第104話 アルフェとの約束
アルモリア草は、トーチ・タウンでは魔導器や錬金術の材料を売る『魔法屋』と呼ばれる店で扱われている。放課後にアルフェと共に向かったが、運悪く売り切れていた。
「次の入荷は三週間後だよ。街の北東、二十キロぐらいのところに群生地はあるけど、あれを見つけるのは難しいし、近くの廃墟は物騒な輩が集まってるってもっぱらの噂だよ」
「……わかりました、ありがとうございます」
子供のお遣いだと思われたのか、同情の目を向けられてしまった。だが、お陰で有益な情報が得られたので、丁寧に応対しておく。入荷したところで、必要量を確保できるかわからないし、今はとにかく時間が惜しい。
「……行くの?」
店を出たところで、アルフェが僕の顔を覗き込みながら聞いてきた。
「そうだね。今は母上のために、一刻も早く抑制剤を作りたい。ホムを連れて行くよ」
本音を言えば、ホムは真理の世界で負った心身の損傷や疲労が見えないので大事を取りたいところだが、壁の外の危険を知っているアルフェを安心させるにはそれしかない。
「ワタシの浄眼が必要だよね? 一緒に行く!」
参ったな、
「壁の外は危険だ。またあの巨大なウサギが――」
「ううん。アルフェもリーフの役に立ちたい! アルフェだけ、普通に学校でお勉強するなんて出来ない……無理だよ……」
セント・サライアス中学校が出した特例は僕にだけ適用されている。アルフェが不安を抱えて一人で今日一日を過ごしていたことに思い至り、胸が痛んだ。
「……出来るだけ早く戻ってくる。だから、聞き分けてほしい」
「ヤダ。リーフ、アルフェと約束したもん。ずっと一緒だって……」
まさか、こんな時に『約束』を持ち出されるとは思わなかった。だが、それだけアルフェの真剣さが伝わってくる。僕のために何が出来るかを、アルフェなりにずっと考えていてくれたんだろうな。
「それに、浄眼があればアルモリア草はすぐに見つけられるよ。そうしたら、危ないところから早く離れられるもん」
正直なところ、アルフェの浄眼があればアルモリア草の採取は非常に効率的になるし、壁の外に出る時間が短ければそれだけ危険に晒される時間が少なくなるというのは、一理ある。
「……まったく、アルフェにはかなわないな。君のいうとおり、浄眼の力は必要だ。アルモリア草は周囲のものと同化するから、見分けがつかないからね」
「でしょ?」
僕が同行を許可するとわかり、アルフェの表情が少し明るくなった。アルフェはやっぱりこうして笑ってくれていた方がいいな。だからこそ、この笑顔が失われるなんてことは、絶対にあってはならない。
「……いいかい、アルフェ。ひとつだけ約束してほしい。危険が迫ったら、必ず逃げるんだ。母上に続いてアルフェになにかあったら、さすがの僕も耐えられそうにない」
「うん、約束する」
きっとアルフェのことだから、僕とホムと一緒に逃げるつもりなんだろう。そうならないように、これまで以上に気を引き締めて準備をしなければならないな。
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