執政官殺し(十一)

 近北公[ハエルヌン・ブランクーレ]のじょうらくを受けて、サレは事実無根の悪評をひとつこうむった。

 七州の金回りを正すために、公が塩券を大量に購入するという話が都に流れ、一時、塩券の暴騰ぼうとうした。

 しかし、それが単なるうわさに過ぎないことと、公が西南州の統治に直接関与しないことが知れ渡ると、塩券の値は暴落を余儀なくされた。


 この塩券の暴騰は狂騒を呼び、親類縁者から金をかき集めて塩券を買った者が自殺するなど、悲喜こもごもの事態を生んだが、モウリシア[・カスト]の件でそれどころではなかったサレには、関係のない話であった。

 しかし、そのうわさの出どころがサレであり、彼はうまく売り逃げたという話が、まことしやかにみやこびとの間でささやかれたのは、迷惑千万であった。

 サレは、金にうるさい人間と思われることについては、何とも思っていなかったが、金にきたない男と騒ぎ立てられるのは、家名に関わることだったので、強く反発した。

 それまで、サレは、自分を揶揄やゆする風刺劇の上演を禁じたことはなかったが、この塩券の暴騰に関する話については、劇場の門を閉じさせた(※1)。



※1 劇場の門を閉じさせた

 この処置を受けて、都人は、サレがうわさを流しておらず、また、塩券の売却で利益を得ていないという、彼の話を信じたとのこと。

 ある役者は日記に、「あの(南衛なんえい)かんが、うわさの被害にあったとのこと。笑止千万、恐悦至極。これで、うわさを流される者の苦しみが、彼にも少しはわかったか。薬となかったか。いやいや、これくらいでこたえる彼ではあるまい」と書き残している。

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