西征(十六)

 二日目の早朝、出発の前にノルセン・サレが父ヘイリプの様子を見ると熱がひどかったが、薬の類はなく、また、彼のためにその場へとどまることもできなかった。

 時間が経つにつれ、ヘイリプの容態は悪くなり、下痢のために異臭が彼の周りに漂った。

 そのような父親を他人に背負わせるわけにはいかなかったので、配下が交替を申し出ても、ノルセンが担ぎ続けた。

 道中、山村が遠くに見えたが、まだ国道に近いことを理由に、ノルセンは寄ることを諦めた。

 それに異を唱える者には好きにさせた結果、ノルセン一行の数は二十八名に減った。


 山道を歩いている最中、背負っている父親が段々と重くなっていく感覚にノルセンは襲われた。ヘイリプは相変わらず、兄アイレウンと大公[ムゲリ・スラザーラ]の名をかすれ声でつぶやいていた。

 それに混じってたまに出てくる言葉は、コイア・ノテと領地ホアラの名であった。

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