DLC6 お楽しみでしたね


「昨夜は、お楽しみでしたね……」


 翌朝階段を下りて食堂へいくと、おかみさんが俺の耳元でそう囁いた。

 うう……気まずい。

 しかも俺とルミナは手を繋いでいたから、余計に恥ずかしい。

 おかみさんのニヤニヤした視線を浴びながら、俺とルミナは同じテーブルに座る。


「もう、ドルク……私、初めてだったんだけど……」

「ごめんごめん。でも、ルミナ……本当にかわいかったよ」


 そう、昨晩俺は少々ハッスルしすぎてしまったのだ。

 なにせ、精力無限スキルがあるからな……。

 とはいえ、ルミナに酷いことをしたわけでは、もちろんない。

 ルミナも満足してくれたはずだ。

 その証拠に――。


「あの、ルミナさん……? 大変食べにくいんだけど……?」

「し、しらない……っ!」


 ルミナは俺の横に座って、べったりとくっついて離れてくれない。

 これは…………かなり懐かれてしまったな。


「あれ…………?」

「ん? どうしたの?」

「いや、この料理、もっと塩や砂糖があればなぁって思って」

「そんなのムリよ! 塩や砂糖がいくらすると思ってるの……?」

「ああ……だよなぁ……」


 それは俺も百も承知だ。

 実際、俺もドルクとして16年間、なんの不満も抱かずに食べてきた。

 でも、現代人の記憶を取り戻した俺としては……正直、これじゃあ物足りない。

 よし、なにか考えるか……。

 スキルが成長していけば、そのうちどうにかなるかもしれない。


「そういえばルミナは、この街にどうしてやってきたんだ……?」

「うーん……冒険者にでもなろうかなぁって思って……」

「そうなんだ……。まあ、俺もそんな感じだな」


 正直、行く当てもないし、やるべきこともない。

 剣神の息子として期待されてきたけど、今の俺にはその重圧もない。

 完全な自由なんだ。

 そう考えると、あの家を出たのは正解だったな。

 俺は好きに生ることができる……好きな人とともに。


「じゃあ、飯を食ったら街を見に行こうか……冒険者になるための情報とかも集めたい」

「そうね……」


 このとき俺に、わずかな疑問が芽生えた。

 ルミナは魔法が使えた。

 それに、冒険者になりたがっている。

 だったら、襲われていたとき、どうにかして逃げることもできたんじゃないのか……?

 まさかあのチンピラどもがそこまで強いとも思えない。

 いや、よく考えたら、あのチンピラども、魔法を使ってきたっけな……。

 ただのチンピラが氷魔法か……これはなにか、訳ありかもしれないぞ。

 だが、なにがあってもルミナのことは俺が護る。

 せっかくの縁だし、それに、そういう生き方こそが、俺の求めていたものだ。


 まさか、ルミナって追われている亡国のお姫様だったり…………なんて。

 いや、まさかな…………。

 それは俺がラノベの読みすぎなだけだな。


「ルミナ、街に出る前に、自分のステータスを確認してもいいかな……?」

「うん、いいわよ」


 飯を食ったあと、ルミナの部屋で、俺はベッドに腰かけ、ステータスを開いた。



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ドルク・ド・ヴァーキン 16歳 Lv55

ジョブ:DLC

筋力:6.77M

体力:5.5M

耐性:4.8M

敏捷:3.7M

魔力:9.56M

魔耐:8.79M

スキル:DLC一覧、転生者の加護

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「おわ…………! めっちゃレベル上がってる……」


 これは、あのチンピラどもとの戦闘のおかげだろうか。

 それに加えて、昨日のルミナとの激しいまぐわいのせいもあるかもしれない。


「このMってのは……ミリオンのことか」


 もう数字が大きすぎて、よくわからないことになってるなぁ……。

 これはこのまま、とんでもないことになりそうだぞ。

 あれだけの短期間で、これだけ上がるなら、強力な魔物とかを倒したら、どうなってしまうんだろうか。


「はは……もうステータスは見ないでもいいかも……」


 ここまでくれば、他のやつに後れをとることはないだろう。

 そうなれば、もうどこまで大きくなろうとも同じようなものだ。

 あとは数値が際限なく大きくなっていくだけ…………。


「一応DLCのほうも確認しておくか……」


 どうやらDLCのほうは、なにかの条件をクリアすることで解放されるみたいだしな。

 ただレベルがあがったからといって、解放されるものでもなさそうだ。

 今後も、こまめに確認していく必要があるな……。


「スキル発動:DLC一覧――!」



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使用可能なDLC一覧


 ・勇者の剣【課金アイテム第一弾】


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「お、コレは……使えそうだな」


 どういう条件によって解放されたのかはわからないが、名まえからしてもチートアイテム臭がぷんぷんする。


 →勇者の剣【課金アイテム第一弾】


「ぽち!」


 すると、俺の手元に新品の豪華な剣が現れた。


「おお! これはすごい……!」

「ドルク……!? そ、それって……! どういうジョブなの……!?」

「ああ、これは……なんというか……説明が難しい」

「なんでもいいわ! これって、かなりすごいわよ!?」

「知ってるのか……?」

「この剣は……伝説に伝わる勇者の剣で間違いないはずだわ……! 前に、本で見たことがあるの……!」

「へぇ……そんなにすごいものなのか……」


 もしかしてこれ、この世界に召喚したらマズイ系の剣だったんじゃないか……?

 俺は転生者で、へんなジョブを持っているからあれだけど……。

 これをこの世界で正規に手に入れようとしたら……。

 まあ、いっか。


「よし、じゃあこの剣を装備してっと……」

「かっこいい! ドルクにとっても似合ってるよ!」

「ありがとう。これでなにがあっても、ルミナを護れるな……!」


 俺たちは、宿を出て街へ出た。





 そのころ、ドルクの父である剣神――ドボルザーク・ド・ヴァーキンは……。


「おい君、うちの養子にならないか……?」

「え……ぼ、僕がですか……!?」


 儀式の後、有望そうな子供を見つけて、そう声をかけた。

 子供の名は――カラク。

 姓はない、ただのカラク。

 カラクは、ドルクなどとは違い、孤児院の貧しい産まれであった。


「そうだ! 君は剣鬼のジョブを得たそうじゃないか……!」

「は、はい……! そうですけど……」


 剣鬼は、剣神と並び、剣のジョブの中でも最も高位に属するものだった。

 剣神は総合力に優れる一方で、剣鬼は特に、攻撃に特化した剣術を得意とする。


「で、でも……僕なんか……僕は、孤児ですよ……? あなたはたしか……剣神ドボルザークさまではありませんか……? どうして僕なんか……。もっと有望な息子さんがいらしたでしょう?」


 カラクは、孤児院の中でも、歳の割にしっかりと話す子だった。

 というより、したたかというか、腹黒いというか……。

 その眼には、既に野心めいたものまで宿していた。


「ふん。うちには息子はおらんよ……。いや、君こそが我が息子だ……!」

「あ、ありがとうございます!」

「私が君を、最強の剣士に育ててみせよう……!」

「光栄です! がんばります!」


 カラクは内心、ほくそ笑んでいた。


(くっくっく……、僕が、この僕が……剣神の息子だぞ……! どうやら本当の息子がへまをしたらしいが……。まあ僕にとってはラッキーなことだった……! そのバカの得るはずだったものは、すべて僕のものだ! 財産も、女も、地位も名誉も……!)


 そんな彼が、のちにドルクと対決することになるのは……まだ先のお話。

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