だから私はそばにいたい、ちょっと頭のいい君のそばに。
藍坂イツキ
いっつも一人なんだね、君(前編)
降りしきる雪。
埋め尽くす人。
そして、一人黄昏れている僕。
今日も今日とて、僕は一人。
「……ふぅ」
暖房の切れた2年7組の教室で窓際の席に座り、ひとしきり人を待っていた。
友達もゼロ、親友もいない。
ましては、家族だって昨年離婚してしまってもはや連絡もつかない。親権はいちおう母にあるのだが、毎月20万円の仕送りをもらいながら、3個下の反抗期な妹と共に市内のアパートに二人暮らししている。
母的には僕ら子供は邪魔なのだろう。まぁ、それでもお金を持っている家に生まれてこれたのは本当に運がよかった。
「……」
とはいえ、僕には友達運がない。だからこそ、今も一人である。
ただ、今日はちと違う。
今まで通りの僕ならそうだったのかもしれないが今日の、今年の、今月の————札幌の雪降りしきるホワイトクリスマスではそれも一味、二味は違っているのだ。
顔を上げて、黒板上の時計に目を向ける。
時刻は17時56分。
微妙だなとため息を吐いて、再び机に突っ伏した。
約束したのは18時。
ソワソワする心を外の雪景色で見つめながら惑わしていた。
ぽろぽろと教室の外を埋め尽くす雪はまるで優しい母の手のようで、どこか懐かしさを感じる。妹もまだ小さくて、幼稚園の頃によく感じていた手の記憶かもしれない。
後の祭りの心地よさに胸打たれる。
そんな綺麗な雪景色の下で、サッカー部や野球部が叫びながらタイヤを引いて雪をならし続けていた。
これも一種の青春。
大人になったら感じることはできない。学生だけの特権を弱音を吐きながら、はたまた楽しみながら、監督にシバかれながら彼らは一生懸命に走っていた。
「……」
いつか、僕も感じることができたんじゃないかって思っていた光景に思わずため息が漏れる。
入部シーズンに乗り遅れただけなんだけどな。
「くそ……」
そして刻々と時間が過ぎていき。
ちくたくと脈打つ大きな時計がカチッと音を鳴らすと、長針と短針はまっすぐ一本になっていた。
そろそろかなと嘯くと、すぐに声がした。
「んんぅ~~~~~~~~~~~~~~到着っ‼‼」
ガサッ――――。
舞い散る爽やかな匂い。
そして、垂れてくる焦げ茶色な髪。
加えて首元を包む何か。
「って……」
「うぉっ、今日も一人なんだね? 君はぁ……っ」
耳元で囁かれ、思わず肩ががビクッと震える。
そんな僕をみかねて、彼女はニヒッと笑みを浮かべた。
「ん、何震わしてるのよ。肩を~~」
「だ、誰のせい……だよ」
「うわぁ……ビクビクって、何々、もしかしてこういうシチュが好きなの⁉」
「そんなこと言ってないし」
「顔に出てるよ?」
「出てねえ」
誰もYOUTUBEEで耳舐めASMRを見ているとは言っていない。僕の耳は刺激に強い自負もある。
むすっと視線を向けると、抱きついてきた彼女はニヤニヤして耳を引っ張った。
「いてててっ――ちょ、何する!?」
「何って……何でも?」
「何でもで耳を突っ張るな」
「突っ張ってない。ちなみに、抓ってる」
「同じだよ。とにかく痛いから離せ」
「ちぇ~~、ケチっ」
若干嫌そうな顔で抱き着いた身体を僕はすぐに引き剥がした。
その渋々な視線が少々痛かったが、すぐさま表情を変え、足を二股で広げるとバッとスカートをふわりと舞い上がった。
すると彼女はすかさず僕の前に立ち塞がり、大きな胸を張りながらこう言った。
「——こんなに、可愛い彼女が来てあげたのになぁ~~、ちょっとくらいはいいじゃん?」
「……したいなら、家とかでやれよ。俺とこんな風にしているの学校で見られたらヤバくないか?」
「……それは盲点ね、やばいかも」
自分で言ってなんだが、こうやって間近で言われると少々傷つくな。
「そ、そうか」と刺さった心で返すと、気づいたのか彼女はにへらと笑って。
「う、そ」
「え?」
「別にいいってことよ。見られたら言うだけじゃん。付き合ってるってさ?」
「……そ、そうか」
「ははっ。当麻はほんと、基本に忠実だね」
「まぁ、な」
「うんっ……ま、それじゃ、帰ろうか」
続く。
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