に3日攻略に時間がかかるとすればそれは致命的だろう。
「準備はいいか? 静香」
「ええ、大丈夫、ひゃっ!?」
「手をつないでおこう。どうやって入るかわからない」
突如手をつながれた静香は変な声が出てしまう。
「そ、そうね。それがいいわ、ひゃうっ!?」
「いや、もっと体をくっつけておこう。同じところに飛ばされるとも限らないし」
直後剣也に抱きしめられる静香。緊急事態だから剣也はまったく気にしていない。
それに確かにこの方がいい。これだけ一緒にいれば別々のところになることはないだろう。
静香は頭が沸騰する思いだが、気を引き締める。今から行くのはダンジョンだ。
生還率0% 文字通り死ぬ可能性もある。
「じゃあ、いくよ。静香」
「ええ、剣也」
『No00023 二菱静香並びに、No00001 御剣剣也 認証しました
Bランクダンジョン 豚の饗宴に挑戦しますか?』
「「はい!」」
『はいが選択されました。ダンジョンへの入場を許可します』
そして二人は、抱き合ったまま転送された。
あたりは薄暗いが、見えないわけではない。
至るところにたいまつのようなものが立てかけられているので、結構明るい。
床は石畳、壁も石畳 これぞダンジョンというような雰囲気を醸し出す。
この部屋はとても広いが、先に扉が見える。この扉を開くと先に進めるのかもしれない。
「よかった、ひとまず同じところみたいだな」
「きゅー」
剣也は思わず、強く静香を抱きしめていたことを忘れる。
「ご、ごめん。痛かった?」
「だ、大丈夫よ」
剣也の胸板厚かった。それにとてもいい匂いがした気がする。
静香は抱きしめられながら剣也の匂いを嗅いでいた。実は匂いフェチだと気づくのは先の話。
二人が、傍目にはいちゃついていると、魔獣が現れる。
現れた魔獣は、オークジェネラル。
剣也にとっては二回目、静香にとっては初めての相手。
Bランク魔獣は本来トップクラスの脅威。
しかし、この二人の前にでたのが運の尽き。
日本のトップ2の前ではBランクなどすでに敵ではない。
静香が切りかかる。戦乙女で身体能力3倍
オークジェネラルに大きな傷を与える。オークジェネラルがお返しとばかりに斧をふるう。
しかしそこは剣也の領域、静香を守るように体をいれ、思考加速で受け流し直後発動するのは、護りの剣豪
オークジェネラルは回避行動をとろうとする。しかし動けない。
静香のCランクギフト パラライズ 有効打を与えた相手を一定時間動けなくする。
そして、動けないオークジェネラルはあっけなく剣也に首を飛ばされ息絶える。
見事なまでのコンビネーション。
二人は戦闘においては、息ぴったりのコンビ
Bランク、いやAランクですら相手ではないかもしれない。
「ポイントがもらえないな。ダンジョンではもらえないのかもしれない」
「そうね。初めてのことだらけだし、できる限り調査も進めましょうか」
二人が扉を開けて次のエリアへ進む。そこはさらに大きな部屋で所狭しと魔獣が闊歩する。
全部で7体はいるだろうか。
「ここからが、本番のようね」
「あぁ、静香半分任せても?」
「何を言ってるの。女性を守るのがナイトの仕事でしょ。2体までね」
「はいよ」
二人は笑って戦闘を始める。
静香はBランク程度なら二体ぐらい相手どれる。
ギフトを二つ持つ静香、そして武芸においては剣也をいまだ上回る静香は、剣也がいなければこの国最強だっただろう。
1体目に不意打ちで一刀、そしてパラライズで動きを止めてからの、首への致命傷。
2体目は不意打ちはできないが、それでもタイマンなら負ける通りはない。
切り結ぶが、3倍の動きの静香をとらえきれずやはり有効打を与えられ首を一刀。
「おわったわよ。剣也」
「はや! なら手伝ってよ」
「いやよ、最初に約束したじゃない。本当に危なくなったら助けてあげるわ。ナイト様」
「チクショー!!」
剣也は5体を同時に相手どる。一対一なら瞬殺だが、5体ともなるとさすがに意識がそがれ時間がかかる。
それを見つめる静香
「…かっこいい」
別に意地悪でいったわけじゃない。静香は好きなのだ。剣也が戦う姿が。
いつもは少し抜けていて、優しくて、そしてちょっと可愛いのに、いざ戦闘となると、猛々しいまでの感情で魔獣を討伐していく。
その姿を見るのが好きなのだ。
そして、剣也がすべての魔獣を倒しきる。
「ふぅ、疲れた。手伝ってくれてもいいのに」
汗を拭いながら剣也は、静香をじっと見る。
「ふふ、お疲れ様。かっこよかったわよ」
静香は、手を後ろで組み、笑って剣也を見る。
「な!」
初めて静香にかっこよかったといわれた。
しかもすごい良い笑顔で。
ちょっとドキッとしてしまった。ごめん夏美浮気じゃないぞ。
そして次の扉を開く。
そこには、一人の男が端っこでうずくまっていた。
「佐藤?」
「御剣か!?」
突如名前を呼ばれた男は振り返る。
そこには、ぼろぼろになりながらも、何とか魔獣を倒しここまで来た一世がうずくまっていた。激しい戦闘のあとなのだろう。服はぼろぼろ、ところどころ血はでて満身創痍とまではいかないが、これ以上満足いく戦闘はできないだろう。
「佐藤! 良かった。まだ生きてた」
「まさか俺を助けにきたのか」
「あぁ、そうだよ。無謀すぎるぞ佐藤。一人でダンジョンなんて」
「う、うるさい! 別に助けてくれと頼んだ覚え…は……いや、すまなかった。助かったよ」
佐藤は、一瞬声を荒げるがすぐに自分の過ちを認める。そして仲間を危険にさらしてしまったことも。強がる元気もない。それほどギリギリだったのだろう。素直に救助に感謝した。
「立てるか? 佐藤、ほら水だ」
「あぁ、すまない、大丈夫だ、足手まといにならないぐらいはできる」
「よし、じゃあ進もうか。ここでとどまっても体力が疲弊するばかりだ」
そうして三人は次の扉を開く。そして同じように豚どもがいる。
そもそもダンジョンは上に上るはずなんじゃと思ったが、どうも扉を開いて次に進むようだ。
そもそもが不思議存在なので、そういうもんかと思えばそうだが。
何度目かの扉を開き今までよりも、広い空間にでた。いつも通り魔獣たちが闊歩する。
しかしその奥には、今までの扉とは全く違う色の扉が存在した。
ゲームの経験からいうと、間違いなくボス部屋だ。
その扉には、丸いランプのようなものが10個ついていた。
そして、魔獣の数もちょうど10体
俺の勘がいっているあれは!
「魔獣をすべて倒せば、開きそうね」
おい、言わせろよ。
静香に取られてしまったがそういうことだろう。
「じゃあ静香3:7でどうだ?」
「いやよ、2:8ね」
「そんなご無体な」
「一体は私が持とう。おんぶにだっこでは父に笑われる」
「あ、じゃあ1:2:7「1:1:8ね」
…「え?」
「チクショーー!!」
静香はにこにこ笑って叫びながら頑張る剣也を見る。
実はドSなのかもしれない。お嬢様というかSM嬢なんじゃないか。
剣也は心で悪態をつきながらオークたちをちぎってはなげ、ちぎっては投げる。
「いいのか? あれで」
自分のノルマの一体を倒して佐藤も戻る。
「いいのよ、なんたって英雄様だしね」
「剣也ーー! がんばれーー!」
「がんばっとるわい!!」
苦しみながら戦う剣也を満面の笑みで眺める静香を見て、佐藤はこの人には逆らわないでおこうと思った。
そして、すべてのオークを討伐し、扉が開く。
この先になにがあるかはわからない。だが、きっとこの先には…
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