第226話 紙って偉大だよね


 村の募集要件を配信してから3日、


 今日も大勢の獣人たちが集まり、村づくりに勤しんでいた。ここ数日は侵入者も現れず、目立った事件は何ひとつ起こっていない。相変わらずライブ配信は順調で、毎日欠かさずおこなっている。


 先日の配信については、世間で様々な反響を巻き起こしていた。


『独裁者現る』『極悪村長』


 なんて見出しの話題が大半を占めている。


 でもまあ、これについてはどうしようもない。実際のところ、私が独裁者なのは事実だしね。忠誠度による管理に始まり、村の私物化と自己優先の運営。ここまで揃っていれば誰でも感じることだと思う。


 ――と言うのは建前の話。


 本心では『気に食わなけりゃ、来てくれなくても結構』なんてことを思っている。ずいぶん度量の狭いことだが……おかげで精神面は安定していた。


 それと全然話は変わるけど、ナナーシアさまは挨拶回りで大変忙しいご様子。相も変わらず神界に入り浸っていた。それでも、日に一度は顔を出してくれるので、動画の撮影なんかは問題ないけどね。


 女神さま曰く、日本の状況も神々の動向も、これといった異変はないらしい。ダンジョン生成についても既定路線だと言っていた。予定に変更はなく、集団転移も決行されるとのこと。



◇◇◇


 そんな今日は早朝から、私と樹里のふたりで開発計画の話をしている。今は少し脱線して、例の炎上配信について語っているところだった。


「炎上商法って本当にあるんですねー」

「まあ実際、登録者は増えたよな……」

「とくに最後の宣言が決め手でした。おかげで村は注目の的ですよ!」


 樹里の言うとおり、ナナシ村チャンネルの人気はさらに上がった。登録者は増え続け、動画の再生数も軒並み上昇していたのだ。


「俺の評判は地に落ちたけどな。世間の反応は酷いもんだぞ?」

「私の予言どおり、底も底、地獄の果てまで堕ちちゃいましたね」

「ほんとだよ……」

「まあ、なんとかなりますって!」

「樹里の予言どおりなら、これから上がっていくんだよな?」

「んー、どうなんでしょうね。それより早く続きを話しましょうよ!」


 べつに慰めの言葉が欲しいわけじゃない。けど、こうまでアッサリ流されると寂しいものだ。そう思いながらも、中断していた開発談議を再開する。


「で、どこまで話したっけ?」

「生活様式はどうするのか。ですよ!」

「ああ、そうだったな」


 現在村に建っている住居はすべて異世界様式のものだ。日本では長屋を作り、一軒家は異世界で建ててから空間収納で運んでいる。

 それに加え、生活様式をどちらに合わせるか、それを検討しているところだった。要はトイレやお風呂、電気なんかをどうするのかってことだ。


 今回、新たに加入するのは全員日本人。住みやすさでいけば、慣れ親しんだ日本様式がいいに決まっている。だが、異世界へ移り住めばどうだろう。生活の不便さに慣れるまでには相当時間がかかると思う。


 だったら最初から向こうの様式で――、ってのが私の意見だった。


「さすがにトイレは厳しくありません?」

「でも俺たちだって、なんだかんだ慣れちゃったろ?」

「じゃあ村長、今日から紙の使用禁止ね」

「え? なんで?」

「そりゃそうでしょ。もしバレたら忠誠度が下がりますよ? 少なくとも、私たち女性陣は意地でも下げてやる」

「……わかった。紙は採用しよう」


 結論、トイレは異世界スタイルを採用。共同利用の土中式だが、紙の使用は許可することにした。トイレットペーパーも魔素に変換されることは確認済みだ。


「お風呂は大浴場を作るとして、日々の食事はどうしたいですか?」

「そこは任せるよ。とくに要望はない」

「では、こっちもフードコート形式に。交流の場は多いほうがいいです」

「んだね。料理スキルも活用できるし」


 風呂と食堂についてはアッサリと決まる。ただし露天風呂は禁止、完全閉鎖式とする。上空から覗くヤツが出てくるかもしれないからだ。あ、俺のことじゃないよ。 


「そのほかに要望はないですか?」 

「んー、そうだなぁ」

「開発が進むと難しいモノもあってね。とくに大型の建物なんか――」

「あっ、重要なのがあったわ。これは絶対作って欲しいってのが」


 大型の建物で思い出した。漫画やラノベを読めるプチ図書館、アニメを見れるプチ映画館、ゲームができる娯楽所。ナナーシア村では、こういった娯楽要素を充実させるのが一番の目的だった。


 こういうのって、著作的問題があるのだろうけど……。金に糸目をつけず大量購入するし、異世界人への布教という観点もあるので、どうかご勘弁願いたい。


「おー、それは嬉しいですね。私もまたゲーム実況始めちゃおうかな?」

「ジュリア先生、ぜひお願いします」

「うわっ、久しぶりに聞きましたよそれ」

「この区画だけは、電気もネットも使いたい放題で運用したい。軍資金も優先的に使ってくれ」

「わかりました。大浴場や食堂も含めて、一大娯楽ゾーンを作ります!」

「ああ、遠慮なく頼むよ」


 アニメや漫画は獣人たちにも大人気だ。それが見放題となれば、きっとみんなも喜んでくれるだろう。それについ最近、言語の壁も解決したばかりだしね。

 

「言語問題、解決して良かったですね」

「ほんとだよな。樹里のおかげで助かった」

「たまたまですよ。たまたまっ」


 最初のキッカケは、樹里がルドルグに見せた建築動画だった。そこに書かれたテロップだったり、日本人の会話がすべて理解できたことから始まる。ほかの獣人はどうなのかと思い、漫画やアニメをみせてみると……全員がすんなり把握していたんだ。


 なぜ理解できたのかは不明だけど、日本がファンタジー化したせいか、幻想結界のおかげだと考えている。私たちだって、異世界で同じ現象が起きたのだ。獣人たちがそうでもなんら不思議はない。というか、不思議なことだらけで感覚がマヒしている。


「それじゃあ、私はルド爺のところへ!」

「必要な器材なんかはすべて対策室に依頼してくれ。室長にも話は通してある」

「支払いはどうします?」

「当面は魔石にしようか。ただし、ゴブリン級の小さいヤツで頼む」

「オッケーです!」


 日本へ帰って来たからには、こっちでしかできないことを全力で楽しみたい。村の勧誘とはまったく関係ないし、私利私欲まみれなのも承知の上。それでもこの件だけは、絶対に自重するつもりはなかった。




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