それぞれの想い 4

 6人は家を出てしばらく歩き、森の道まで来た。ムツヤにおんぶされているルーは幸せそうに眠っている。


 簡単に探知盤の使い方を教わったユモトは両手でそれを持ち、辺りに裏の道具を持った者が居ないか警戒をしていた。


 ユモトの魔力操作では半径3km程が限界だったが、いきなり裏の道具を使えるだけでもその実力は眼を見張るものがある。


 しかし、流石に慣れない魔道具を操作しながら歩くのは心身ともに負担が大きいようで、ユモトは疲れが顔に出ていた。


「よし、この辺りでいったん休憩を取るぞ」


 その疲れを見抜いたアシノが休憩をする事に決めた。家からスーナの街までは歩いて20分程度の道のりで、ちょうどここで半分ぐらいだ。普通に歩く分には休憩はいらないが、念の為だ。


「わがりました」


 そう言ってムツヤはカバンから青色のシートを取り出す。


「何だそれ」


 ムツヤが手に持つ青色のシートを見てアシノは言った。


「これを地面の上に敷いて座ると汚れないんですよ」


 ムツヤがバサッと青色のシートを地面に広げるのを皆は興味津々で見ている。


「どうぞ」


 汚したらいけないかなとユモトはブーツを脱いでシートの上に立つ、足元からは初めて感じる感触とカサカサという音が聞こえた。


 皆も見習って靴を脱いでシートの上に座る。手触りはツルツルとしていて変な感覚だ。


 ムツヤは器用に背負っていたルーをお姫様抱っこしてシートの上に寝かせた。そのままスヤスヤと寝ているかと思いきや、ルーはパチっと目を覚ます。


「うーん、何か慣れない感触が……」


 そして自分が寝ているシートを手で2、3回手でなぞると声を上げる。


「キャー!!! 何これ裏の道具!? ムツヤっちムツヤっち!! これってどんな効果があるの!?」


 グイグイと迫ってくるルーにたじろぎながらもムツヤは答えた。


「こ、これはただ床に敷くと汚れないだけですよ」


「余ってたら後で研究用に頂戴!!」


「は、はい、たくさんあるんで……」


 そんなやり取りを横目で見ながら、モモはムツヤのカバンから取り出したカップに紅茶を注ぎ、茶菓子も用意した。


「ありがとなモモ。ほら、休憩すんぞ」


 アシノはそう言って紅茶を一口飲む。ユモトは難しい顔をしながら探知盤を眺めていたが、ムツヤがそれを取り上げる。


「これは俺が見でおぎますんで、ユモトさんも休憩していて下さい」


「あっ、すいません」


 大丈夫ですと言いかけたが、無理をして余計迷惑を掛けるわけには行かないと思ったユモトは素直に休憩を取ることにした。


「俺は気にしないで皆さん休憩を取っでぐださい」


 ムツヤが言うとヨーリィも茶菓子と紅茶に口をつける。しかしモモは何だか落ち着かない様子だった。


「モモちゃん、ムツヤっちは探知盤から手を離せないからさー、モモちゃんが紅茶飲ませてお菓子食べさせてあげれば良いんじゃない?」


 そう言われるとモモは紅茶のカップを落としかけた、慌ててギュッと掴むと焦りだす。


「あ、ああ、あの、わ、私がムツヤ殿に!?」


「モモさん、嫌だったら大丈夫ですよ」


 ムツヤはモモが嫌がっているものだと勘違いしていた、これはまずいとモモは言葉を取り繕う。


「い、いえ、嫌ではないのですが、私が、私で、良いんですか?」


 赤面したモモは焦りを隠すようにムツヤの元へそそくさと近づく。


「良いんですか? モモさん」


「は、はい、ふつつかものですがよろしくおねがいします!」


 よく分からないことをモモは口走り、カップを持ってムツヤに紅茶を飲ませた。


「あ、紅茶美味しいです」


 紅茶をすすったムツヤは笑顔で言った。それを見てホッとしたモモだがルーはある事に気づいてニヤニヤと言う。


「あれー? そのカップってさっきモモちゃんが飲んでいた奴じゃなかったっけ?」


 モモはカップを落とした、青いシートの上に紅茶がぶちまけられる。


「うわぁっ!!」


 ムツヤは驚いて飛び退くが、次の瞬間にはモモの心配をした。


「モモさん大丈夫ですか!?」


「申し訳ありませんムツヤ殿!!!」


 モモは座ったまま深々と頭を下げた。


「火傷してないですかモモさん!?」


「いえ、私は大丈夫なのですが、シートを汚してしまい、そ、それよりも、自分が飲んだ紅茶をムツヤ殿にの、飲ませるなんてそんな変態じみた行為を……」


「大丈夫ですよ、俺は全然気にしていないんで。モモさんが無事ならそれで良いですよ」


 あたふたとしている二人にユモトはタオルを持って近づき、ルーは紅茶がこぼれた場所に歩いていく。


「何これ!? 魔力で守っているわけでもないし、油でコーティングしているわけでもないのに水を弾いてる!!」


 ルーは興味津々にしゃがんでこぼれた紅茶を見ている。


「ムツヤさん、モモさん、どこか濡れませんでしたか?」


「私は大丈夫だ、ムツヤ殿は?」


「はい、俺も大丈夫です」


 この場はユモトがシートにこぼれた紅茶を拭いて収まった、再びささやかで穏やかなお茶会が始まる。

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