第9話 村の生命線

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椿 Lv1

村人:忠誠65

職業:農民

スキル:農耕Lv1

土地を容易に耕すことができる。

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「あの……すいません」


 申し訳なさそうな様子の佐々宮さんは、ボソッとそう呟いた。


(忠誠度65、これだけあればとくに問題ないんだが、藤堂さんの後だからな……)


「佐々宮さん、何も気にすることはありません。むしろこの数値でも高すぎるくらいですよ」

「そうですか……」


 全然フォローになってなかった。場に微妙な空気が漂っている中、藤堂さんが加勢してくれる。


「たしかに、この数値は十分に高いと思いますね。なにせこれは、日下部さんに感じた、ですから」

 

(……あ、なるほど)


「私と佐々宮さんとの差は、本来そこまでは変わらないと思います。決定的な違いは、日下部さんの持っているスキルの有能性を、正しく認識しているかどうかです」

「……?」


 まだよくわかっていない佐々宮さんに、藤堂さんが続ける。


「森で獣に生きたまま食い殺されたり」


「一息つく場所もなく、夜も外敵に怯えながら眠ることもできず」


「食べるものなく餓えて死んでしまう」

 

「魔物や他の転移者に犯され殺される」


 佐々宮さんは、急に恐ろしいことを言われ動揺している。


「すぐに思いつくだけでも、これだけ死に直結した危険がありますが、この村の中にいれば、そして日下部さんのもとにいれば、かなりの確率で回避できます」

「たしかに、その通りよね。そこまで思い至らなかった……」

「ちょっとキツい言い方をしてごめんなさい。でもほら、ステータスを見てください」

「あっ」


 佐々宮さんの忠誠度が65から70に上がっていた。


「異世界に関する認識の差が出てるだけで、二人に大きな違いはありません。これから話し合っていけばまだまだ上がりますよっ」

「桜さん、ありがとう」


 納得できたからなのか、忠誠度が上がったからなのか判らないが、気を取り直した様子で安心した。


「それじゃ、本題に入ろうか」


 落ち着いたところでスキル画面に視線を戻す。


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椿 Lv1

村人:忠誠70

職業:農民

スキル:農耕Lv1

土地を容易に耕すことができる。

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「農民という職業は、どの程度役に立つんでしょうか」

「そうだね。この村にとっての生命線になるんじゃないかと思ってるよ」

「生命線……そんなにですか?」

「今現在、この村には結界があって、外敵の侵入リスクが低いよね」

「はい、かなり安心できます」

「さらに、藤堂さんの水魔法があるので飲み水の心配はない。そうすると、差し当たって危惧すべきは食糧問題となる」

「そうですね」

「周辺に動物がいれば肉が手に入るけど、上手く捕獲出来るかもわからない。ということで、農作物を栽培するのに、農民のスキルは絶対生きてくると思う」


 野菜は庭にある家庭菜園で、きゅうり、トマト、じゃがいも、たまねぎ、さつまいもを育てている。秋蒔き用のレタス種もあったと思う。


「でも、スキルを見る限り、耕すだけのようですが大丈夫でしょうか」

「説明文に『容易に耕す』ってある。試してみないとだけど、地面が簡単に掘れるならそれだけでもすごいよ」

「そう都合良くいくでしょうか」

「まあそこは後で試してみようよ」

「わかりました」


 実際やってみて対処を考えよう。こういうことは前向きにいきたい。


「あとは、スキルレベルが上がったときに期待かな」

「はい、がんばりますね」

「よろしく頼むよ。藤堂さんは、何か思いつくことあるかな」

「ん-、この世界の気候に関してと、植物の成長速度が気になります。気候が安定してるとか、魔素の影響により植物の成長が早いとか。そういう、良い方向の異世界あるあるに期待です」

「全くだね」


 なんにせよ、無事に二人の村人を得ることができた。忠誠の問題も解消してひと安心したところで、改めて自分のステータスを表示する。


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啓介 Lv1

職業:村長 (村名なし)村

ユニークスキル 村Lv2(2/10)

『村長権限』

村への侵入・居住と追放の許可権限を持つ。※村人を対象に、忠誠度の値を任意で設定し自動で侵入・追放可能


『範囲指定』

村の規模拡大時に、拡大する土地の範囲と方向を指定できる

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 先程アナウンスにあったとおり、スキルの能力が追加されていた。ほかにも、スキルの横にある括弧内の数値も(0/5)だったのが(2/10)に変化している。


「普通に考えると、括弧の数字は現在の村人数とその上限数ですかね」

「そうだね、私もそう思うよ。アナウンスによると敷地の拡大も出来るらしい」

「それをこの『範囲指定』の能力で指定できる訳ですね」

「ああ、今からさっそく、どの程度拡大できるのか確認しに行こうと思うんだけど」

「いいですね、早く行きましょう!」

「はい、ついて行きます」






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