都、美しく燃えて(三)

 八月十日。

 近北州のじょう洛軍らくぐんと青年[スザレ・マウロ]派の戦いの前哨戦として、ラウザドにて、反オルベルタ[・ローレイル]派が蜂起し、オルベルタと市街戦を交えたが、衆寡敵せず、鎮圧された。

 モウリシア[・カスト]にそそのかされた者たちの末路は、実に哀れなものであった(※1)。

 これを機に、ラウザドは近北公派であることを宣言したうえで、青年派の悪政、とくに財政政策を痛烈に非難し、モウリシアの執政官辞任と、[トオドジエ・]コルネイアの復職を今の大公[マウロ]に迫った(※2)。



※1 実に哀れなものであった

 いつものごとく、サレはカストの扇動と断定しており、その可能性も否定できないが、傍証となるような史料は見つかっていない。

 なお、この件に関しては、次の逸話が残っている。

 ローレイルが、サレに勝利を告げる書状の中で、次のように喜びを書き記した。

「いくさに不慣れなため、万が一、敗れた場合は、東州公[エレーニ・ゴレアーナ]を頼って、船に飛び乗らなければならないと不安でしたが、どうにか勝つことができました」

 それに対して、敗れた反ローレイル派が、実際にゴレアーナを頼って船で逃走したことを伝え聞いていたサレは、返書の中で、友に対するくだけた筆法で、次のように残念がった。

「きみが慣れない、いくさのために冷静でいられなかったのは仕方のないことだが、ぼくだったら、将来の禍根になる政敵、とくに金の面で迷惑なやからは、確実に始末していたよ。きみもまだまだ甘いようだ。まあ、ぼくも他人のことはあまり言えないけれどね」


※2 [トオドジエ・]コルネイアの復職を今の大公[マウロ]に迫った

 経済政策面の不満から、カストの執政官辞任を求めたのはラウザドの意思であろう。

 しかし、そうだからと言って、コルネイアの政策が評価されていたわけではないので、彼の復職については、サレもしくはハエルヌン・ブランクーレの意向と思われる。

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