―121― 2回目

 時間がループしたということは、俺が殺されたということだ。

 てっきり次に死ぬのは、世界が滅亡する危機とやら陥ったときだと思っていたが、そのことを確認する前に死んでしまうとはな。


「ひとまず、暗殺者ノクに会いに行けばいいんだろ?」

「あぁ、その通りだ。よくわかったな」

「すでに、経験済みだからな」

「ん? そうなのか?」


 アゲハが怪訝な顔をする。


「あぁ、すでに一度魔王を倒してる。その後、誰かに殺されたせいでループしたが。てか、本当に覚えてないのか?」


 もう一度、念のためアゲハに確認する。


「いや、覚えてないな……」


 アゲハはそう言って考え込む。


「まぁ、いい。一度経験しているなら、すべてを説明する必要はないはずだ。早いとこ、魔王を倒すぞ」


 魔王ゾーガは前回すでに倒している。

 だったら、それを踏襲すれば問題はないはず。


 それからは前回同様に事が進んだ。

 暗殺者ノクと一度顔合わせをした後、別行動をして、スキル〈シーフ〉を獲得。

 アゲハが勇者エリギオンを気絶させて、アゲハの封印を解除。

 戦士ゴルガノと聖騎士カナリアを撃破。

 その後、俺が賢者ニャウを回収している間に、アゲハが魔王ゾーガを倒す。


「なぁ、アゲハ」

「なに? キスカ」

「暗殺者ノクを本当殺す必要があるのか?」


 どうしても、俺はそのことを懸念していた。


「キスカだって、あいつがいないほうがいいでしょ?」

「まぁ、それはそうかもしれないが……」


 暗殺者ノクがいると、そのせいでアルクス人が裏切り者という汚名が広まってしまう。

 けれど、例え暗殺者ノクがいても、エリギオン殿下に丁寧に説明すれば大丈夫な気がする。なにせ、前回の時間軸ではエリギオン殿下は俺たちのことを理解してくれた。

 だから、無理に殺す必要はないような?


「やだ。あいつは絶対に殺す」


 そう説明してもアゲハは強情に意見を変えなかった。

 表情から察するに、暗殺者ノクを殺す理由が、アルクス人の汚名を広げないこと以外にもありそうだ。

 そういうことなら口には出さないが。


 結局、アゲハは魔王ゾーガを倒した後、不意を突くような形で暗殺者ノクを殺した。

 その後、何事もなく事が運んだ。


 賢者ニャウの転移陣によってカタロフ村に戻り、翌日、エリギオン殿下に事情を説明して納得してもらった。

 そして、エリギオン殿下と賢者ニャウと共に、王都へと馬車で向かった。

 前回同様、馬車の中でなぜか賢者ニャウが泣いていた。

 王都についてからは国王陛下に謁見。

 その後は晩餐会に参加する。

 前回となにも変わらない。


「キスカ、部屋に入ってもいい?」

「あぁ、いいよ」


 この夜中にどうしたんだろう? と思いながら応対する。

 アゲハはお風呂上がりのようで、髪の毛が湿っていた。

 前回の時間軸では風呂に入った後は、それぞれお互いの部屋で寝たはずだ。


「どうしたんだ? こんな夜更けに」

「キスカと一緒にいたくて。きちゃった」


 そう言いながらアゲハはベッドの上にのっかかる。


「キスカ、しよ」


 彼女は蠱惑的な笑みを浮かべてそう告げた。


 あの日、アゲハを拒絶したせいで、彼女は自殺した。そのことが俺の中で大きなトラウマになっていた。

 もし、また断ったら、彼女は死んでしまうんじゃないだろうか?

 そういう考えが頭によぎる。

 いわば、これは呪いのようなものだ。

 だから、俺はアゲハの誘いを断ることができない。


 



「なぁ、アゲハ」

「なに、キスカ」

「今から6日後に俺、死ぬことになっているんだけど……」

「どういうこと?」


 アゲハがそう首を横に傾げる。

 だから、俺は説明した。事の次第を。


「なるほど、6日後に死んじゃうのか」

「俺、どうしたらいいのかな?」

「大丈夫じゃない? 私がキスカのこと守ってあげるから」


 アゲハがそう言ってくれるなら安心だ。アゲハなら、どんな敵でも退けることができるに違いない。


「アゲハ、ありがとー」


 そう言いながらアゲハに抱きつく。

 そのまま二回戦に突入した。


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