第177話 それ、電源はどうしたんだ?


 ひとつ目の家、漫画部屋をあとにして次の家へと向かう。


 部屋の中をのぞくと……春香と椿、それとなぜか冬也までいた。ついさっきまで外にいたはずなんだが、一体いつの間に……?


「「あ……」」


 私を見た春香と冬也は、申し訳なさそうな顔をして固まっていた。二人の手にはゲームのコントローラーがしっかりと握られている。テレビ画面に映っているのは有名な据置き型の対戦ゲームだった。


「お? コレ知ってるぞ。やったことはないけど、ゲーム実況で何度も見たことあるわ。向こうで流行ってたよな」

「……ごめん村長、すぐ戻るよ」


 シュンとした冬也は、ちょっと泣きそうな顔をしている。自分が気を抜いたことが許せないのかもしれない。


 いつも頼れる存在だからつい勘違いしてしまうが、彼はまだ16歳になったばかり、本来ならこれが普通の行動なのだ。正直なところ、こんな一面を見れて安心している。咎める気持ちなんて一切湧いてこなかった。


「外の警備は万全だ。少しくらい遊んだって構わないぞ。それにせっかくゲームができるんだから……って、ちょっと待て。おまえら、なんで遊べてるんだ? これ、電源はどうした?」


 一瞬気づかなかったが、テレビもゲームも電源がなければ遊べない。電気なんて通ってるはずがないし……どうなってるんだ? そう考えながらすぐにケーブルの行く先を調べると、よくわからない黒い箱に突き刺さっている。箱の上部には蓋があり、それを開けると魔石が中に入っていた。


「発電の魔道具、ってことか? でも電圧とか……これもファンタジー補正でどうにかなっちゃうの?」

「わたしの鑑定だと『帯電の魔道具』ってでたよ。どうも王国製みたい、しかも製作者は日本人ぽい名前だった、かな」


 ちょっと罰が悪そうな態度でそう語る春香。たしかに製作者の名前は日本人のそれだった。『魔導技師』あたりの職業持ちが作ったんだろうか。しかし、こんなのがあるなんて初めて知ったわ。


「王国にはすごいヤツがいたんだな。――それにしても、漫画喫茶の次はゲームセンターか。ここの村長、ホントやりたい放題だな……まあ、いい趣味してるけど」

「村長。ここにあるタイトル、最新のやつが結構あるぞ。本体もソフトもほとんど揃ってる感じ。しかもこれ見てくれ、こいつの製造日も割と新しいんだ」


 そう言って掲げたのは、いわゆるポテチの袋だ。ほかにも何本かのペットボトルも捨ててあった。いずれも中身は空っぽだけど、どれも製造日は新しい。どれもこれもこの世界に転移して以降に作られている。漫画にゲーム、それに食品まで……ほんとになんでも取り寄せれる感じか。


(同じ村長でも、全然違う能力と見てよさそうだな。快適に生きるって意味じゃ、完全に俺の上位互換だろう。てか、もうこれ最強なんじゃね?)



「よし、これも全部回収しよう。大事な調査資料だ。持ち帰ってじっくり検証するぞ! もちろんお前らも付き合うだろ?」


「っ、ぜひオレに任せてくれ!」

「あ、ズルいよー、わたしもやるー!」


 敷地占拠からの接収ムーブ。いろいろアウトな気もするが、捨ててあるのだから問題ない。問題ないことにしたい。まだ見ぬ村長に感謝して、持ち帰ることに決めた。



 ――それからも敷地中を見て回ったが、目新しい発見もなく1時間ほどで調査は終了となった。ちなみに3つ目の家は空っぽだったよ。何に使われていたのかもわからず仕舞いだった。



「啓介さん、ここの結界はどうしますか? 無理に維持する必要はなさそうですけど……」


 撤退の準備も整い、結界の維持について桜が聞いてくる。


「そうだなぁ。すぐそこに浜辺があるし、魚人たちが喜びそうじゃない? 海水浴なんかもできそうだから、娯楽としても使えそうだよな」

「なるほど、それはいい考えですね」


 しばらく様子を見てからになるけど、いずれは有効利用できると思う。


「それに、気になることがひとつあるんだ」

「気になる、ですか?」

「この場所ってさ、どう見ても長期間放置されてただろ? でも荒らされた形跡がない。これだけオークが闊歩してるのに……変じゃないか?」

「たしかに……家の中もキレイでしたね」

「俺もよくわからんけど……このままにしておくのが正解な気がする」


 これまでも稀にあった第六感的なヤツ。それを久しぶりに感じていたのだ。もちろん何の根拠もないが……。


「ただ、転移陣だけは撤去しとくよ。ないとは思うが、もうひとりの村長に使われるとマズいし」


 結界の中に入れるとは思わないが、いきなり村に現れても困る。


「わかりました。村長たちしんがり部隊を残して撤収しますね」

「了解。桜司令の指示に従おう」



 こうして、ひととおりの調査が完了する。


 今後も捜索は続けるつもりだが、なにせ範囲が広すぎる。長期にわたりそうなので、じっくりと慎重に行うことが決まった。




◇◇◇


 ナナシアに戻ったあとは、ただちに会合が開かれた。議題はもちろん今回の収穫物についてだ。

 久しぶりに目にした日本の文化。薄れていた欲求も、アレを見てしまえばよみがえってしまう。王国村長も気になるけど、目先の娯楽には抗えない。


「今日回収したものは、娯楽施設として一般開放しようと思う。別段、隠しておく必要性も感じないしね」

「獣人たちは平気でしょうけど、日本人は大丈夫でしょうか? 王国村長になびくとか考えられませんか?」

「椿の言う可能性も無くはないけど、そこは割り切ってもいいんじゃないかな。こそこそ隠して、それがバレたときの方がよほどマズいと思う」

「たしかに……それは良くないですね」


 椿の懸念もよくわかるが……その程度で揺らぐようなら、ほかの理由でも一緒だ。事あるごとに心配しなくちゃいけなくなる。


「一部の者が独占している、そんな噂が流れるよりかはマシですよね」

「ああ、私も桜と同じ意見だよ。休日の気晴らしにもなるし、そこまで悪いことにはならないはずだ」


 兎にも角にも、娯楽要素が増えるのはいいことだ。獣人たちの中にも興味を持つ者がいるかもしれないし、ぶっちゃけ私も楽しみたい。椿も納得してるようだし、ほかのメンバーからも否定的な意見はでなかったので、専用の建物を用意して開放することになった。


(最初のうちだけだと思うけど、しばらくは大混雑するだろうな。これは専属の管理人を決めて運用した方がよさそうだ)



<今回の調査報告>


・王国村長は10代半ばの男性と予想される


・王国村長は数か月前に拠点を移した、もしくはすでに死亡している


・村長か村人のなかに、日本の品物を取り寄せるスキル持ちがいる


・王国には特殊な魔道具を作れる日本人が存在する。現在は帝国に移住している可能性が高い


・オーク大発生地帯は予想以上のオークが闊歩していた。戦闘能力を持たない一般人は生きていられないレベルだった


・大陸北側の海は一面が砂浜となっていた。漂流物は自然由来のものだけで、文明を想起させるものは皆無だった


・王国内にあるダンジョンのうち、50か所を結界で囲った。王都近くのダンジョンも1か所確保をしている。


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『帯電の魔道具』

魔石に含まれる魔力を電力に変換する魔道具

制作者:英児えいじ

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書籍類:約3,000冊(うち100冊は封印)

テレビ:4台

ゲーム機本体:4基

ゲームソフト:200タイトル

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