ウルマ・マーラ(二)

 塩賊を斬っているときは、死んだら生き返らないのが人間のよいところだと思っていたが、実際に賊の大半が死に絶えてしまうと、サレは仕事を失った。斬る相手がいなくなってしまったからだ。


 塩賊の大掃討を成功させると、老執政[スザレ・マウロ]の威名は七州どころかウストリレにまで響き渡り、西南州における権威権力の基盤は強固なものに変じた。

 また、大掃討を立案した刑部監殿[トオドジエ・コルネイア]と、西南州軍を指揮したモウリシア[・カスト]も名を高めた。

 同年代のふたりの活躍を横目で見ながら、生活の糧をうしなったサレの絶望は深かった。


 失意のサレに、ラウザドのオルベルタ[・ローレイル]が、白衣党の指揮者として迎える用意があることを知らせて来た。友人からのありがたい申し出であったが、どうしても平民の下で働く気に、サレはなれなかった。

 そして、夜逃げをするしかないと思っていたサレに追い打ちをかけたのが、妻ライーズの妊娠であった。


 ここにいたって、とうとう、サレは自分の信念と希望を曲げて、公女[ハランシスク・スラザーラ]へ泣きつくことにした。

 権威権力を高めた老執政が公女をどう扱うかわからない中で、彼女につくのは非常に危険であり、政争に巻き込まれれば、一族郎党が殺される可能性もあった。

 しかしそれは、逆に言えば家名を盛り返す機会にもなりうると、サレは思い込むことにした(※1)。



※1 思い込むことにした

 近北州に逃げていれば、捨扶持をもらって家名を保つこともできたと推測されるが、それをしなかった理由は、ハエルヌン・ブランクーレを、公女以上に仕えにくい主と考えていたからか。

 また、ここに書いてある通り、家を保つだけでなく、サレ家の失われた名誉を取り戻す野望が、サレの中に芽生えていたためか。

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