第38話 告白
「里桜さん、俺は……す、す……」
その続きが言えない。言葉が続かない。
上を見上げると、空はどこまでも晴れていた。
冬の空気の冷たさが、沈んでいく夕日の暖かさを強調していた。
「先輩……」
里桜さんはそう言って、一歩前に進み俺の胸元に顔を寄せる。
じわっと、彼女の温もりが伝わってくる。
「俺はずっと、この瞬間を迎えられないのだと思っていた」
「えっ?」
「いつか見た光景は、きっと夢で手の届かないところにあるって思ってた。でも、今こうやって里桜さんと一緒にいると、なんでもできそうな、そんな夢だって見ることができる」
「……先輩?」
里桜さんは、意味が分かったような分からないような、そんな微妙な表情をしている。
そりゃそうだ。
幾度と見た夢の先に、この告白が待っていた。
今だってそうだ。でも、それには……乗り越えないといけない壁がある。
でもその壁が見えるのは、俺だけなんだよな。
「ごめん、意味分からないよね」
そう言うと、里桜さんはふるふると顔を振った。
「先輩って、いつも一生懸命ですよね?」
「そうかな?」
「はい。私には、そう見えます。今だって、何かを伝えようと一生懸命です。あの時も、あの時も……。だから私は、あの……す、す……」
今度は里桜さんが、つっかえて先に進めなくなっている。
俺はその様子を見てくすっと笑った。ああ、俺たちはもう……。
彼女の肩に、そっと手を置く。
その後の俺の言葉は、もう止まることは無かった。
「里桜さん、好きだよ……初めて会ったときから、ずっと」
里桜さんの頬に涙が伝った。
俺は人差し指の腹で拭いながら、彼女の顔を見る。
「せんぱい……じゃあ、付き合って……」
「うん。付き合って欲しい。里桜さん」
「……はい……よろしくお願いします……あぁ」
静かに頷き、里桜さんを抱きよせる。
ぐっと、抱きつかれるように彼女の体重が俺にかかってくる。
「先輩、ごめんなさい。少しだけこのままいさせてください」
わずかに見える里桜さんの瞳から、ぼろぼろと涙がこぼれている。
思えば、初めて会ったのは、茜色の夢だった。
あの時と同じことを、今里桜さんが口にしている。
でも、あの時と決定的にちがうのは、その口元が緩んでいて、眉は下がっていても、微笑みがあることだ。
嬉しさ、愛しさ……たぶん、彼女は今そんな感情を抱いている。
艶のある髪の毛が、透き通るような肌が、そしてその温かい身体が……どれだけ尊いことか。
しかし、初めて里桜さんを見た茜色の夢と変わっていないこともある。
このままでは、里桜さんの命が尽きてしまうことだ。
絶対に、そんなことはさせない。
絶対に——。
「俺はずっと里桜さんを守る。これは、誓い」
「誓い……?」
里桜さんが、俺の言葉に反応する。
俺は彼女の頭を撫でながら、その言葉を口にする。
「うん。心に刻む誓いだよ。命に代えても、君を絶対に守る——」
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