合コンといえば王様ゲーム
余談だが、四天王時代の諸々のやらかしを、死霊術師さんは基本的に「魔王から洗脳を受けていた」の一点張りで乗り切ることにしている。結果的に魔王を裏切ってうちのパーティーメンバーの一員になったことや、会社の起ち上げに関連した諸々の功績があるとはいえ、剛腕過ぎる言い訳である。
「ふふっ……『俺の前に立った敵は、必ず殺すに決まっているだろう』でしたか? わたくしに対してあのように情熱的な言葉と殺意を向けてくださる殿方は中々いらっしゃらなかったので……とっても記憶に残っています」
「は、はは。いやあ〜、あの時は敵同士でしたから……そういうことも言ったかもしれませんな……」
「ご謙遜を。頭に振り上げられたモーニングスターも、わたくしの身体を余すことなく押しつぶした破城槌も、どれもとても情熱的でした。よろしければまた是非、殺していただきたいものです」
「あ、あははははは……」
掲げられたワイングラスの、血のような赤が艶めかしい。
先生がめちゃくちゃ「たすけて」みたいな視線を向けてきたが、おれは無視した。
よかったね。覚えてもらってた上に、両想いでしたね。
「は、はーい! じゃあ次は、あたしの番だね。二番です。一応今日は、隣国のお姫様、的な立場でここに来ました! でも、特に立場とかは気にせずに、気軽にお話してくれるとうれしいです。よろしくお願いします!」
死霊術師さんと先生のやり取りがこれ以上続くとまずいと判断したのだろう。
すかさず騎士ちゃんが自己紹介をしつつ割り込んで、会話の中断を図った。どうでもいいけど教え子に合コンの席で助け船を出される先生ってどうなんだろうね。
「三番。宮廷魔導師です。バカな男に興味はありません。よろしくお願いします」
「もうちょっと何かないの?」
やわらかい騎士ちゃんの自己紹介の正反対を行くように、賢者ちゃんの自己紹介は至って簡素だった。簡素過ぎて毒が漏れ出している。
「ははっ! 聞いたかい親友! いきなりボクとキミは眼中にないと言われてしまったよ!」
「お前なにしれっとおれをバカの括りに加えてるんだよ。はっ倒すぞ」
メガネさんを挟んでいるせいでバカイケメンを叩けないのが恨めしい。
「じゃあ、最後はワタシかな。四番です」
最後の一人。先輩が札を持ち上げて笑った。
「こう見えて第三騎士団の団長をしています! バリバリの現役の騎士です! 趣味は読書で、好きなものは昼寝!」
にこりと微笑む先輩は、率直に言って魅力的だ。
ワンショルダーのパーティードレスは、深い青色。髪は昔と比べて短く肩口にかからないくらいしかないので、賢者ちゃんのような凝った結い方はしていないが、左側を織り込んでまとめている。最も目を引いてしまう片目の眼帯についても、前に会ったときに着用していた飾り気のない黒一色のものではなく、レースの刺繍があしらわれた紺色のものに変わっていた。片目が隠れているアンバランスさすら魅力に変えてしまうのは、流石という他ない。
総じて、華やかな装いである。その片目がちらりこちらを見て、口元が弧を描いた。
「普段はあんまりこういうオシャレとかしないんだけど、今日は意中の殿方を射止めるためにがんばってみました! どうぞよろしく」
「……」
「……」
「あらあらまあまあ」
バチバチしている。何がとは言わないが、バチバチしていた。
うんうん、なるほどね。合コンってこんな感じなんだな。雰囲気掴めたから帰っていいかな?
「では、男性陣も自己紹介を」
「五番! 第一騎士団長だ! 勇者はおれの教え子だ! よろしく!」
「六番。第五騎士団団長です。みなさんが夢中の彼とは、学生時代からの親友です。趣味で筆も取っているので、今日は良い執筆のネタを探しに来ました。よろしくお願いします」
「七番は私だ。第四騎士団長、及び本日の司会進行を務めさせていただく」
……そういえば、おれの札だけ何故か数字がなくて赤色だ。
「……えー、八番、なのかな? 勇者です。思ってたより知り合い多くて、安心してます。よろしくお願いします」
わかってはいたが、男側の自己紹介があまりにも適当過ぎる。おれ以外全員騎士団長だから、なんか数字がややこしいし。どこか適当な国を落としに行きますと言っても信じられそうな面子なんだよな。
「では、自己紹介も済み、場が温まったところで、レクリエーションに移らせてもらおう」
「レクリエーション?」
「ああ」
メガネさんがパチン、と指を鳴らす。
どこからともなく現れたメイドさんが持ってきたのは、中に手を入れられるような構造の箱だった。
「これは?」
「王様ゲームだ」
「王様ゲーム」
なんか……すごい下世話で宴会っぽいの来たな。
「ルールは簡単。この箱に一番から七番までの数字。そして王様を示す一枚の赤い札を戻してシャッフルする。ちなみにこちらのボックスも陛下の手作りだ」
もっとべつの公務させろよ。
「王様の赤い札を引いた人間は、数字と命令を宣言。その内容に従わなければならないというわけだ。例えばこの場合は、赤い札を持っている勇者殿が王様にあたる。勇者殿、ものは試しの余興だ。何か命令を出してみてくれ」
「え、番号わかってるのにいいんですか?」
「軽いものであれば問題無い」
「うーん……じゃあ」
軽いもの、と言われておれは天井を仰いだ。
「七番さんが三番さんにお手、で」
言うまでもなく、七番はメガネさん。三番は賢者ちゃんである。
「……」
「……」
賢者ちゃんが躊躇いなく差し出した手のひらの上に、メガネさんが手を置いた。なんというか「くっ殺せ……」と言わんばかりの表情だった。
嗜虐的な笑みを浮かべて、賢者ちゃんが問う。
「いつもの鳴き声は?」
「…………わん」
オプション付けろとまでは言ってないんだよな。
ていうか、いつもの鳴き声ってなに?
「なるほど」
「なるほど」
「なるほど」
だが、ゲームの知らない人たちに雰囲気は伝わったらしい。特にイケメンバカに至っては、どこからか取り出したメモ帳にキラキラした顔でペンを走らせている。多分未成年に見せられないような文章を生成しているのだろう。
「くっ……なんという屈辱。だが、これこそが王様ゲームの醍醐味」
「少し楽しんでませんか?」
「では、全員の札を回収し、もう一度配布する。配った札の番号は合図するまで見せないようにしていただきたい!」
「メガネさんほんとメンタル強くてすごいと思います」
「あ、すいません。リンゴジュースおかわりください」
「自由か?」
実に混沌とした進行だったが、一応ルール説明と準備は済んだ。全員から回収された札をメイドさんが受け取って箱の中でシャッフル。再び取り出し、裏側にしたまま配られる。
「それではいくぞっ! 王様だーれだ!」
札を捲って確認する。
おれの番号は……七番か。
「ふっ……やはりボクは天運を引き寄せる才を持っているようだね」
イケメンバカがドヤ顔で赤いカードを見せびらかした。
最初の王様がコイツかぁ……。
「幸運の女神は、常に勝利を求める者に微笑む……王になる気はないけれど、楽しみをもたらしてくれるこの幸運には感謝の意を表明しよう」
「いいからはやく命令しろよ」
「ああ。悪いがボクは、生半可な命令を出す気はないよ。仮にも、最初のキングだからね。ゲームは楽しみたい」
ぴん、と。
人差し指を立てて。
「では、王様から最初の命令だ。一番が七番にキスしてもらおう」
バカは最初からかっ飛ばしてきた。
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