DLC17 実家のようす
孤児の少年カラクのわがままに、ドルクの父ドボルザークは耐えかねていた。
「っく……やはりしつけがなっていないな……どうしたものか」
最初はそれほど問題視していなかったドボルザークだったが、ある出来事をきっかけに、カラクの行動を咎めるようになった。
◇
ある日のことだ、若いメイドが掃除をしていると。
カラクがやってきた。
「おい、メイド……いいデカケツだな。やらせろよ……!」
といって、おもむろに身体をまさぐりはじめた。
「あ、あの……カラク坊ちゃま……そういうことはちょっと……」
「うるせぇ! 僕は剣神の息子だぞ! お父様にいいつけてやるからな!」
そう言って、カラクは無理やりに、メイドを手籠めにしようとする。
しかし、メイドは激しく抵抗した。
「大声を出しますよ!」
「やれるもんならな……! そしたらお前はクビになるぞ……!」
「だ、だれかああああああああ!!!!」
「っく……ホントに大声を出すとは……!」
メイドの声を聞きつけて、大勢の使用人がやって来た。
「な、なにごとだ……!」
「このガキが……私を襲って……」
「なんだと……!?」
そのことを、ドボルザークに報告すると……。
「旦那様、あのガキ……いえ、カラクの行動は、もう度を越しています。ただの養子のくせに、自分が偉くなったと勘違いしている……」
「むう……まあ、そうだなぁ……今回の件はやりすぎだ」
ドボルザークは頭を抱えていた。
ジョブの才能を買って、養子にした手前、あまりきついことはいいたくない。
しかし、メイドに手を出したとなると、黙ってもいられないのだった。
「よし、ここは私がびしっとしつけてやろう……」
「さすがです、ダンナさま!」
ドボルザークは、父としては厳しい人物だった。
ドルクにも、昔から厳しいしつけをしてきた。
それはときに、暴力だったりもした。
だが、ジョブのなかったドルクにそれに抵抗する手段はなく……。
ドルクはドボルザークの意のままに、修行をさせられてきた。
しかし、カラクにはまだ、手を上げたことがなかった。
「あのクソガキも、私が本気で怒れば、大人しくなるだろう……」
ドボルザークは、そう見積もっていた。
だが、それは甘かった。
カラクは、孤児院の子供とはいえ、立派なジョブ持ちの大人だ。
それに、剣鬼のジョブを授かった天才である。
ジョブなしの子供をしかりつけるのとは、わけが違っていた。
◇
「おいカラク、ちょっと来なさい」
「なんです……?」
カラクはこのごろ、ドボルザークに対しても舐めた態度をとっていた。
養子だからと、甘い態度をとってきたからだ。
剣の修行をいきなりさせても、カラクのモチベーションが保てないだろうと、ドボルザークにも遠慮していた部分があった。
そのせいで、カラクはすっかりつけあがっていた。
ドボルザークは、ここでびしっと言ってやろうと意を固めていた。
「最近、好き勝手がすぎるんじゃないか……? みんな迷惑している。私もそろそろ、耐えかねているんだ……」
「へぇ……僕に文句があるんですね……? 自分が楽させてやるからって僕を養子にしたくせに」
「それとは関係ない。物事には、限度ってものがあるだろう!」
しかし、カラクはすっかりタガが外れていた。
孤児院の子だったカラクに、降って湧いた幸福。
名家への養子入りと、剣鬼というジョブ。
それが、どうしようもなくこの愚かな餓鬼をつけあがらせた。
「うるさいですねぇ……!!!!」
「なに…………!?」
「そんなに文句があるんだったら、僕と勝負しましょうよ……?」
「なんだって……!? お前は最近、ろくに剣も振っていない、さぼってばかりのお前が、この剣神である私に勝てるはずがないだろう……!?」
そう、ドボルザークとカラクの間には、どうしようもない差があった。
それは、経験の差。
努力の差。
「それはわからないですよ? だって、僕は剣鬼ですからねぇ。才能があるんですよ。剣神でしたっけ……? でも、あなたはもう歳をとりすぎている、落ち目だ。それと、伸び盛りの僕の剣、どっちが強いかなぁ」
カラクは、その才能に溺れていた。
すっかり、勘違いしていたのだ。
「なんだと……! このクソガキ! 調子にのるのもいい加減にしろ! 私は剣神だぞ! ジョブ以前に、剣の鍛錬も違う! 私が負けるわけないだろう!」
こうして、二人の決闘が始まった。
◇
――キン!
――キン!
「っく……!」
押されていたのは、カラクではなく、ドボルザークのほうだった。
(なぜだ……! この前まで、あれほど素人のような剣だったのに……! この私が、押されてるだと……!?)
「あっはっは! やっぱりおっさんは弱いですねぇ! 僕の剣こそが、最強の剣なんだ!」
カラクは、責め続けて、ついにはドボルザークを追い詰める。
(っく……なんでなんだ……! いや、剣の立ち回りは、まだまだ未熟だ……。ならなぜ、こんな素人に、私が押されている……!?)
なぜ、こんなことになったのか。
ドボルザークの剣神は、総合的な剣術が高いジョブだ。
一方、カラクの剣鬼は、攻撃力特化の剣といってもいい。
それなら、どっちが最終的に攻撃で勝るか……。
だが、両者の間に、圧倒的な経験の差があるのも事実。
では、なぜこうなったのだろうか。
ジョブには、同じ名前のジョブでも、個人差があった。
例えば同じ剣神のジョブ持ちでも、才能に格差がある。
剣神Bと剣神AではAのランクのほうが勝つ、というふうに。
それに、才能は劣化する……。
カラクの言う通り、年老いたドボルザークの剣と、伸び盛りのカラクの剣では、もちろん差があった。
それに、もともとの才能が一番大きかったのだ。
ジョブには、裏のステータスとして、FからAまでのランクがある。
同じジョブでも、ランクが高いほうが上だ。
通常それは、知ることはないのだが……。
この両者の場合。
ドボルザークの剣神はAランク。
これは文句なしの才能といえる。
しかし、カラクの剣鬼としての才能は、前人未到のSSランクだったのだ。
これでは、逆立ちしてもドボルザークに勝ち目はなくなる。
「あっはっは! やっぱり僕のほうが強いんだ! 僕のほうが上だって認めろよ! おっさん!」
「っく……ぐあああああああああ!」
こうして、ドボルザークは全治一か月のけがを負う。
その間、カラクは好き放題できることになってしまった。
ベッドの中で、療養中のドボルザークは後悔していた。
「くそ……とんでもないガキだ……。ドルク……お前であれば、こんなことにはならなかったのに……」
だが、後悔しても、ドルクはもういない。
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