勇者の華麗なるお茶会
机をおばあさんの側に寄せて、紅茶とお茶菓子を囲む。
「いやあ、良い香りです。落ち着きますね」
「そうかい? アタシゃ、目の前に全裸の男が座ってるからちっとも落ち着かないけどね」
「……? 全裸の、男?」
「勇者さん。多分勇者さんのことだと思います」
妙だな。おれは全裸じゃなくて半裸なんだけど。
まあ、テーブルに座ってると葉っぱが視界から隠れてしまうので、それで全裸に見えてしまうのだろう。おばあさんの視界は限られてるしな。安心してください、ちゃんと履いてますよ。
「それで、アンタらは何をしにきたんだい?」
「この周辺に設置されている地雷の撤去をお願いしに来ました」
「おばあさん! このクッキーおいしいです! おかわりありますか!?」
「アンタら、本当は何しに来たんだい? ウチは喫茶店じゃあないんだよ」
「いや、本当に地雷の撤去をお願いしに来たんです。本当です」
おれの分のクッキーも、赤髪ちゃんの口の中に突っ込んで黙らせる。
しかしおばあさんは、相変わらず半信半疑といった顔でおれたちを見ながら、深く息を吐いた。そして、杖を一振りして戸棚を開き、そこからクッキーを赤髪ちゃんの前まで移動させる。
さらっとやってるけど、今のかなりすごくないか? というか、赤髪ちゃんにだけ甘くないか?
「ギルドの依頼ねえ……そう言われても、信じられないね。見たところ、不審者にしか見えないが」
「信じてください。おれは包み隠さず自分を曝け出しているつもりです」
「普通の人間は初対面の人間に包み隠さず自分を曝け出したりしないんだよ」
「大事なところは隠しているつもりです」
「大事なところしか隠れてないだろ」
言いながら、おばあさんは死霊術師さんが勝手に淹れた紅茶完璧な温度と蒸し加減で淹れられているを勢いよくカップルに注いだ。
紅茶がはねた。
おれの乳首に当たった。
あっつ。
「勇者さま、大丈夫ですか? わたくしのナース服着ますか?」
「ありがとう死霊術師さん。気持ちだけ受け取っておくよ」
「アンタはなんで服がないんだい?」
「さっきの爆発で、つい吹き飛ばしてしまって……」
「落としてきたみたいなノリで言わんでくれ」
もうたくさんだと言わんばかりに、おばあさんは首を左右に振った。
「それ食って飲んだら、さっさと帰りな。もう来るんじゃないよ」
「わかりました。じゃあ、またこれくらいの時間に来ます」
「明日の爆発も楽しみですわね!」
「明日のお菓子も楽しみです」
「絶対に来るんじゃあないよ!」
次の日。
「おばあさまー! 遊びに来ましたわ〜!」
「来ました!」
「こんにちは。お土産ありますよ」
「なんでまた来てんだい!?」
おれは胸を張って笑った。
「どうですか、おばあさん。今日のおれはちゃんと服を着ていますよ」
「服を着てくるのは人間として当たり前なんだよ。そんなことでいちいち胸を張らんでおくれ」
「わたくしは今日も地雷を踏んで爆発してきたので、もちろん裸です!」
「……アンタ、本当に不死身なんだね」
「え? はい」
「いや、はいじゃないが……」
またテーブルを寄せて、騒がしいティータイムがはじまる。
「ところで、せっかく昨日撤去したのに、どうしてまた地雷が元に戻ってるんですか?」
「うるさい虫が寄ってこないように、設置し直したに決まってるだろう」
「ええっ!? あの地雷って虫避けだったんですか!?」
「……」
「赤髪ちゃん。今のは多分、皮肉。皮肉だから」
「今日の爆発もよかったですわ。ただ、昨日に比べると少しだけ起爆のタイミングがズレているようでした。次からは気をつけてください」
「アタシゃ、そこそこ長いこと生きてきたつもりだけどね。爆発させた相手にダメ出しを喰らうのは、はじめての経験だよ」
それはそうでしょうね。
げっそりと肩を落としているおばあさんの背中をさすりながら、気になっていたことを聞く。
「ところで、よくこれだけの範囲に魔術地雷を設置できますね?」
「使い魔を使えばそう難しいことじゃないさ」
またさらっとおばあさんはそんなことを言うが、賢者ちゃん曰く、使い魔を通じた魔術の使用は魔導を極めた賢者の中でも一部の人間しか精通していない超高等技能である。あの賢者ちゃんですら、余程の必要に駆られない限り、魔法で増やした自分自身を通じて魔術を使用している……と言えば、その特異性がわかるだろうか。
「おれたち、明日も来るので……」
「ああ、わかってるよ。どうせ地雷を撒くなって言うんだろ?」
「あ、べつに地雷はまた撒いてもらって大丈夫です」
「は?」
「いやだってほら、どうせこの人がまた全部踏んで行きますし」
「明日の爆発も楽しみにしております」
「……アンタら、頭イカれてんのかい?」
自宅の周辺に地雷をバラ撒いているおばあさんには言われたくないな、とおれは思った。
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