第三章
―51― いっそのことアゲハを頼るか
冤罪により、俺はダンジョンの奥地に追放されることになった。
生まれてこの方、農地を耕すことしかやってこなかった俺にとって、ダンジョン奥地に追放されるというのは、まさに死を意味することだった。
それもただのダンジョンに追放されるのではなく、S級ダンジョン【カタロフダンジョン】に追放されるのだから、なおのこと生存する希望は薄い。
案の定、ダンジョンに入った直後、俺は魔物に襲われて死を予感した。
けれど、その直後、俺に救いの手を差し伸べる者がいた。
突然現れた謎の影が俺にスキル〈セーブ&リセット〉を与えたのだ。
そのことによって俺は死に戻りのスキルを手に入れたのだった。
それから数え切れないほどの死を迎えた。
そして、試行回数およそ560回目にて、転機が訪れる。
寄生剣
けど、人間になれなかった傀儡回が絶望の末、自決したことで、俺も自死を選んで再び死に戻りすることを選択する。
試行回数およそ570回目。
暗礁に乗り上げていた。
今までの時間軸では、傀儡回は剣の姿でダンジョン内に存在していたため、その傀儡回をうまく扱うことで、俺はダンジョンをうまく攻略していた。
なのに、どういう理屈なのか、何度時間を繰り返しても、傀儡回は化物として俺の目の前に現れるようになってしまった。
その結果、傀儡回に食われて死ぬという結果を俺は何度も繰り返していた。
「くそっ、どうすればいいんだ……」
寄生剣
いや、何度も試行回数を重ねていけば、傀儡回がこの手になくてもこのダンジョンを攻略する方法を見出すことができるかもしれない。
けど、それじゃ意味がない。
今の俺の目的は、ダンジョンを攻略することでなく、傀儡回を人間にしてあげることなのだから。
「吸血鬼ユーディートを頼るか」
彼女なら、傀儡回を人間にする方法についてなにか知っているかもしれない。
だから、彼女と接触してみて――いや、彼女と接触すると、今度はアゲハが動き出す可能性がある。
吸血鬼ユーディートを接触した途端、アゲハが突然現れては彼女を殺した記憶は嫌な思い出だ。
どうやらアゲハは、俺が吸血鬼ユーディートと接触することをひどく嫌っているみたいだ。
「だったら、いっそのことアゲハを頼るか」
以前、アゲハの封印を解こうとしたとき、有無を言わさず殺された記憶がある。
そのことを思い出すと、アゲハと接触することに強い抵抗を覚える。
「だからって、なにもしないわけにいかないもんな」
そう決意した俺は、まっすぐとした足取りで目的地に向かって歩いた。
「……見つけた」
1つ目の転移陣の先を歩くと、そこには封印された少女がいた。
結界の中で、彼女は眠っており、彼女の体には光でできた鎖が結ばれている。
何度見ても、彼女が結界に封印されている様は綺麗だ、と感じる。
「前回は結界を簡単に割ることができたんだよな」
そう呟きながら、結界に触れる。
途端、結界にヒビが入り、パリンというガラスが割れるような音と共に、結界が壊れていく。
これで彼女の封印は解かれた。
それと同時に、俺は後ろに大きくステップして、彼女から離れる。
目覚めた途端、いきなり攻撃してきてもおかしくない。
「ん……っ」
と、アゲハは吐息を出しつつ、目をゆっくり開ける。
「誰……?」
それが彼女の第一声だった。
思わず俺は目を見開く。
「俺のこと、覚えていないのか?」
彼女は今まで様々な時間軸で出会ってきたが、俺と同様に他の時間軸の記憶を保持していることは彼女の言動から明らかだった。
だから、俺のことは覚えていて当然だと思っていたが。
「どこかでお会いしたのかしら。だとしたら、ごめんなさい。私、あなたのことを思い出せないわ」
「いや、覚えていないなら、別にいいんだ」
そう言いつつ、俺は安堵していた。彼女が過去のことを覚えていないなら、それはそれで都合がいいような気がする。
「その、会ったばかりの人にこんなことを聞くのは奇妙なことかもしれないけど、ひとつ質問してもいいかしら?」
「あぁ、もちろんなんでも聞いてくれ」
俺が頷くと、彼女は「そう、ありがとう」と返事をしてから、こう口にした。
「私が誰だか、あなた知っていたりする?」
「……は?」
彼女がなにを言っているのか理解するのに、数秒ほど時間を要した。
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