第113話 村ボーナス★★


異世界生活239日目



 街を訪れて3日目、朝一番の開門を待って帰路につく。

 

 街を出るときの検問はゆるいみたいで、たいしたイベントもなかった。そのまま森の入り口まで送ってもらったあと、メリナードたちと別れて村へと帰還した。




「村長、椿さん、おっかえりー!」

「ただいま夏希、留守にして悪かったな」

「そんなことより、今度はわたしも連れてってよね!」

「もちろんだ。希望者をつのってみんなで行こう」

「よっしゃー! 約束だよっ」


 村に入って早々、夏希が元気に出迎えてくれた。


「私は自宅に寄ってくけど、椿はどうする?」

「それでは一緒にいきましょう。ステータスも確認したいですしね」


 たった2日とはいえ、そこそこイベントもあったし、何か良い変化があるかもしれない。そんな期待を密かに抱きながら自宅へと移動する。



 居間に着いてすぐ、椿からステータス確認をしたが、何も変わりはないようだった。まあこれが普通なので、とくに落ち込んだ様子もない。


 今度は私がモニターに触れると、いつものごとくズラっと並んだ項目が映し出される。


「あっ、☆の色が変わってる……。村ボーナスが進化したってことか!」


 慌てて村ボーナスの欄をみると、『万能な倉庫』の名称がいつもと違う。★マークも黒く塗りつぶされており、進化しているのは間違いなかった。


「おめでとうございます!」

「ありがとう。っと、どれどれ、内容の方は……」



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啓介 Lv90

職業:村長 ナナシ村 ★★☆

ユニークスキル 村Lv9(150/2000)

『村長権限』『範囲指定+』『追放指定』

『能力模倣』『閲覧』『徴収』

『物資転送』『念話』『継承』


村ボーナス

★  豊穣の大地


★★ 万能貯蔵庫<NEW>

村内に貯蔵庫を設置できる(品質劣化なし、複数設置可)。ただし、貯蔵庫の規模と設置数は村人口に比例する。 ※解放条件:初めての建築と備蓄、商店の設置


☆☆☆ 女神信仰

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『万能な倉庫』が『万能貯蔵庫』に進化している。今までとの違いは、複数設置できるようになったとこか。規模と設置数は、人口に比例するらしい。


 追加の解放条件は「商店の設置」、メリー商会の倉庫を村化したのがトリガーだろう。村では通貨を利用しないから、商店を設置することはない。街に行かなきゃ一生進化しなかったかも知れない。



「なあ、貯蔵庫って聞くとさ。どちらかといえば、倉庫よりも小さいイメージじゃない?」

「たしかにそうかもですね……。あと、食品とかを貯めておく印象があります。偏見かもしれませんけど」

「いや、私もそんな感じだよ。なんか規模が小さくなった気がする」

「サイズも気になりますし、今から試してみましょう?」

「だね。ステータス確認も済んだことだし、すぐ検証しにいこう!」



 倉庫がある場所に向かい、万能倉庫をチェックすると、鑑定による名称が『万能貯蔵庫』に変化している。今ある倉庫のサイズは縦横60m、高さは10m。村人1人あたり1m延ばせる仕様だ。現在の村人総数は150人なので、まだまだ大きくできる状態だ。

 

「まずは最小サイズで設置してみるよ。一度置いた貯蔵庫は、二度と撤去できないかもしれないしさ」

「もしそうなら、設置場所に悩まされそうですね……」

「まあ、いろいろ試してみよう」


 サイズ調整から始まり、撤去や移動ができるか、何個置けるかなどを順番に検証していった結果――。



1.最小サイズは高さも幅も1mで、そこから1mずつ大きくできる


2.移動はできないが消すことは可能。その場合、中身はその場に放置される。消した分の容量は消滅せず、元に戻る


3.設置数の制限はたぶん無い。少なくとも90個は置けた。この検証が一番面倒だった……


4.温かいスープをしばらく入れておいたが、1時間経過しても冷めなかった。温度変化もないし、たぶん劣化もないと思われる



 検証の途中で夏希も(冷やかしに)加わり、たっぷり3時間かけ、全ての確認がおわった。



「村長、これは冷蔵庫として使えそうだよ!」

「保温もできますから、一家に1台あると便利そうです。皆さん、とても喜ぶと思いますよ」

「鉱山や海にも置きたいな。出来立ての料理もそうだし、獲れた魚も保存が効く。あぁそれと、街にも置けるといいんだがなぁ」

「物資転送と違って村長のスキルじゃないですし、ちょっと難しそうですね」


 まあそれでも、いろいろと使い勝手も良さそうだ。遠征時の長期滞在にも使えるし、素晴らしいボーナスに進化してくれた。



 まだ外も明るいので、そのあとは各家庭や食堂をまわって貯蔵庫を設置していった。

 夕方、桜に氷を生み出してもらうと、村のみんながそれを持って自宅に走っていった。中にはこっそり、蒸かした芋を運んでいく連中も出始め、「オレもわたしも」と行列になっていた。夜食にでもするつもりか。



「冬也よ! これさえあれば、遺跡ダンジョンへこもり放題じゃぞ!」

「やっぱドラゴさんもそれ考えた? 食事も1回転送してもらえば済むし、ミノ肉も保管しておけるもんな!」

「早く巨大牛に会いたいのぉ……。なあ村長、お主もそう思うじゃろ?」

「いや全然? 言っとくけど、しばらく村を出るつもりないからな」

「なんじゃと!? 街へはフラフラ行ったくせに、そのようなことを申すか!」

「そうだそうだ! しかも椿さんとふたりきりだったんだぜ?」

「待てっ、それはこの件と関係ないだろ!」

「ほっほぉ、それは由々ゆゆしき事態じゃ。本来なら儂らも黙っていたいが……村長がそういう態度なれば、」


(おいおい、こいつらおどしてきやがったよ。……だが、恥ずかしいことは何もしてないんだ。堂々と胸を張ってればいい、くっするなよ俺!)


「よーし、ちょっと椿さんたち呼んで来ちゃおっかなー。街でのことも聞いておかないとだし、チラッ」

「おまっ、卑怯ひきょうだぞ! しかもチラッて何だよ。口に出ちゃってるぞ!」

「冬也よ、そう責めてやるな。村長もひとりの男じゃ、あんなことやこんなことの一つやふたつ……それでお主、どうなんじゃ? チラッ」

「……はぁぁ。わかった、わかりました。今すぐは無理だけど、必ずまた行けるようにするよ……これでいいだろ?」

「さすがだぜ村長! ――んでいつ行く? 明日か? あさってか?」

「そんなの無理に決まってるだろ! せめて他のみんながミノを倒せるようになってからだ。それくらいは我慢できるだろ?」

「村長よ、言質げんちはとった。儂らも楽しみに待っとるぞ、クックックッ」


 しかしコイツら、なんでこんなに戦いが好きなんだ? 村のためにとか、強くなりたいのはわかるけど……絶対なにかとりいてるぞこれ。



 

 椿たちは協定を組んでるし、全部筒抜けなのはしょうがない。今も春香が手招きしてるし、ここからが今日の本番だ……。



 ある意味、おっさんにとってのボス戦が、今まさに始まろうとしていた。





















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