9.数少ない貴重なサービスシーン(弱)
七年ぶりだって……?
耳を疑わざるをえなかった。
しかしこれほど至近距離。聞き間違えるなんてことはありえない。
だとすればなんだ。俺はまたおちょくられているのか……?
問いただしたいのは山々だったが――、
「お、おい、芥川……むぐっ!」
今の俺はそれどころではない。
なにせ顔面が芥川の胸元に押さえつけられている。芥川の細腕によって。
つまりまともに喋れない。動こうとすれば慎ましくも確かな膨らみに余計包み込まれてしまう。
よろしくない。非常によろしくない。
「むーっ、むーっ!」
「うんうん、センパイも身悶えするくらい喜んでくれるんですね。あたしとの再会をっ」
違う、そうじゃない。
そうじゃないが、それを伝えることもままならない。
右手で芥川の細腕を軽く叩く。ギブアップの意を示すべく。
しかし悲しいかな、その手も芥川の細い指先に絡め取られ、
「そっかそっか、センパイは手を繋ぎたいんですねっ。あははっ、いきなり甘えん坊さんですね、セーンパイっ」
なぜそうなる!
という突っ込みも心の中のみで霧散。言葉にできない。
――こうなったら仕方がない。
手を上げるのもどうかと自制していたが、ここはもう片方の手で叩いてでも抜け出すしか……などと覚悟を決めていた時、
「――あっ」
突然、苦しさから解放される。
俺はなぜか突き飛ばされ、畳みの上に尻もちをついていた。
「お、お前……急に抱き着いたり突き飛ばしたり。一体なんなんだ」
「だ、だって、思い出したら恥ずかしかったんですよぉ」
「はあ?」
見上げると、芥川はベッドの上で顔を真っ赤にしている。
それから自分の腕や服の匂いをくんくんと嗅いでいた。
「あの、センパイ……あたしの匂い、か、嗅ぎましたか……?」
「だとしたらなんなんだ」
「えーっ! ちょ、忘れてください忘れてくださいー!」
「ちょ、おい、毛布を投げるな――ふごっ」
ついでに枕まで飛んできて、俺の顔面にクリーンヒットする。
柔らかい材質のため痛くはなかったが、それでも不意を突かれればえずきもする。
「あのな、俺はお前に抱き寄せられてたんだぞ。これでどうやって嗅ぐなと言うんだ、呼吸するなとでも言いたいのか」
「それが可能ならそうしてほしかったですっ」
「殺す気か!」
無茶苦茶言いやがる。
……まあ、実際は抱き寄せられる前にも嗅いではいたが。いずれにしても不可抗力だ。
「だ、だって……あたしの体、汗くさくなかったですか……?」
「なんだって?」
「に、二度も言わせる気ですか! 乙女が! こんなにも恥ずかしがってるのに! 照れてるのにっ!」
う、ウゼぇ……ほんとに照れてんのかお前は。
――この言葉の端々にまで染みついたウザさは、間違いなく芥川だ。芥川のはずだ。
「そんなことよりお前、どういうつもりだ。なんの嫌がらせなんだ」
「はい?」
「とぼけるな。階段のところで倒れていたりとか、七年ぶりがどうとか……また俺をからかってるのか? 部室だけじゃなく、部屋に来てまでウザ絡みしたいのかお前は?」
「えっ、部室ってなんのことですか? あたし、センパイに会うの、本当に七年ぶりですよ?」
きょとんとした顔になる芥川。
またその設定か、と呆れかけた時、芥川は「あっ」と手を叩き、
「もしかしてセンパイ、人違いしてるんじゃないですか?」
「人違い、だと……?」
「そうです、その通りですっ――あたしと、
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