DLC17 実家のようす


 孤児の少年カラクのわがままに、ドルクの父ドボルザークは耐えかねていた。


「っく……やはりしつけがなっていないな……どうしたものか」


 最初はそれほど問題視していなかったドボルザークだったが、ある出来事をきっかけに、カラクの行動を咎めるようになった。





 ある日のことだ、若いメイドが掃除をしていると。

 カラクがやってきた。


「おい、メイド……いいデカケツだな。やらせろよ……!」


 といって、おもむろに身体をまさぐりはじめた。


「あ、あの……カラク坊ちゃま……そういうことはちょっと……」

「うるせぇ! 僕は剣神の息子だぞ! お父様にいいつけてやるからな!」


 そう言って、カラクは無理やりに、メイドを手籠めにしようとする。

 しかし、メイドは激しく抵抗した。


「大声を出しますよ!」

「やれるもんならな……! そしたらお前はクビになるぞ……!」


「だ、だれかああああああああ!!!!」

「っく……ホントに大声を出すとは……!」


 メイドの声を聞きつけて、大勢の使用人がやって来た。


「な、なにごとだ……!」

「このガキが……私を襲って……」

「なんだと……!?」


 そのことを、ドボルザークに報告すると……。


「旦那様、あのガキ……いえ、カラクの行動は、もう度を越しています。ただの養子のくせに、自分が偉くなったと勘違いしている……」

「むう……まあ、そうだなぁ……今回の件はやりすぎだ」


 ドボルザークは頭を抱えていた。

 ジョブの才能を買って、養子にした手前、あまりきついことはいいたくない。

 しかし、メイドに手を出したとなると、黙ってもいられないのだった。


「よし、ここは私がびしっとしつけてやろう……」

「さすがです、ダンナさま!」


 ドボルザークは、父としては厳しい人物だった。

 ドルクにも、昔から厳しいしつけをしてきた。

 それはときに、暴力だったりもした。

 だが、ジョブのなかったドルクにそれに抵抗する手段はなく……。

 ドルクはドボルザークの意のままに、修行をさせられてきた。

 しかし、カラクにはまだ、手を上げたことがなかった。


「あのクソガキも、私が本気で怒れば、大人しくなるだろう……」


 ドボルザークは、そう見積もっていた。

 だが、それは甘かった。

 カラクは、孤児院の子供とはいえ、立派なジョブ持ちの大人だ。

 それに、剣鬼のジョブを授かった天才である。

 ジョブなしの子供をしかりつけるのとは、わけが違っていた。





「おいカラク、ちょっと来なさい」


「なんです……?」


 カラクはこのごろ、ドボルザークに対しても舐めた態度をとっていた。

 養子だからと、甘い態度をとってきたからだ。

 剣の修行をいきなりさせても、カラクのモチベーションが保てないだろうと、ドボルザークにも遠慮していた部分があった。

 そのせいで、カラクはすっかりつけあがっていた。

 ドボルザークは、ここでびしっと言ってやろうと意を固めていた。


「最近、好き勝手がすぎるんじゃないか……? みんな迷惑している。私もそろそろ、耐えかねているんだ……」


「へぇ……僕に文句があるんですね……? 自分が楽させてやるからって僕を養子にしたくせに」


「それとは関係ない。物事には、限度ってものがあるだろう!」


 しかし、カラクはすっかりタガが外れていた。

 孤児院の子だったカラクに、降って湧いた幸福。

 名家への養子入りと、剣鬼というジョブ。

 それが、どうしようもなくこの愚かな餓鬼をつけあがらせた。


「うるさいですねぇ……!!!!」


「なに…………!?」


「そんなに文句があるんだったら、僕と勝負しましょうよ……?」


「なんだって……!? お前は最近、ろくに剣も振っていない、さぼってばかりのお前が、この剣神である私に勝てるはずがないだろう……!?」


 そう、ドボルザークとカラクの間には、どうしようもない差があった。

 それは、経験の差。

 努力の差。


「それはわからないですよ? だって、僕は剣鬼ですからねぇ。才能があるんですよ。剣神でしたっけ……? でも、あなたはもう歳をとりすぎている、落ち目だ。それと、伸び盛りの僕の剣、どっちが強いかなぁ」


 カラクは、その才能に溺れていた。

 すっかり、勘違いしていたのだ。


「なんだと……! このクソガキ! 調子にのるのもいい加減にしろ! 私は剣神だぞ! ジョブ以前に、剣の鍛錬も違う! 私が負けるわけないだろう!」


 こうして、二人の決闘が始まった。





 ――キン!


 ――キン!


「っく……!」


 押されていたのは、カラクではなく、ドボルザークのほうだった。


(なぜだ……! この前まで、あれほど素人のような剣だったのに……! この私が、押されてるだと……!?)


「あっはっは! やっぱりおっさんは弱いですねぇ! 僕の剣こそが、最強の剣なんだ!」


 カラクは、責め続けて、ついにはドボルザークを追い詰める。


(っく……なんでなんだ……! いや、剣の立ち回りは、まだまだ未熟だ……。ならなぜ、こんな素人に、私が押されている……!?)


 なぜ、こんなことになったのか。

 ドボルザークの剣神は、総合的な剣術が高いジョブだ。

 一方、カラクの剣鬼は、攻撃力特化の剣といってもいい。

 それなら、どっちが最終的に攻撃で勝るか……。


 だが、両者の間に、圧倒的な経験の差があるのも事実。


 では、なぜこうなったのだろうか。


 ジョブには、同じ名前のジョブでも、個人差があった。

 例えば同じ剣神のジョブ持ちでも、才能に格差がある。

 剣神Bと剣神AではAのランクのほうが勝つ、というふうに。

 それに、才能は劣化する……。

 カラクの言う通り、年老いたドボルザークの剣と、伸び盛りのカラクの剣では、もちろん差があった。


 それに、もともとの才能が一番大きかったのだ。


 ジョブには、裏のステータスとして、FからAまでのランクがある。

 同じジョブでも、ランクが高いほうが上だ。

 通常それは、知ることはないのだが……。


 この両者の場合。

 ドボルザークの剣神はAランク。

 これは文句なしの才能といえる。


 しかし、カラクの剣鬼としての才能は、前人未到のSSランクだったのだ。

 これでは、逆立ちしてもドボルザークに勝ち目はなくなる。


「あっはっは! やっぱり僕のほうが強いんだ! 僕のほうが上だって認めろよ! おっさん!」


「っく……ぐあああああああああ!」


 こうして、ドボルザークは全治一か月のけがを負う。

 その間、カラクは好き放題できることになってしまった。


 ベッドの中で、療養中のドボルザークは後悔していた。


「くそ……とんでもないガキだ……。ドルク……お前であれば、こんなことにはならなかったのに……」


 だが、後悔しても、ドルクはもういない。

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