第182話 詐欺師の末路
「――と、そんなわけなんだ。ロア、杏子、悪いけど準備のほうは任せるよ。俺、ちょっと行ってくるわ」
隆之介捕縛の件をふたりに伝え、急いで現地に向かうことに。
「まさか啓介さんひとりで?」
「いや、勇人と春香を連れていくよ。万が一にも洗脳されちゃ困るからね」
「私たちは行かなくていいんですか?」
「まずは確認が先だな。状況によっては召集をかけるから大丈夫だ。絶対無理はしないし、油断もないよ」
ふたりは多少渋っているが、とにかく勇者と話すのが先決だ。彼女の鑑定を最優先したいので、帰られてしまうのが一番困る。なにせ帝国の最大戦力だし、洗脳されてるかを早く確認したい。
――それから約10分後
森の入口に転移すると、見張り番に状況を聞きながら帝国勇者と対面する。もちろん勇人と春香も一緒だ。
「希望さん、待たせて申し訳ない。こうして対面するのは久しぶりだね。あれから元気にしてたかな?」
「あ、どうもお久しぶりです。こっちに来てからは割と平穏な感じです。争いごともほとんどありません」
そんな会話の最中、春香から念話が入ると、勇者のステータスに異常がないことを確認できた。
希望の表情はわりと明るく、話し口調も随分となめらかな印象。なにより、こちらの目を見て話しており、以前のようなうつむき加減の態度ではなくなっていた。きっと、人との争いがなくなって気持ちが落ち着いたんだろう。
「それで、隆之介を捕まえたんだって?」
「はい、今日はそれを伝えに来ました。わたしは直接見てないんですけどね。お姉ちゃんに、絶対近寄らないよう言われてまして……」
「なるほど、それが正解だよ。アイツの能力については聞いてるんでしょ?」
「ある程度のことは……どうやら洗脳系の能力みたいですね。ユニークスキルじゃないのが信じられませんけど」
「……へえ、ユニークじゃないのか。それは知らなかったよ」
これはいよいよ危ないか? 通常スキルならば強奪も可能ってことだ。ヘタすりゃもう奪ってるかもしれない。
「精神干渉といえば最強種の筆頭ですもんね。――って、言ってるわたしも完全にチートですけど」
「おっと? もしかして希望ちゃん、そっち系に嗜みが? あ、わたしは春香。ナナシ村の上級鑑定士よ、よろしくねっ」
春香はいきなり割り込んでくると、希望さんとふたりで異世界談議に突入してしまった。一瞬止めようかと迷ったが、彼女の人柄を把握するいい機会なので黙っておいた。
悪評高い隆之介が、あの聖理愛を丸め込むとは思えない。それに最悪のケースになっても、ここにいる勇者さえ押さえておけば、あとはなんとかなると思っている。
それからしばらくすると、ふたりの話もようやく一息ついた。とても満足げな希望は、春香とすっかり意気投合している。最初に会ったときを思うと、まるで別人のような語り草だった。
(これが洗脳の影響だったら怖いけど……春香が鑑定してるし、それはないか)
「それで、希望さんはこれからどうするんだ? 領主館へは来ないように言われてるんだよね?」
「街の宿屋で待機ですね。あとでお姉ちゃんが迎えに来てくれることになってます」
「そっか。じゃあお姉さんのところに行ってくるよ。伝えに来てくれてありがとう」
「いえ、わたしもお話ができて良かったです」
「希望ちゃん、今度また話そうねー」
その場で希望と別れたあと、すぐに領主館へと転移した。増援部隊の準備も整い、いつでも駆けつけてくれる手筈になっている。
『隆之介、それと聖理愛の鑑定を最優先で頼む。洗脳状態、もしくはスキルを強奪していた場合はすぐに増援を呼ぶぞ』
『おっけー、念のために何度も試してみるよ。ちょっと時間がかかるかもだけどね』
『そうしてくれ。勇人も警戒をよろしく、くれぐれも結界からは出ないようにな』
『任せてくださいっ』
天幕に到着したところで最終確認をおこない、周囲を警戒しながら外に出ると――10名ほどの護衛を引き連れた聖女と剣聖の姿が。
その傍らには、ひとりの男性が地面に横たわっていた。とくに拘束されている形跡もない。
◇◇◇
それから聖理愛と話すこと十数分、この惨状に至るまでの経緯がだいたい掴めた。
「――なんとなく予想はしてたけど、あっけない幕引きだったんだな」
「あら、現実なんてこんなものよ? コイツは
「でも、スキルの発動条件は知らなかったんだろう? よくこんなリスクを負ったもんだな」
「それも大体は把握してたわよ。『真偽眼』を持ってた人が教えてくれたもの」
「なるほど……な」
もう察していると思うが、目の前に倒れている人物こそが隆之介だ。既にこと切れている。春香の上位鑑定でも『状態:死亡』と表示されていた。今日の朝方ここに現われ、面会の末にあっさり殺されたんだと。
聖理愛が語ったことなので、どこまで事実かはわからないけど――、隆之介到着からの流れはこんな感じだったらしい。
数週間前、帝国宛てに隆之介から密書が届く。もちろん、その内容は帝国への亡命要請だ。聖理愛はそれにこころよく応じて、今日の早朝に現地へ到着する。
隆之介が引き連れて来たのは、日本人数十名と獣人のSランク冒険者数名だった。領主館に招き入れたあと、お互いの護衛数名とともに会談を始めるのだが――。
実はこの隆之介、帝国が建国して1か月後の時点で、数名の日本人を忍ばせていた。当然、その中には鑑定スキル持ちも存在している。
半年以上の月日をかけて全ての者を鑑定させており、帝国には鑑定持ちがいないことを確かめている。むろん、聖女や勇者、賢者や剣聖の名前も把握済みだった。
ただし、聖理愛は偽装スキルを所持している。本当の能力や名前も鑑定には映らない。隆之介は、偽の名前と能力を知らされている状態だ。
そしてなにより、聖理愛は密偵が潜んでいることを最初から把握している。それを知った上で、わざと泳がせ洗脳の解呪もしていない。初期段階でひとりだけ解呪を試し、ダンジョン探索中の事故として処理する徹底ぶりだった。
そしていよいよ会談が始まる。
お互いが握手を交わしたところで隆之介がスキルを発動。が、当然のように失敗し、その場で聖理愛に一突きされて死亡する。次の瞬間には、護衛の冒険者含め、全ての者が呪縛から解放された。
ここからは予想になるが、首都にいる議員たちの洗脳も解けていると思われる。
「あのときあなたに、私のことを公言されてたら……ちょっと面倒なことになってたかも知れないわね」
「ん? ああ、賢者のときか。まあそうだったとしても、どうせ上手くやったんだろ? そんな気がするよ」
これまでの立ち振る舞い、彼女の胆力なんかも含めて、なんとかしちゃうんだろう。実際、今回も成功させたわけだしね。強盗だとバレようが関係ないと思う。
「さて、と。もうコイツの鑑定は済んでるわよね?」
「ああ、どうするつも――」
私が返事をする途中で、聖理愛はおもむろに火魔法を放つ。すると対象は、あっという間に消滅していった――。まだスキルの強奪はしてないし、聖理愛の鑑定結果にも一切の変化はない。
「なるほど……目の前でコレを見せるためにわざわざ呼び出したのか」
「こうでもしないと、今度は私を疑うでしょ?」
「たしかにな。ここまで徹底されたら疑いようがないわ。――でも良かったのか? 折角のスキルを無駄にしちゃって」
「私、自分の命を引き換えにするほど馬鹿じゃないわよ?」
隆之介が帝国に来ていたこと、そして密かに始末されていたこと。これを後から聞かされたら、遺体の処理も含めてずっと怪しむことになっただろう。
『スキルを強奪すれば、今度は自分が標的になる』
それを天秤にかければ、今回の対処は最善の選択だといえよう。
「わかった。聖理愛の、そして帝国の誠意として受け取るよ」
こうして、獣人国を騒がせた人物がこの世を去った――。
結局、一度も対決せず、話しすらできなかったが……こういう末路は誰にでもあり得る。どんなに強力なスキルがあっても、終わるときは一瞬なのだ。それはもちろん自分だって例外じゃない。
そんなことを考えながら、気を引き締め直すおっさんだった。
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隆之介(死亡) Lv37 31歳
職業:詐欺師
スキル:精神干渉Lv4(0/100)
他者の精神に干渉して従属させる
※自身より高位な存在には干渉不能
※自傷行為を強要することは不可能
※自衛能力を阻害することは不可能
<発動条件>
1.対象を目視する
2.対象に接触する
3.対象の名を発する
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