093:100階層目
夏休みも後半になり、俺たちはクランメンバーと美優さん、そしてミカたちを含む合計5人と4体の怪と一緒に嚥獄ダイブをしている。そして、なんと今回は凛音も参加しているのだ。と言うのも、今俺たちは嚥獄の99階層目に来ており、恐らく次が嚥獄の最終階層だと予想している。そのため、せっかくだったら全員で嚥獄踏破の瞬間を分かち合いたいよね、と言うことで凛音にも参加してもらっているのだ。
正直嚥獄の下層に挑むには、凛音には荷が重いのだが侮るなかれ。実はコツコツと嚥獄にダイブしていたこともあり、凛音のレベルは52まで上がっており、オーラの量もSランククランのメンバーとして恥ずかしくないものとなっているのだ。今の凛音の力は控えめに言っても『青龍』で活躍ができるくらいあると思われる。
そして、俺たちも凛音に負けじとレベルアップを実現していた。今の俺のレベルは42まで上がっており、黒衣は85で瀬那は71、そして美優さんは70と全員が順調にレベル上げに成功していた。
ここで特筆するべきなのは、ミカたち怪メイドだった。基本俺たちは日中は嚥獄にダイブして、夜は怪と戦っているのだが、4体中2体の交代制で嚥獄から戻らずに、そのままダンジョンで魔獣たちと戦っていたのだ。その成果もあって、ミカは1等級中位となって、残りのウリたちは1等級下位までの力を手に入れたのだ。通常の魔獣ではなく、霊装を纏ったボスと戦ったことで、より良質な魂を取り入れることができたからだという。
怪メイドたちがここまでの力を手に入れたので、もはや滅怪や日国に現れる怪程度では彼女たちの脅威になることはないだろう。つまり、俺たちの拠点はミカ・ウリ・ラーファ・リエルの最強ガーディアンがいるため最早難攻不落となったと言っても過言ではないのだ。
「よし、遂に嚥獄の最終階層だと言われている、100階層目に行くぞ! 最後のボスなのだから、今までよりも強い魔獣が出てくることは想像に難しくない。だから気を引き締めて行くぞ!」俺が右手を上げると、全員が「おぉー!」と言いながら同じ動作をする。俺はみんなの顔を見渡すと、大きく頷いて階段を降り始める。
階段の中腹くらいまで行くと凛音が俺の隣に来て「ダンジョンの最終階層まで行ったらどうなるの?」と尋ねてくる。嚥獄の100階層目に行くというのに全然気負った様子のない凛音に安心しながら「特に何もないよ」と伝えた。
「え? ダンジョン踏破しても何もないの?」凛音は「面白くなーい」と言って、手をブンブンと振り回している。
「俺も最初は何かあるのかなって思ってたんだけど、階段がないだけで本当に特別なことがなかったんだ。――だよな? 美優さん」と俺は後方を歩いている美優さんに声を掛ける。
「あぁ。私も何度かダンジョンを踏破したことはあるが、特別なことは何一つなかったな」
「そういえば、美優さんが前いたパーティで、単独踏破したダンジョンの最高ランクってどれくらいなんだ?」
「Aランクのダンジョンを一回踏破したことあるぞ。国内にある3つのSランクダンジョンはまだ誰も踏破したことがないからな。ひょっとしたら、これからハンターの歴史上初めてSランクダンジョンを踏破できるかも知れないんだよな」とどこか誇らしげな表情を浮かべている
「だな。だけど、まだ次が最終階層か分からないんだから、期待しすぎるとガッカリするかも知れないぞ?」と少し揶揄うような口調で言うと「わ、分かってるさ」と少し頬を膨らませてそっぽを向いてしまう。いつもはクールな美優さんがそういうことをすると、ギャップでとても可愛く思えてしまうよね。ギャップって凄い!
それからしばらく歩いていると、100階層目の入り口が見えてきた。
俺たちは入り口の前に立ち止まり、中を見渡してみたが木が鬱蒼と茂っている以外特に変哲もない階層のように思えた。
全員の顔を見渡した後、俺たちは慎重に100階層目に足を踏み入れる。ここから突然魔獣に攻撃をされる可能性もあるので、俺たちは凛音を守るように中心に置いて周囲を見渡す。
「いきなり攻撃されることはなさそうです。あちらの方から霊装の気配を感じるので、突然の攻撃に気をつけながら進みましょう」と黒衣が俺たちの先頭に立ち、魔獣がいるだろう場所へと進んでいく。魔獣の攻撃に警戒しながら進んでいると「詩庵様」と俺の前を歩いている黒衣が声を掛けてくる。
「ん? どうした?」
「あの、嚥獄を踏破したら皆様にお話をしたいことがございます」
黒衣はそう言うと、俺の方に顔を向けて目を見つめてくる。その眼差しからは黒衣の強い意志を感じた。こんなにも真剣に俺に話したいことって何だろうか。俺は不思議に思いながら、「もちろんだよ」と伝えた。すると、黒衣はホッとした表情を浮かべて「ありがとうございます」と言うのだが、その表情が可愛らしくてここがダンジョンじゃなければ間違いなく頭を撫でていただろう。
「もう間も無くでございます」
黒衣がそう言うと、凛音を除く全員の目がスッと細くなり、それぞれの武器に手を掛ける。そして、ここからは俺と黒衣、瀬那に美優さんの4人が前に出て、ミカたち怪メイドたちは凛音を守るようにして少し後方に下がった。
「魔獣まであと200メートル……。150、120……」と黒衣が言ったところで、俺たちは鬱蒼と繁った森を抜けた。眼前には広大な荒野が広がっている。そして、その先には大きな体から9つの首が生えた多頭竜が、俺たちのことを見つめていた。しかし、様子を見ているらしくすぐに攻撃を仕掛けてくることはなさそうだ。ただ、その威圧感は今までの魔獣の比ではなく、正直今までのように簡単に勝てるとは思えなかった。
「ヒュドラ……ってやつかな?」と、ミカたちに守られながら、俺たちの大分後方で立っていた凛音が呟いた。
ヒュドラとは、神話に出てくる怪物だったよな。確か首を切るとそこから新しく2本生えてくるんだっけか?
そんな神話通りの怪物と一緒かは分からないけど、その可能性があることは一応念頭に置いておいた方が良いだろう。
「凛音……。ヒュドラで気を付ける点はあるか?」俺はヒュドラから目を離さずに凛音に訪ねる。
「神話通りだったら、首の再生能力だけじゃなくて、確か体からは常に猛毒が出ているみたいだけど……」
そう凛音が言うと、あることに気付いた俺は「ひょっとして、ここって普通の荒野じゃなくて、ヒュドラの毒で森が死んでしまったんじゃないのか?」と言うと、黒衣が「そうかも知れません。ここの土壌からは禍々しい感じがします」と肯定した。
俺は黒衣の言葉で確信すると、「凛音は森から絶対に出ないでくれ。ここから先は俺たちだけで行く」と言い、黒衣たちを見渡した。全員の覚悟は決まっているようで、「詩庵、私は大丈夫だよ」「あぁ、みんなで力を合わせて戦おう」と瀬那と美優さんが力強い眼差しで見つめてくる。そして、「参りましょう。詩庵様」と黒衣が言うと俺は頷いて、毒に侵された荒野に足を踏み出した。
★☆★☆★☆★☆
凛音は嚥獄でのパワレベにより、レベルだけは上がりましたが、ぶっちゃけ戦闘スキルはほぼないので、力はあるけど弱い子って感じです。
とはいえ、詩庵たちに比べたらなので、普通のハンターくらいだったら文中にもあったように、『青龍』でバリバリ活躍出来るくらいの力があります。(戦闘スタイルは力でゴリ押し)
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