オークの村の救世主になろう 6

「そ、そんなたいしたものではありません。ただ、その、身に余る光栄ですし、恩人のムツヤ殿がお望みとあればその、毎日でもお作りし…… いや、何を言っているのだ私は!」


「いえいえ、そんな毎日食べに来るなんてそんな悪いごど出来ねっすよ、出来ればそうしたい所ですげども」


 ムツヤの言葉には裏表がない。モモもそれはわかっていた。


 きっとムツヤ殿はただ純粋に毎日この料理が食べたいと言っているのだろう。


「あ、あーうーえーっとご、ご冗談も程々にお願いしますムツヤ殿!」


「ご、ごめんなさい、何が怒らせるような事をしてしまったのでしたら謝ります。そうですよね、やっぱ毎日ご飯を食べに来るなんで言うのはダメでずよね。その、今までじいちゃ…… 祖父以外と話したごと無かったもので……」


 冗談ではないとわかっていた上でそう言ってしまった事をモモは後悔した。


 分かりやすいぐらいに落ち込んで下を向いてしまったムツヤ。何か二人の間でとてつもない勘違いが始まってしまったらしい。


「あ、いえ、怒ってはいないのですし、ムツヤ殿に何も非は無いのですが……」 


「あっははははは」


 そんな二人のやり取りを見てヒレーは大きな笑い声を上げた。


「ごめんなさいムツヤ様。もう本当こんなお姉ちゃん見たことなくて、おかしくって、おかしくって、ははは」


 涙を浮かべるぐらいに笑いだしたヒレーを見て、うーっと唸りながら口を尖らせてモモは悔しそうにする。


「ヒレーそこまで笑わなくたって……」


「ごめんごめん、お姉ちゃん、ムツヤ様もお姉ちゃんはちょっと照れちゃっただけなので許してあげてくださいね」


「てれっ、照れてなどいない!!」


 今の話のどこに照れる要素があったのかムツヤは少し考えた。


 そして、あぁ料理の腕の事かと思い、適当に返事をすると冷めてしまう前に他の料理も食べ始める。


 これまた美味しいものばかりだった。魚はその味を引き立てるソースなんて洒落たものが掛かっていた。


 今までは魚なんて塩を掛けて丸焼きで食べるぐらいだ。


 調味料や食材は塔の中にあまり落ちていないので貴重だが手に入れられない事はない。


 しかし、塩だの砂糖だのは手に入るが、複雑な味を生み出すものは手に入らなかった。


 ムツヤは甘味と酸味と深みがあるソースなどという物は生まれてこの方味わったことがない。


 ちなみにだが、塩は確かに外の世界でも地域によって貴重な部類だが、裏ダンジョンでは宝箱の中に入っている「ハズレ」ぐらいの扱いなのだ。


 この事をムツヤはまだ知らない。


 パンもじいちゃんがたまに焼いてくれる物より良い香りがしてふわふわだった。


 ごめんよじいちゃんと、比較対象にしてしまった事をムツヤは心の中で謝る。


 食事を食べ終えるとまたムツヤは眠気に襲われた。


 うつらうつらとしているムツヤに気付いたヒレーは姉に耳打ちする。


「お姉ちゃん、ムツヤ様眠たそうだけど?」


「あ、これは気が利かず申し訳ない。ムツヤ殿、こちらにベッドがある、普段私が使っているもので申し訳ないのだが……」


「あーそれじゃ悪いでずよぉー、大丈夫です、俺は床で寝られるんで」


 そう言って椅子から立ち上がるムツヤを慌ててモモは制する。


「客人にそんな事をさせたら一族の恥です。こちらのベッドをお使い下さい、私はヒレーと一緒に寝ますので」


 しばらく考えたが、お言葉に甘えてとモモのベッドを借りて寝ることにした。


 モモの部屋に入ると甘くていい匂いが鼻の中にフワッと広がる。


 サズァンの近くで嗅いだ匂いとはまた別の安心するような心地の良い香りだ。


 寝心地の良いベッドの中に入ると、眠る前にムツヤは今日一日の事を振り返る。


 今まで何度も登った塔の上にはサズァン様っていう美人だけど邪神が居て、外の世界へ出たらオークに会って。


 小説の中のオークはもっと汚くて油っぽくて臭いモンスターで、頭も悪い豚みたいな奴らだと思っていた。


 だけどそれは間違いだ。


 まぁ、確かにみんな豚に似てるけど、怒ったり泣いたり喜んだり、それは自分と一緒だった。


 あのロースって村長は頭も自分よりずっとずっと良いだろう。


 そんな事を考えていたが、疲れからか、ムツヤはぐっすりと熟睡していた。

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