都、狂い乱れて(十)
今の大公[スザレ・マウロ]の妄動に対して、サレがとりあえず行った対応は以下である。
まず、執政官解任の件については、[トオドジエ・]コルネイアに各州馭使宛ての書状を書かせたが、その反応は芳しくなかった。
東南州と東部州は、州境をめぐる紛争状態に入っており、両州馭使ともに、都の混乱については、それを傍観する姿勢をみせ、モウリシア[・カスト]の執政官着任についても、その賛否を明らかにしなかった。
東南州との州境の兵を増強しつづける東州公[エレーニ・ゴレアーナ]は、執政官[コルネイア]派と青年[マウロ]派の争いをひとまずは放置しておいて、その後、自州に都合のよい動きをする腹積もりであったのだろう。
対する東南州の[タリストン・]グブリエラは、西南州と領地を接していたのだから、本来、都の動きに敏感であらねばならなかったのだが、その余裕すらなかった。
頼みの綱であった近北公[ハエルヌン・ブランクーレ]にとって、モウリシアの執政官僭称は、もはや対立が避けがたい、今の大公を攻撃する有効な材料であったから、ぜひとも、モウリシアに執政官へなってもらわなければならなかった。
そのために、今の大公の使者が、モウリシアの執政官着任について、形式上の必要性からのみ、近北公へ是非を問うた時、彼は、大公の気が変わらぬ程度に抑えた抗議を行うのみで、その就任について、積極的な抵抗は示さなかった。
上記の内容をつづった密書が、ウベラ・ガスムンよりサレに届いたのだが、その中で近北公から、近北州の雪が解けるまでは(※1)、コルネイアとサレは軽挙を慎むようにとの指示を受けた。
この密書を読み、雪が解けたら、いくさがはじめることをふたりは悟った。
近北州と近しい関係にあった、西部の二州[近西州および遠西州]は、近北公の意向をくみ、彼に歩調を合わせる姿勢を見せた。
対して、近北公と相争っていた事情から、遠北州のみが、モウリシアの執政官就任について、積極的に賛同した。
※1 近北州の雪が解けるまでは
この年の冬、近北州は、州の古老ですら記憶にないほどの豪雪に襲われていた。
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