DLC35 学園祭3
※三人称視点あり
ドルクたちが学園祭を楽しんでいる頃――。
一人学園の校舎の隅にうずくまり、怒りと憎悪に体を震わせている人物がいた。
「ぐぬぬぬぬぬぅ……。あのドルクとかいうやつ……なんなんだ一体……!」
その人物とは、入学試験でもドルクにしてやられた、あのジョーカーであった。
ジョーカーは学園祭の準備にも参加せずに、ドルクへの恨みをつのらせていた。
「くそ! あいつさえいなければ……! 学園祭も僕の天下だったのに! なんで僕がこんな扱いを受けて、あいつばかりみんなにちやほやされるんだ……!」
ジョーカーは学園祭にクラスメイトの女子たちを誘ったが、誰からも見向きもされなかったのであった。
それもそのはず、クラスの女子たちのほとんどは、ドルクのほうに興味津々だったからだ。
そうでなくとも、ジョーカーはあまり評判がよくなく、当然誰も彼の誘いを受けることはなかったのだが……。
本人はそれらすべてをドルクのせいだと考えていた。
「くそ……こうなったら……! 僕の本当の実力を見せつけて、みんなに知らしめてやるんだ! このジョーカー様の真の価値をわからせてやる……!」
そしてジョーカーは、後者の屋上になにやら壮大な魔法陣を描き始めた。
悪魔を召喚するための儀式に使われるはずの、召喚魔法陣。
だが、実はその召喚魔法陣を扱うには、かなり高度な専門知識が必要だった。
それこそ、まだ学園に入ったばかりのジョーカーのような未熟な生徒が扱えるわけのないほどの高等技術。
それゆえ、彼の描いている陣には、一部間違いがあった。
だが未熟な彼は、そのことに一切気が付かないまま、魔法陣を描いていったのであった――。
◆
【ドルク視点】
そろそろ学園祭の宴もたけなわ。
夕方になってきて、みんなは校庭に集まり始めた。
学園祭は二部構成になっていて、昼間はそれぞれのクラスのイベント。
二部である夜の部では、校庭で野外イベントが行われる。
焚火を囲んでのダンスイベントがその主なイベントだった。
男子たちは好きな女子を誘って、そのイベントに参加する。
まあ誘えなかった生徒は、そのまま家に帰ったり、他の野外イベントに参加するのだが……。
以前の俺ならきっとそのまま帰宅していたようなイベントだ。
それか、他の野外イベント――花火を用意する係や、屋台をやったりなどほかにもいろいろある――をやることになていただろう。
だがしかし、今の俺は両手に花だった。
「ねえドルク、次は私と踊るんでしょ?」
「あ、ああ……もちろんだよルミナ」
「ドルクくん、私とも踊ってよね……?」
「うん、もちろんだよリィノ」
ほかにもいろんな女子生徒から誘われたちもしたが、結局俺はこの二人と踊ることになった。
シャルは昼間にはしゃぎすぎたせいで、今は眠っている。
レヴィンが先に連れて帰って、今は家にいるはずだ。
口うるさいレヴィンもいないことだし、今日はルミナとたくさんいちゃいちゃできる。
そんなふうに俺たちは学園祭を楽しんでいた。
だが事件は唐突に起きた――。
――ドカーン!!!!
「な、なんだ……!?」
花火の時間にはまだ早いはずだが、突然校舎のほうから大きな音が聞こえてきた。
みんながそっちを振り向くと、なんと校舎の屋上に、巨大な魔法陣が浮かび上がっていた。
「ど、どういうことだ……!?」
生徒たちはみんな困惑し、恐怖して、ダンスが一時中断される。
「ど、ドルク……あれって……! 悪魔……!?」
「どうやらそうみたいだな……。こうしちゃいられない……! 俺はちょっと屋上までいってくる!」
「そんな……! 危ないわよ!」
「大丈夫だ……! 俺にまかせてくれ……!」
「あ……! ちょっと……!」
俺は心配するルミナとリィノを振り切って、屋上までダッシュする。
本来ならばこんな面倒そうな案件は、ほうっておいて先生たちにでも任せておけばいいのだが……。
今回は学園祭をむりに開いたのは俺のDLCのせいでもある。
だから俺としてもこの学園祭を無事に終えるまでは、なにがあってもそれを止める責任を感じていたのだった。
「うおおおおおおおおおおおお!!!!」
階段を一気に駆け上り、屋上へ到達する。
するとそこには、巨大な魔法陣に腰をぬかす、ジョーカーの姿があった。
「ひいいいいい!!!! 悪魔ぁああああ!!!!」
「おい……! ジョーカー……! どういうことか説明しろ……!」
「あ……! ど、ドルク……!?」
ジョーカーは俺の顔をみるなり、気まずそうな顔をした。
どうやらこの魔法陣は、彼が描いたものらしい。
ということは――。
「はぁ……どうせ誰にも相手にされなかったから、学園祭を無茶苦茶にしてやろうとでも考えたんだろう……」
俺はあきれながら、ジョーカーに駆け寄り手を差し伸べる。
「ど、どうしてそれを……!?」
「俺もわかるんだよ、お前の気持ちがな……」
かくいう俺も、昔は――いや前世では――こいつのように、学園祭を憎む側の人間だった。
だからそういうやつの考えることや、やることなんてのはわかってしまう――痛いほどに。
俺も一度だけ、学園祭を無茶苦茶にしてやろうとして、屋上からホースで水をまいたりしたら面白そうだな……って考えたことがあった。
まあ俺は実際にはやらなかったけど――いや、そんな度胸もなかったというほうが正しいのかもしれない。
「とにかく、あの悪魔をなんとかするぞ……! お前が呼び出したんだろ……?」
「で、でも……! あの悪魔はいうことをきかないんだ……!」
「はぁ……!?」
悪魔というのは、対価さえ支払えば、呼び出した人間のいうことをきくはずだ。
それがいうことをきかないとなれば、魔法陣じたいが間違っているか……もしくは悪魔との契約に違反したかだ。
こいつはまだ悪魔との契約をした形跡はないし……きっと前者だろう。
悪魔を呼び出す魔法陣に関する専門知識は、当然俺も持ち合わせてなんていない。
けれど、こいつのような単なる一生徒が扱えるようなものではないというのは、俺でも知っている。
「ならまあ……さっさと悪魔にはおかえりねがおうか……!」
俺はこぶしに、魔力をためる。
目の前では悪魔が、今にも現世に降臨しようとしている。
「で、でも……そんなのどうやって……!? 悪魔はめちゃくちゃ強いし、僕たちなんかじゃどうしようも……」
ジョーカーは情けなくそんな泣き言をもらす。
まったく、自分で悪魔を呼んだんじゃないのかよ……。
仕方がないからここは俺が助けてやるか。
「こうやるんだよ……!!!!」
――ドン!!!!
「えええええええ!?」
俺は魔力を込めた手で、悪魔を思い切りぶん殴った。
当然、俺がそんなことをすれば、きっと神だってひとたまりもないだろう。
今までは人を相手にしていたから、本気で殴ったりなんかはとてもできなかった。
しかし、相手が悪魔とあれば別だ。
いくらでも本気で殴ることができる。
そして、俺が本気で殴りさえすれば――それは魔法なんか使わなくても、とんでもない威力になる。
「グオオオオオオオオオオオオ!!!!」
悪魔は断末魔の悲鳴をあげながら、魔法陣の中に吸い込まれていった。
「ふぅ……これでなんとかなったようだな……」
俺は額の汗をぬぐう。
そして、目の前で腰を抜かしているジョーカーに、再び手を差し伸べた。
「え…………?」
「ほら、はやく立てよ。まだ学園祭は終わっちゃいねえぜ?」
「ど、どうして……どうしてこんな僕にも優しくするんだ……! 君は……! 僕は君を勝手に憎んで……」
「そんなくだらないこと、気にするな! さっきも言っただろう……? 俺も昔は、お前のような生徒だった……。ほら、他の奴らにはお前のやったことは黙っておいてやるから……」
「ドルク君…………君はなんて優しい人なんだ……」
「とにかく、反省しているんだったら、学園祭を楽しめ! 真剣に楽しめば、ま、なにかいいことあるだろ!」
「わかったよ……ありがとう……。君は、本当にお人よしだな……」
ジョーカーは照れくさそうに笑って、屋台のほうに消えていった。
俺としても、せっかくの学園祭だから、台無しにしたくはない。
さっきみたいなもめごとは、なしで終わらせたいのだ。
それに、一人残らず楽しんでくれたほうが、俺としてもうれしい。
そんな俺の様子を、物陰からみていたのか。
リィノが俺のもとへやってきた。
「もう、ドルクくん……ほんとにお人よしだね……」
「なんだ……見てたのか……」
「そういうとこ、昔から変わってないね」
「え……? それってどういう……」
俺はそこで再び、リィノにキスされた。
さっき彼女が言った言葉……どういう意味なんだろうか……。
こうして、学園祭は無事に幕を閉じた。
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