最終部 征け、ムーの子ら!
1 真のハルマゲドン
――そして六番目の天使が彼の小瓶を大河ユーフラテスに注ぐと、川の水は涸れ、日
また、かえるのような三つの汚れた霊が竜の口から、獣の口から、そして偽預言者の口から出てくるのを見た。
それらは悪霊であり、そのしるしを行っており、全能の神の偉大なる日の戦いに集めるために、地球と全世界の指導者たちのところへ出て行く。
(見よ、私は盗人のように来る。裸で歩きその醜さを見られないように目を覚ましており、その衣服を守る人は幸いである)
そして、ヘブライ語でハルマゲドンと呼ばれる場所に指導者たちを集めた――(ヨハネの黙示録・第16章)
※ ※ ※
俺たちはまず、婆様とともに地球の霊界へと向かう。
その場に居合わせた宇宙各星からの御神霊や金星の御神霊が、拍手と歓声で俺たちを見送ってくれた。
俺たちは今はあくまで人間である。御神霊ではない。でも今は肉体から離れ、分魂として神霊界にいる。
そういう状況にある者でないと、この役目は務まらないと婆様も言った。
この使命を果たさなければ、肉体には戻れない。だから、やり遂げなければいけない。
単に「俺はそう思った」というだけではなく、これが俺たち十二人の一体化した共通の想念であった。
俺たちは婆様について歩きだした。今はついて行くしかない。どうやったらその山武姫神のいるところに行けるのかも知らない。
婆様と、そしてなぜか俺たちを円盤でここへ連れてきてくれたプレアデス星団のスバル様も一緒に来ていた。
歩きながら、さらに婆様は言う。
この使命が俺たちでないとだめなさらなる理由、それは山武姫神とその眷属は神霊界を追放されている以上、地上の、すなわち地球上のある一角の霊界に潜んでいるという。
そこには神霊界の御神霊ではそんなに身を小さく縮小させても行くのは困難なのだそうだ。
まず彼らは地上の霊界へと移動する場合は、火の眷属の御神霊は身を龍体化し、水の眷属の場合は天使の羽を広げて飛行する。いずれにせよ相手にはその進入がばればれになる。そうなると、たちどころに攻撃を受けてしまう。
ところが俺たちの場合、今は肉体を離れていても一応は肉体を持つ人であるし、それでいて魂は御神霊の分魂といういわば半神半人なのだ、ここでは。
俺たちは御神霊よりも絶対的に小さい。だから攻撃を受けることなく入り込みやすい。
そんな話を聞きながら、いつの間にか俺たちは雲の上を歩いていた。
だが、それほど長いこと歩いていたわけではないのに、いつのまにかまた草原が広がり、遠くに山を望み、木々の緑鮮やかに、色とりどりの花が咲き乱れる草原が広がる大地を歩いていた。
婆様は止まった。そして俺たちの方を振り向いて微笑んだ。
「ここはもう地球の神霊界です。さあ、私のこの若くて美しい姿を、今のうちじっくりと見ておきなさい」
すると、婆様の姿はみるみる大きくなっていった。
そう思ったけど、実はそうではなかった。
俺たちが小さくなった、というかもともとの大きさに戻ったのだ。
今は巨大な婆様とスバル様を、俺たちははるかに見上げている。
「今度会うときは、またいつものしわくちゃのお婆ちゃんですから」
婆様はそう言って笑う。
ここでお婆様とはとりあえずお別れなのだ。そのことは他のみんなも気づいているようだ。
するとたちまち瑠璃色の空の一角が光り、ものすごい勢いで稲妻のように龍神が舞い降りてきた。
すーっと婆様の隣に元の姿になった龍神は、あのケルブだった。婆様と同じ大きさのままだから、ケルブは俺たちを見おろして微笑んだ。
「皆さん、ご苦労様です。でも、地球の運命は皆さんにかかっていますから、よろしくお願いしますね。私が皆さんと接してきたのも、このためだったのですから」
並行世界では、同じ高校の同じ部活の後輩だった。そしてこちらの世界では天使コスプレの不思議な少女だった、その少女が実は御神霊で、俺たちに幽界探訪をさせた後に忽然と消えた。
こうして俺たちとコンタクトを取ってきたのも、すべてが俺たちのこの任務のためだったと、今ならそのすべてが納得できる。
「それでは、まいりましょう」
ケルブは俺たちではなく、婆様に行った。婆様はうなずいた。
「お願いしますね」
ケルブはたちまちまた龍体と化し、その背に婆様を腰掛けさせた。婆様のご本体の御神霊はかなり神格が高いお方のようだけれど、いかんせん婆様はその分魂にすぎず、自身が龍体化することはできないようだ。
「では私は、今の天帝陛下、
その言葉が終わらないうちに、龍体となったケルブは婆様を乗せたままものすごい勢いで上昇すると、もう山の向こうへと消えていった。
俺たちが茫然とそれを見ていると、いつの間にかスバル様も巨大な姿から俺たちと同じ大きさになって隣にいた。
「さあ、私たちも行きましょうか?」
スバル様がそう言うので、俺たちは「え?」という感じになった。スバル様は笑っていた。
「私があなた方をここにお連れしたし、またあなた方が山武姫神と呼んでいるその存在の元へ送り届けるよう、先ほどの方に頼まれましてね」
そして俺たちが乗って来た円盤が、たちどころに現れた。
「一応、いったん現界に降りるので、これに乗って行きましょう。普通に現界に下ったら、あなた方は元の肉体に戻ってしまいますから。ただし、私は送り届けるだけです」
スバル様はにこやかに言った。
「ちょっと待ってください」
美貴が声を挙げた。
「これから私たち、いわば戦場に行くんですよね。それにはやはり統率が必要だと思います」
たしかにその通りだと思う。みんなもそう思っている。
「だったらこの中でやはり、リーダーを決めておいた方が」
「でも、俺たちは組織化してはいけないって婆様が」
俺が思わず口をはさんだ。島村さんがそんな俺に言う。
「恒常的に組織化するわけではなく、リーダーといってもこの任務が終了するまでの間だけです」
「わかりました。では、やはりリーダーは拓也さんということで」
「いえ」
拓也さんは首を横に振った。
「私はむしろサポートに回った方が動きやすい。リーダーにふさわしいのは、山下さん、あなただ」
「え?」
突然振られて、俺は面食らった。
「なんで俺、いや、僕が?」
「ここにいるだいたいの人とそれぞれ何らかの関係があるのはあなただ」
たしかに、チャコと美貴、ピアノちゃん二人、大翔たち二人、そして杉本君の計七人までもが、もともとの俺との知り合い関係を手繰ってここにいる。
「でも、島村さんやエーデルさんの方が年も上で」
「年は関係ないでしょう」
島村さんは笑った。
「山下さん、あなたはミヨイ国でも執政補佐官として私たちを統率していましたね」
「それは過去世の話で」
「あなたがそういう魂だということですよ」
「わかりました」
俺は引き受けることにした。
「それではこの十二人の勇者、これから大いなる任務遂行のために出発だ!」
俺たちは皆ばらばらの私服だったけれど、俺が思いを送ると皆すぐに想念通りの服装に瞬時に変身した。それはどう見ても、どこかのアニメに出てきそうな異世界の勇者の姿だった。そして手には楯を持っている。その縦には例の楯のバッジの太陽の紋様、ムーの国章が鮮やかに刻まれていた。
「これから臨む任務は人類の存亡がかかっているだけに、本当の意味でのハルマゲドンかもしれませんね」
島村さんが言う。ハルマゲドンとはスピリチュアルの関係ではよく聞く言葉だ。なんでも『聖書』には世界最終戦争が起こる場所として予言されているということくらいは俺も知っていた。
ところが島村さんは、その『聖書』の一説を滔々と暗唱した。
「ヨハネの黙示録の一説です。実際にハルマゲドンという地名は中東にありますし」
「はい、今はメギドと呼ばれ、“メギドの山”という意味で“ハル・メギド”といってますね。“未来にはここで人類最終戦争が行われると予言されている”なんて碑が立っています。私、行ったことあります」
エーデルさんも言った。島村さんはうなずいた。
「そうでしょう。私もその地のことだと思っていました。でも、本当のハルマゲドンはそういった現界、つまり地上ではなく霊界にあったのです」
そう、天の岩戸も地上ではなくこの神霊界での出来事だった。
「では、勇者たち! これからハルマゲドンへ向かう!」
「「「「「「おお!」」」」」」
皆高らかに声を挙げた。
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