お掃除クエスト 3
「あ、あんちゃーん!!!!」
もう一人仮面を被った人間が林から出てくる。
「先手必勝ってな」
ひと仕事やり終えた顔をしているアシノの横でムツヤとユモトは思わず股間を抑えてガタガタ震えていた。
「きぃーさぁーまぁー!!!」
林から出てきた1人の男がアシノに向かって叫んだ。股間を撃たれた可哀想な男は今だにうずくまったままだ。
そして林から飛び出た男がアシノに向かって突き出したのは剣でも槍でもなく……
「なんだそれ」
アシノは呆れ気味に言った。男が構えているのはフライパンだった。それを見て皆が困惑する中、冷や汗が吹き出たのはムツヤだけだった。
「みんな、絶対にあのフライパンに触れちゃダメだ!」
ただ事では無さそうなムツヤの声に一瞬緩みかけた気がまた張り詰める。
「とにかく撃ち落としちまえば良いんだろっと」
そう言ってスッポーンスッポーンとワインボトルのフタを飛ばすが、それらはフライパンによって小気味よいカコンカコンといった音と共に弾かれる。
次に動いたのはヨーリィだ。木の杭を生み出し、男に何本も投げつけた。しかしそれらもフライパンによって明後日の方向へと弾かれてしまう。
「ダメでず! あのフライパンは手に持っていると飛んできたものを勝手に弾き飛ばしてしまうんでず!」
「なっ、加護の付いた道具ってことか」
それならばとアシノはワインボトルのフタを飛ばしまくる。フタの再装填される時間は約0.3秒だ。それに合わせるようにヨーリィも木の杭を投げ続けた。
だが、男は人間の出せる反応速度を超えた速さでフライパンを振るい続け、こちらに近付いてきた。そして弾かれたものにも変化が出ている。
コルク製のワインボトルのフタとヨーリィの杭がフライパンに触れた瞬間に着火し、火の玉になってこちらに飛んでくる。
「危ない!」
とっさにユモトは、魔法の防御壁を張った。
そして、ムツヤ達は下がり男から距離を取り直す。
「あのフライパン、握ってるとめちゃくちゃ熱くなるんですよね。でも自分で持っていると熱くないし火傷もしないんです」
「ありゃ熱くなるってレベルじゃねーだろ……」
フライパンからは熱気で薄い陽炎が見えていた。男は一歩一歩こちらに近付いてくる。
「俺が行きます!」
ムツヤは魔剣ムゲンジゴクをカバンに収めて、代わりに水色の鞘の剣を取り出した。その剣を抜くとガラスのような透き通った刀身が現れるが、その薄っぺらい剣を見てアシノは不安を覚える。
「それで本当に大丈夫なのか?」
「えーっと、多分大丈夫です」
ムツヤは魔法壁を軽々と飛び越えて、仮面の男と対峙する。男は叫び声を上げながらフライパンを振り下ろしてきたが、それをムツヤは透明な刃で受け止めた。
瞬間、ジュワーッと白い煙がフライパンと刃の間で生まれる、男が気を取られたその一瞬の隙にムツヤは腹に蹴りを入れる。
男はフライパンを落として吹き飛ぶ。落ちたフライパンにムツヤは透明な刃を押し付けて温度を奪い取り、カバンに回収した。
「うっ、くそっ、フライパンがっ」
腹を蹴られた男は苦しそうに言った。その横では股間を打たれた可哀想な男がやっと立ち上がる。
「引くぞっ」
そう言って2人は林の中に消えていった。勿論それをやすやすと見逃すわけはなくアシノはワインボトルのフタをスッポーンと飛ばし牽制し、ヨーリィもそれに続きまた先程のように木の杭を投げつける。
「轟け、雷鳴よ!!」
ユモトもそう叫んで男たちに雷を撃ち込んだが手応えは無い。林の中にヨーリィが走って男たちを拘束しようとするが右足を矢で射抜かれ、バランスを崩し倒れてしまう。
「ヨーリィ!」
思わずムツヤは立ち止まってヨーリィのそばでしゃがみこんだ。血は出ないが、代わりに射抜かれた所を中心に体が落ち葉に変わっていく。急いでムツヤはヨーリィに魔力を送った。
「申し訳ありませんお兄ちゃん」
「他にも仲間が居るかもしれない、深追いは危険だ」
アシノはそう言って追撃をやめる。ムツヤが探知スキルを使うと、確かに人が何人か居た。
「何人か居ますね…… わかりました」
ムツヤもそれに従い剣を収めた。林の中では先程の戦いが嘘のように静けさに包まれる。
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