11 聖使命
婆様の話を聞いて、俺なんかもうすでに体に震えがきていた。
俺たちが山武姫神を直接説得する? すべてが『大根本神様』のシナリオでしたと言って説明するのか? 納得してくれるだろうか?
「急がないと、山武神の勢力はもう神霊界に攻め入って、天帝天照彦神様と一戦交える覚悟でいます。そうなると今度は、一気に人類界すべてを支配しようとするでしょう。そして、国祖神のお出ましをも阻止する可能性があります」
「国祖神がお出まし……?」
杉本君が首をかしげた。婆様はにこやかな中に厳しさを見せて俺たちを見た。
「前に申し上げませんでしたっけ? 今や天意の転換を迎えています。すでに三千年前から国祖神の天の岩戸からのお出ましの準備が始まっていると」
そういえば聞いた気がする。だから、人類があまりにも物質一辺倒になって霊的な世界から離れすぎないようにブレーキをかけるため、三千年前あたりからモーセや釈尊、キリストがこの世に遣わされはじめたと。
「そうしていよいよ一九六二年から天意の転換が宣せられました。人類界も物質を主体とした考えから、霊を主体とした霊主文明に切り替えさせようと『大根本神様』は考えておられます。物質開発は十分に達しましたけど、それだけでは地上天国とはいえません。これからは発達した物質文明を土台として、あくまで霊を主体に考え行動する霊主文明を起こさねばなりません」
なんだか話が大きすぎて、俺たちは皆黙りこくってしまった。だけれども、御神霊様方は皆感心して、涙を流して聴いている方もおられる。
「これまでの水の眷属の統治の世は終わり、火の眷属と水の眷属が十字に組んでいく時代になると、そのためには国祖神・
「そんな、どうしてそれを私たちに?」
「僕たちにできるんですか?」
「怖いです!」
美貴が、杉本君が、そして美穂が次々に声を挙げたけれど、そのほかのみんなも同じような想念だった。
「でも、山武神様が神霊界を追われ、怨みのあまりに神霊界へ一戦を挑むというのも『大根本神様』のシナリオではないのですか?」
チャコが聞く。
「いいえ、これは想定外のことです。あなた方は、『大根本神様』は全智全能だから、戦争を止めさせるのなんてちゃっちゃとできると思っていますね。でも、『大根本神様』は全智全能ではありません。大宇宙のどこにも全智全能の神なんていません。人類の目から見れば『大根本神様』はもちろんこの四次元神霊界の御神霊でさえ、限りなく全智全能に見えるでしょう。でも、そう見えるということだけです。でも、できないことはできない。山武姫神の怨みと憎しみの想念が、ブラックホールを呼んでしまうという事態を招いてしまったもいえるでしょう。もちろん、それは山武姫神が意識して呼んだわけではありません。だからこそ、山武神の説得が必要です。今申しましたように御神霊は全智全能ではありませんからできないことはできない、でもそれは直接にはできないというだけで、あなた方がその手足となってお使いいただくことによって成し遂げられます。ところで、」
婆様は少し声を落とした。
「全智全能に関して、実は国祖神にも落ち度はあったのです」
俺たちは首をかしげた。
「今の人類で、『大根本神様』の御存在を知っている人はどれくらいいるでしょう? まず、そういったことを人々に告げ知らせるべき宗教でさえ、『大根本神様』のご存在を感知していません。たいていはこの四次元界の御神霊を祭っていますし、また宗教によっては国祖神を『大根本の神様』と間違えて、宇宙の最高神だと勘違いして教えを広めていたりします」
たしかにそれが、宗教の現界だろう。
「国祖神は四十八のみ働きがあって、ゆえに
俺たちの仲間の中には首をかしげている人もいるので、俺は重複音とはヤ行の「い」「え」のことだと想念を送っておいた。
「ですから、国祖神は“八面六臂の働き”をされます。“八面六臂”とは、八×六で四十八のみ働きのことです。それぞれの言霊は例えば“ア”は開顕、“天”。“イ”は“意”、“ウ”は“生む”、“エ”は“枝”のみ働きがあります。それでそのすべてを統一する、すなわち“
「あのう、やはり私、怖いです」
そう言ったのは、やはり美穂だった。婆様は穏やかに美穂を見た。
「そうでしょう。もしかしたら戦いの真っ最中の中にあなた方を遣わすことになるかもしれないのです」
「まさしく、“狼の中に羊を送り込む”ってところですか」
島村さんが言った。婆様はうなずいた。
「そうです。ですからそんな時どうあれとキリストは言いましたか?」
「蛇のように賢く、鳩のように素直であれと」
「その通りです」
俺にはよくわからないけれど、神学生だけあってさすが島村さんだ。
俺が感心していると、婆様は俺たち全員に向かって言った。
「何をどうしたらいいのかと皆さん考えていますね。皆さんは今は肉体から離れていますけれど、まだ肉体の脳で考える感覚から抜け出ていません。ですから、何も考えずに行って、その時その場で閃いた通りにすれば間違いないのです。肉体の脳で考えるように、あれこれ考えないことです。それが素直ということです。“素直”とは“主の糸に直くなる”と書きますね」
なるほど……と思う。
「力に対して力で立ち向かってはなりません。そうしたら殺されますよ。絶対に殺されてはなりません。現界の戦争では戦死しても肉体が死ぬだけで魂は幽界に行き、また転生します。でも、ここでの死は魂の抹消、宇宙の原質に戻ることを意味しますから。相手の怨み、憎しみに対して同じ憎しみで対峙してはなりません。あなた方の武器は愛です。愛と
「そう言われても、震えが止まりません」
美穂は泣きそうだ。そんな美穂の肩を、ピアノちゃんは優しく包んでいた。
「皆さんの大事な人がいるでしょう? その人たちの命が皆さんにかかっているんですよ。家族、友人、知人、恋人、そんなひとたちの顔を一人ひとり思い浮かべてごらんなさい」
俺はまず両親の顔が浮かんだ。そして妹の
「そこに愛はあります」
婆様の言葉に、皆はっとした。
そしてその愛のある人たちは皆、何も知らないで今の災害と戦争にただ怯えている。
そんな彼らの日常を守るのが俺の役目ならば、しかも俺自身絶対に死なずに成し遂げなければならないのだから奮い立つ。
頭の中をあるメロディーが流れる。
昔見たある人気アニメ、戦時中の軍艦が改造されて宇宙に飛んでいき敵と戦うそのアニメの主題歌の、二番のサビの部分の歌詞がヘビロテする。
俺の中で、じわじわと何かが込み上げてきた。
それが俺を突き動かすように、俺は思わず声を挙げていた。
「大切な人を守るため、そして人類を救うため、婆様の期待を見に受けて、俺たち行こうぜ」
俺の想念は十分に仲間たちに伝わったようで、皆一斉に立ち上がった。
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