10.1話

 軍議が進んで各部隊の配置が決まったあとで、オーリエールのテントに個別に呼び出されたカナは、顔を見るなりいきなり用件を伝えられた。


「カナ、仕事が決まったよ。お前さんには支援隊をひとつ率いてもらう」


 片眉をあげながら、オーリエールが力強く笑う。


『ずいぶんといきなりじゃな。大胆な起用をするものよ』


 クロの言う通り、入ったばかりの新人を部隊長にしようというのだから中々の無茶ぶりである。

 一方のカナも、さほど間を置かず、すぐに質問で返した。


「……支援隊、とはどのようなことをすれば良いのでしょうか?」


「やばそうな仲間のとこに駆けつけて助けるのさ。自己判断で好きなように助けりゃいい。なるべく被害が出ないようにやっておくれ」


「……なるほど、後詰めごづめというわけですか。了解致しました」


 小さく頷いてから、カナはあっさり引き受けた。

 自信のあるなしですらなく、指示通りにやるより好きなように動いた方が楽しそうだと考えただけだ。


「隊員がそこのやつらだ。それじゃ、このあと他の隊にも指示出さなきゃならんから戻っておくれ。ミルカ、あとは任せたよ」


 オーリエールが視線で退出を促し、言われるままに外に出る。

 その後、共に退出したふたりの男女がカナに反応を示した。

 

 緊張気味に男の子が口を開く。


「み、ミルカ・ベイレイルと申します。よろしくお願いします、カナさん」


 あどけない童顔の少年、ミルカ。

 数日前に試合で向き合った少年であった。

 大人しそうな顔立ちながら、真面目な努力家という印象も受けるその少年を見て、まるで物語の主人公みたいな容姿だな、とカナは思ったものだ。


「おや、あの時の。こちらこそよろしくお願い致します、ミルカ。それと……イブ、ですよね」

「はーい、イブでーす。はぁ、なんで前線送りになったんだ、あたしゃ……」


 がっくりと死んだような目をしたイブが、まだ余裕ありそうな口調で答える。

 そんな様子に構わずにカナがにっこりとあいさつした。


「ご一緒できて嬉しいです、イブ。右も左もわからないので教えてくださいね」


「しっかし、いきなり部隊を任せるババアもアレだけど、わからないのにあっさり引き受けちゃうカナちゃんも凄いねぇ」

「いきなりグランマから抜擢されるとは凄いです、カナさん!」


「僕はまだ何もしていないのに、それもどうなんですかね?」

「ま、ババアの見る目は確かだよ。なんらかの理由があって抜擢してるし、無意味なギャンブルをするようなタイプじゃないからさ。……よーし、とりあえずやってやりますか。さあ、ミルカっち、カナちゃんに説明をするんだぜい!」


 しゃきっと元気な動きに戻り、イブが全然関係ない方向に指を突き付けた。

 相変わらず珍獣と呼ばれるに相応しい行動だが、もしかしたら他の者の緊張をほぐすためにやっているのかもしれない。

 セタ兄様も口は悪いけど優しい人だったし……、などとカナが色々考えだしたところで、ミルカが説明を開始した。


「あ、そうですね。先程、グランマが仰ったように、他の部隊の支援をするのが主な役割です。危なそうな味方をすぐに見つけて、やられる前に救うというとても難しい役目です。たった3名でそれを行うのでカナさんの実力が相当見込まれているとしか考えられません。俺なんか手も足も出ませんでしたし、お美しいですし!」


 ちょっと頬を赤くしながらミルカがカナを褒めちぎった。

 お貴族サマの社交辞令には慣れていたが、ストレートに美しいなどと言われると少々恥ずかしいやら気まずいやら。


 ともあれ、どうやら結構大変そうな役目らしい。

 ぱっと考えるだけでも常に味方の状況を把握して、救助が間に合うように戦局の流れを読まねばならないのだ。

 単純に敵を倒すよりもずっと難しい仕事だろう。

 うまくできるかな、と少し不安そうに考え出したカナに、イブの言葉が突き刺さった。


「つまり、戦場の聖女ってとこだねぃ!」


 ……また聖女ですか。

 元は男なんですけど。

 そんなカナの様子をみて、クロがからかうように語りかける。


『こふふ。ここでまさかの聖女様、再び。聖女に縁があるのう?』

『むー、クロめ。いいけどさー』


 と、カナは微妙にやり切れない思いを抱くのであった。

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