DLC34 学園祭2


 そしていよいよ学園祭当日――といってもあれから三日しかたっていないのだが。

 俺たちはメイド喫茶をクラス全員でやることになった。

 男子たちは執事服で接客をしたり、裏で食事を用意したりする。


「じゃーん! ねえドルク、みてみて!」


「おお……! すごいかわいい……!」


 ルミナはメイド服を自慢げに見せびらかす。

 とてもよく似合っていて、俺は思わず見とれてしまう。


 肝心のメイド服はというと、これは俺のDLCで出したものだ。

 なぜかDLCの項目をタップすると、クラス全員分のメイド服が現れた。

 男子たちのぶんまでサイズピッタリであったのには恐怖を覚えたが……。

 幸いなことに、クラスメイトの一人が使用人から執事服を借りてきてくれた。


「な、なあ……ドルク……これは本当に私もみんなの前に出ないとだめか……?」


「当たり前だ、みんなだって同じ思いをしているんだぞ」


 レヴィンはなかなか出てこない。

 試着室のカーテンを体に巻きながら、もじもじとしている。

 まあそんなところもギャップがあってかわいいし、いじめがいがあるけれど……。

 ルミナがそんなレヴィンを見かねて、抱き着いて引っ張り出す。


「あ、ちょっと……! ルミナさま……!?」


「大丈夫だよレヴィン、こんなにかわいいんだから……! みんなにも見せないと損だよ!」


「うう……屈辱だ……。私みたいなのがこんな軟弱な衣装……かわいいわけがない……」


 みんなの前に引っ張り出されたレヴィンは、恥ずかしそうに手でスカートを抑えた。

 そんなレヴィンのしぐさに、みんなはもうメロメロだ。

 もちろん俺も、意外なギャップに打ちのめされてしまう。


「おお……! これはなかなか……!」


「ほ、ほんとうか……?」


「ああ……! レヴィンもかわいいぞ!」


「ま、まあ……ドルクがそういうなら……」


 なんとかレヴィンもルミナに連れられて、接客へ向かっていった。

 だが問題は、シャルだ。


「おい……! なにやってんだ……」


 俺はあきれながら、シャルの背中をひょいとつまみあげる。

 シャルはまだまだお子様体系だから、簡単に片手で持ちあがる。

 メイド服の背中部分をもってしまったせいで、シャルの真っ白な背中が見えてしまい、不覚にも少しどきっとする……。


「にゃあ……!? な、なにするにゃ! ドルク! シャルはまだこれを食べ終わってない……!」


「いやそれはお客さんに出すようなのだが……?」


 食い意地のはったシャルは、メイド服を着ているというのに、さっきからつまみ食いばかりしている。

 まったく……こいつは絶対に本職のメイドにはなれないな……。


「せめて料理し終わったのじゃなく、食材を食ってくれ……。これじゃあ手が足りん……」


「にゃあ……食材はおいしくない……」


「はぁ……あとでたくさん食べさせてやるから……。とりあえず文化祭のうちはおとなしくしていてくれ……」


「にゃあ! わかったにゃ……!」


 俺がそういって餌でつると、シャルはおとなしくメイドの業務をやり始めた。

 まったく……単純で扱いやすいけど、困ったメイドさんだ。

 まあメイドさんってのは、完璧じゃないところがあるからこそ輝くのだが……。


 などと俺が裏でいろいろやっているうちに、すっかり文化祭も盛り上がり最高潮。

 どうやら俺たちのクラスのメイド喫茶は、かなりの盛況を博しているようだ。


「このメイド喫茶とかいうやつ……最高だな……!」

「ああ、俺もメイドがこんなにもいいものだなんて……知らなかったよ!」

「うちのメイドにも感謝だな……! 普段は気づかないメイドの魅力に気づかされたよ……」


 などと、教職員や生徒たちから、こう評価を集めている。

 というのも……うちにはとんでもないメイドがいたのだった。

 俺もこうなるまでまったく知らなかったのだが――。


「ご主人様……萌え萌えきゅん♡ これでおいしくなりました!」

「うおおおおおおおおお! リィノちゃん、マジでかわいい!!!!」


 なんとリィノは、本物のメイド喫茶のメイドさん並みに、メイドが板についていたのだ。

 俺も知らなかった才能だ……。

 まるで長年メイドをやっていたかのように、スムーズに皆を取り仕切っている。


「リィノちゃん……これ、どうすればいいんですか……?」

「あ、それは……こうやって……」

「ありがとうございます! メイド長!」


 というふうに、クラスメイトたちから頼られまくっている。

 それにしてもメイド長とまで呼ばれているなんて……。

 人には意外な一面があるものだな。

 吉野さんは中学のころ、全然オタクとは真反対の生徒だった。

 だからこんなふうに、メイドのなんたるかを知り尽くしている今の彼女の姿なんて、当時の俺には思いもよらなかった。


 リィノの活躍もあって、メイド喫茶DLCイベントは、なんなく終わりを迎えた。


「ありがとうリィノ。助かったよ……。まさかリィノがここまでメイドに詳しいなんて……」


「えへへ……ドルクくん、ありがとう。実は私、高校のころメイド喫茶でバイトしてたことがあるんだよね……」


「え……? そうなんだ……意外だ」


 たしかに俺の知っている吉野さんは中学時代の情報しかない。

 高校で彼女がどんなふうに過ごしていたのかまでは、あまりよく知らないというのが正直なところだ。


「私、意外かもしれないんだけどけっこう高校のときはオタクだったんだよね……。だから異世界にきたときも、わりとすんなり受け入れられたというか……」


「へぇ……そうなんだ……知らなかったよ」


 これには俺も少し驚いたけど、意外なことに俺はそれを少しうれしくも思っていた。

 中学のころは大して共通点もなかった俺と吉野さんだけど、今となってはこうして異世界でいっしょに暮していて……。

 しかも彼女もオタクだという。

 そのあといろいろ聞いてみると、けっこう趣味も近いようだった。

 改めてこうして話してみると、新しい発見があるものだ。


「やっぱり……あの日笹川くんがコンビニに来たのって、運命だったのかな……?」


「え……? ああ、まあ……そうかもな……。俺があの日、コンビニにいかなければこうはなっていないもんな……」


「私、異世界に来て今が一番幸せ……。笹川くん……いや、ドルクくんと一緒に居られて、本当に幸せだよ……! 異世界に来たときは、一人でどうしようかとっても不安だったけど……」


 そういって、リィノは俺の唇を強引に奪った。

 思わぬ彼女の行動に、俺は驚く。

 そんな俺たちをどこかから見ていたのか、ルミナがやってきて――。


「もう二人とも! 抜け駆けは許さないんだからね……!」


「あ、ちょっと……!」


 ルミナまで俺を抱きしめて、口づけをせがんできた。

 まったく……学園祭の疲れもあるというのに、みんな元気なことだ……。

 どうやら今夜も俺はねられそうにないな――。

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