ギルスを仲間に 4

「まぁ、協力って言っても簡単な事だ。この青い石を遠くへ持っていって、実際に探知盤に映し出すことが出来るのか実験がしたいってだけだ」


「なるほどな、それぐらいだったら私が1人で行ってこよう」


 モモが引き受けようとするが、アシノはそれを止める。


「いや、個人で動くのは危険だ。人質に取られるかもしれない」


「それならば俺が魔法で走ってきまじょうか?」


「お前なら1人でも確かに大丈夫だが、そうしたら逆にこの家が襲撃されるかもしれん」


 アシノの意見は最もだった。ムツヤは1番狙われる対象であると同時に最強の戦力でもある。


「それじゃあみんなで仲良く遠足するしかないってわけか」


 ギルスが腕を組んで言うと、「そうだな」とアシノも相づちを返す。


「今から行ったら夜になってしまう、装備を整えて明日出発だな」


 アシノがそう言うと皆うなずいて了承する。


「そうだな、時間ができるのなら俺は他に役に立つ裏の道具が無いか調べてみたい。ムツヤくん、協力してくれ」


「わがりまじだ」


「あーん、私もするー! ムツヤっちは私が目をつけてたのよ、泥棒しないで!」


 ムツヤと研究家達は裏の道具を調べる事になり、他はまた訓練をすることになった。


 日が沈むと、皆ぐったりと今のソファーに座っていた。ユモトは鼻歌交じりに夕飯を作っている。


 それを眺めてコイツは貧弱なのかタフなのかわからんなとアシノは思っていた。


「お夕飯お待たせしましたー」


 手のこんだ料理が運ばれると皆ガツガツと食べていた。料理が美味いというのもあるが、それぞれ体と頭を使ったので栄養が必要だったのだ。


「ユモトくんは料理が上手いんだな」


 ギルスは感心して言う、いつもは自分の適当に作った男の料理しか食べていなかった為、ちゃんとした料理は久しぶりだった。


「そうよー、私のお嫁さんだから手を出しちゃダメよー?」


「だ、だからお嫁さんって!」


 ルーがまた適当なことを言うとユモトは恥ずかしがる。


「ユモトくん、コイツの言うことは適当に聞き流すと良いぞ」


「ギルスうるさーい」


 そんなやり取りを見てふとユモトは思う。


「おふたりはお知り合いだったんですか?」


「あぁ、コイツはたまに俺の店に来て『私の助手になれー』って騒いで困ってたんだよ」


「その野望はやっと今叶ったけどね」


 ルーはフフンとキメ顔でそう言った。


「誰が助手だ」


 ギルスは呆れている。


 何事もなく朝を迎えると、ムツヤ達は家から少し離れた場所へ移動する。


 出かける前に家にある裏の道具は全てカバンに詰め込み、探知盤から取り出した石をムツヤの魔法で地中深くに埋めておいた。


 探知盤の操作はギルスが行う。ギルスはあくまで研究員なので、簡単な魔法は使えるが、戦力としては数えられない。


 またモモとユモトを先頭にムツヤ達は街道を目指して歩く。


「やっぱ太陽の光は天敵だわー」


 夜ふかしをしていてぐったりとしたルーが言った。


「お前、いつも朝は元気ないな」


 アシノはそう言ってどんどん先へ歩いていく。


 そのまま順調に歩いて7人は街道に出た。その時ギルスは皆に話しかけた。


「家に置いてきた石が探知盤に反応するか見てみたいからちょっと待ってくれ」


ギルスは魔力を込めながら横についている歯車をグルグルと回す。


「やっぱりだ」


 ギルスは自分の読みが当たっていたことに思わずニヤリとする。


「この歯車で波長を合わせれば他の石の周りも見られるらしい」


 皆がギルスの持つ探知盤を覗き込むと、家の周りの地形が浮かんだ。


「凄いでずね、俺知りませんでした」


 こんな使い方はムツヤですら知らなかった。だがアシノは1つ懸念していた事を話す。


「キエーウは探知盤を少なくとも1つは持っているはずだが、あいつ等に利用されるって事はないのか?」


「大丈夫だ、波長は複雑な暗号みたいなものだから当てずっぽうで合わせることは不可能に近い」


「なるほどな」とそれを聞いてアシノは安堵する。


 しかし、別の緊急の要件が出来てしまった。表示を家の周りから自分達の周りに変えると赤い点が1つ浮かび上がっていたのだ。


「これは……」


 動く赤い点を見てギルスは渋い顔をした。


「あ、赤い点!!」


 ユモトが声に出して言うと、皆に緊張が走る。


「全員戦闘態勢だ!!」


 アシノがそう言うと全員で陣形を組んだ。


 ムツヤとヨーリィが前衛、アシノとルーが中衛、ユモトが後衛で、モモはユモトとギルスの護衛だ。


「敵は半径5km圏内に入ってきている!」


 ギルスが探知盤を見ながら言った。移動速度が遅いのでおそらく徒歩だろう。


「ここからじゃ街道が近くて誰かに見られる可能性がある、こっちから出向いてやるか」


「りょーかい」


 アシノの提案にルーは返事をし、他の皆も頷いた。


 陣形を崩さないまま赤い点の場所まで歩く。ユモトとモモは緊張をしている。


 全員無言のまま歩いていると、いつ接敵してもおかしくない距離までやってきた。


「あ、敵が見えまじだ」


 ムツヤが千里眼でいち早く敵を発見した。ギルスは双眼鏡でムツヤが指差す方を見てみる。


「おいおい、あれって……」


 敵がむき身で持っている剣はムツヤが持っている剣、ムゲンジゴクと同じものだった。


「俺の剣と一緒でずね」


「冗談だろ、なんで伝説の魔剣がこうポンポンとあるんだ!?」


「塔にはこれともう一本落ちていましたがら」


 それを聞いてギルスは頭を抱えた。コレは想像した以上にヤバいことに首を突っ込んでしまったのかもしれないと。


 ムツヤ以外の全員が肉眼で敵を見ることができる距離まで近づくと、何だか敵の様子がおかしい事に気付いた。


 ムゲンジゴクを持った敵は左右に揺れてフラフラと今にも倒れそうな感じで歩いている。


 そうかと思えば敵は魔剣を横に構えながらコチラへ走ってきた。ムツヤが飛び出して敵とかち合う。


 斬りかかってきた敵の魔剣とムツヤの魔剣がぶつかり合い、激しい炎から爆風が生まれる。


 次の瞬間、皆は目を疑った。あのムツヤが吹き飛ばされ、地面に仰向けに倒れたのだ。敵はと言うと倒れずに立ったままだ。

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