偽装工作 2
ムツヤ達はしばらく呆然としたり、泣いたりしていたが、アシノが家から持ち出した担架にギルスを乗せて白い布を被せた。
「スーナの街へ戻るぞ」
アシノの言葉に全員が頷いて、担架はムツヤとモモで持ち上げる。
皆、無言のまま森を抜け、スーナの街へとたどり着く。城門前でアシノは担架をおろして言う。
「私がギルドへ言って事情を話してくる。それまでここで待っていてくれ」
アシノがギルドへ向かうとまた静けさが戻る。通行人が何事かと遠巻きにこちらをチラチラ見ている。
少し時間が経ち、アシノが戻ってきた。
「事情は話してきた、ギルドの遺体安置所は空いている。ギルスを運ぶぞ」
「……はい」
またムツヤとモモが担架を持ち上げると、人混みの中を歩く。
冒険者が死んでこうして運ばれることは年に数回はある。
察した住民たちは自ずと道を開けて野次馬になっていた。
冒険者ギルドの裏口にたどり着くとアシノは扉を開けた。1人の受付嬢が深々と頭を下げる。その横を担架を持って一行は歩いていく。
活気のある表口とは違い、暗く静かな雰囲気が漂っている。
そして、案内された1室にはベッドが3つ並んでいた。白い布を取り払い、ギルスをその1つに寝かせる。
「ここまで来ればキエーウの連中にも聞かれないだろ、皆おつかれ」
アシノはそう言ってうーんと背伸びをする。するとルーは笑い始めた。
「しっかしこれ良く出来てるわね、本当にギルス死んじゃったみたいじゃない」
「ムツヤ、ギルスに連絡は入れたか?」
「はい。監視していた2人の気配は一緒に付いてきていたんで、連絡は入れておきました」
アシノに聞かれると懐から連絡石を取り出してムツヤは言う。
時は少し戻って、先程ギルスとの戦いがあった場所。地面をよく見ると小さな穴が空いている。その横からボコッと手が伸びて人が這い出てきた。
「はぁはぁ、窒息するかと思った……」
出てきたのはアンデットではなくギルスだ。右手には呼吸をするために使ったであろう筒が握られている。
朝、モモに茂みの中へ隠しておいてもらったフード付きのローブを着て顔を隠し、ギルスはスーナの街へと歩き出した。
そう、ベッドの上に横たわるギルスは裏の道具の『握ると自分の人形を作り出す玉』で作ったデコイだ。
人形と言っても精巧に作られているため、死体だと言われれば見分けがつかない程であった。
ルーの精霊に囲まれた時、その内の1体が地中に穴を掘り、デコイを作ってからそこにギルスは隠れたのだ。
デコイは2時間ほどで消えてしまうが、キエーウを騙すには充分な時間であった。
ギルドの応接室にムツヤ達向かう。
そして、ギルドマスターであり、アシノの祖父であるトウヨウに今後の作戦を詳しく話していた。
その最中、部屋にノックの音が響く。
「入れ」
ギルドの中で最も口の堅いベテランの受付嬢が失礼しますと扉を開け、その後ろにはギルスが居る。
「あらー、アンデットかしら?」
「アンデットみたいな生活しているお前に言われたくないわ」
皮肉を返してギルスは応接室へと入った。
「ギルス、ご苦労だったな」
「いえ、大した事はありませんよ」
トウヨウに言われ、ギルスはそう返す。
「明日お前の葬式を行って、それで死んだことになるが、店はどうする?」
アシノに聞かれると、ギルスは「あぁ」と言って返答する。
「俺は本来、研究員志望だからな。裏の道具を研究できるってんならそっちが優先だ。常連さんには悪いが、店のものはギルドに寄付するって形で」
「良いのか、それで」
トウヨウに聞かれ、ギルスはまた答えた。
「俺は喧嘩別れで遠い故郷を飛び出したんで、身寄りがない様なものですから」
「そうか」と言ってトウヨウは頷く。
「お前の店が無くなったら、私達は困るが仕方がないな」
モモは少し残念そうに言うと、ギルスは笑顔を作る。
「そう思ってもらえただけ、店の店主としては嬉しいよ。でもこれから俺はギルドにこもって、裏の道具の研究をしながら君たちのサポートをする」
「つまり、店主から引きこもりにジョブチェンジってわけね」
「引きこもり生活しているお前には言われたくないな」
ギルスとルーは軽口を叩きあっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます