第7話 ゴブリンの集落を襲撃する冒険者

「準備はいいな?」

「大丈夫よ」

「大丈夫」

「いつでも行けるよ」

「先制して、魔法、撃ち込んじゃう?」


 すでにやる気満々のリリアの意見は却下された。まずはあの三人組に追いつく必要がある。俺たちはなるべく音を立てずに先を急ぐ。

 だがしかし、わずかに間に合わなかった。先に見張りのゴブリンたちが彼らに気がついたのだ。


 森に鳴り響く角笛の音。どうやらゴブリンは集落を形成すると知能が高くなるようである。急に騒がしくなった森に、先を行く三人の足が止まった。


「な、なんだ?」

「どうした? 何が起こった!?」


 武器を構え、周囲を見渡すが、まだゴブリンの存在に気がついていないようである。

 ここまで状況が悪化すれば、隠密行動をする必要はない。ライナーが大声を上げた。


「お前たち、引き返すんだ。その先にゴブリンの集落があるぞ!」


 叫びつつも、彼らと合流するべく先に進んだ。森の奥からはゴブリンの反応が次々と現れていた。どうやら角笛の音を聞いたゴブリンたちが集落から出てきたようである。


 慌てて引き返してきた冒険者たちと合流する。ゴブリンたちはさらにこちらへと迫ってきていた。先頭のゴブリンにベールスが弓矢を放った。頭を打ち抜かれたゴブリンが光の粒になって消える。


「何でこんなところにゴブリンの集落が?」

「だれだよ、ゴブリンがいないから森の奥に行こうって言ったやつは!」

「おい、ケンカなら帰ってからやってくれ。来るぞ!」


 彼らの話の内容からして、おそらく冒険者ランクの一番下、アイアンランクなのだろう。そうでもなければ、ゴブリンなど探さないだろう。あんまりお金にならないしね。


 茂みから飛び出して来たゴブリンをライナーが一閃する。逃れたゴブリンをルシアナのストーン・アローが貫いた。


「まだ飛び出して来るわよ!」


 ベールスが言い終わらないうちに、ゴブリンが五匹飛び出してきた。それを俺とリリアのウインド・アローがまとめて蜂の巣にする。ついでに茂みが無くなり、何本かの木が倒れた。

 もちろん手加減はした。


「フェル、お前、本当に賢者だったんだな」

「あはは……その賢者もリリアが勝手に言ってるだけなんだけどね」


 見通しが良くなったので、ベールスが次々と弓矢でゴブリンを倒していく。ベールスの矢から逃れてこちらにたどり着いても、ライナーが即座に切り捨てた。ルシアナは魔力を温存しているようである。たぶん、後から来る大物に備えているのだろう。


 三人組はあまり役に立っていない。自分の身を守るので精一杯のようである。別の方角からやって来た単体のゴブリンを相手に戦っていた。


「来たわ。ゴブリンジェネラルね」


 リリアの目はつり上がり、口角は上がっている。どうしてリリアはちょっとうれしそうなんだ。強い相手がいると、ワクワクするタイプなのかな?


「大きいね。殴られたら痛そうだ」

「フェルを殴ったら、たぶん相手の腕が折れるわね。試してみる?」

「ちょっとリリア、人を化け物みたいに言うのはやめてくれないかな?」


 ゴブリンジェネラルは鼻息も荒くドシンドシンと遠くから近づいて来たが、俺たちがバカ話をしていたせいか、他のみんなに緊張感はなさそうだ。

 しかし、間近にまで迫ってくると、さすがに息を飲んでいた。


「初めて見たが、でかいな、ゴブリンジェネラルは」


 ライナーの顔が青ざめている。ルシアナとベールスも表情が硬い。それもそうか。大人の二倍ほどの身長があるからね。子供サイズのゴブリンとは大違いだ。一つ上の上位種になっただけでこれほどまでに違うとは、魔物は不思議な生き物だ。


「さあ、格の違いを見せてあげるのよ、フェル!」

「え? ああ、うん。分かったよ。ウインド・カッター!」


 リリアの命令のままに魔法を放つ。あの巨体が全力でこちらに向かって走って来たら、間違いなくパニックになる。その前に、ゴブリンジェネラルの出鼻をくじいておこう。

 ほのかな黄緑色をした風の刃がゴブリンジェネラルを縦に真っ二つにした。


 ゴブリンジェネラルは光の粒となりこぶし大の魔石を残していった。ついでに大人五人分ほどの長さで、地面に深い溝ができていた。慌てて土魔法で溝を埋める。これでよし。


「やっぱり俺たちは『フェルさん』って呼んだ方がいいかな?」

「そうね。フェルを敬いなさい」

「やめてよね」


 イイ顔をして言い放ったリリアをつかんで、その口を封じた。モゴモゴ言っているが、この手は離さないぞ。

 俺たちが格闘している間に、残りのメンバーはゴブリンの残党狩りをしていた。




「さて、これからどうするか」


 ライナーがゴブリンジェネラルの魔石を拾い上げながら言った。そのつもりはなかったとは言え、ゴブリンの集団と戦うことになってしまった。ゴブリンの数は大分減っているだろうし、ゴブリンジェネラルも、もういない。


「このままゴブリンの集落まで行って、潰しておいた方が良いんじゃない? 放置しておけば、正式な討伐隊が来る前に、またゴブリンジェネラルが産まれているかも知れないわ」

「ルシアナの意見はもっともだな。フェルの魔法もあるし、大丈夫だろう。俺もこのままゴブリンの集落を潰すべきだと思う」


 その場にいた全員がうなずいた。他の脅威はなさそうだし、それでいいと思う。残っているのがゴブリンだけなら、アイアンランクの三人組でも十分に戦えるはずだ。


「よし、それじゃ、進むぞ。二人とも、引き続き警戒を頼む」

「了解」

「分かったわ」


 ほどなくしてゴブリンの集落へとたどり着いた。さっきのゴブリンジェネラルたちとの戦闘でかなりのゴブリンを倒したはずだが、それでも集落には二十匹ほど残っていた。

 集落の中には粗末な建物がいくつかあり、周囲には木の柵らしきものまであった。


「作戦は簡単だ。ゴブリンたちを殲滅する。行くぞ」


 ライナーの合図で集落のゴブリンたちを倒していく。ゴブリンたちからすると、俺たちは集落を襲撃する略奪者以外の何者でもなかっただろう。だがそれが冒険者であり、冒険者の仕事だ。お互い様だと割り切るしかなかった。


 作戦はほどなく終了した。再びゴブリンが住み着かないように、建物や柵は完全に破壊して、火魔法で灰にしておいた。おそらくはこれで大丈夫だと思うが、念のためこの場所を報告しておくことになった。


 三人組と共にコリブリの街に戻ると、その足で冒険者ギルドへ報告に向かった。ライナーの報告に、キャロットさんがあきれながらも驚いていた。


「あれだけ私が忠告しておいたのに……。でもまさか、こんなに早くゴブリンの集落を見つけて来るとは思わなかったわ。しかも、ゴブリンジェネラルまで倒してくるとはね」

「こいつらがゴブリンの見張りに見つかっちゃって、仕方なく……」


 視線を向けられた三人組が小さくなった。経験不足は否めない。下手すると、ケガではすまなかったかも知れないのだ。冒険者になることの危険性は十分に理解できたはずである。


「それにしても、ゴブリンジェネラルを魔法で一撃とはね。さすがは賢者と妖精のコンビと言ったところかしら」


 俺の魔法を見て腰を抜かしただけあって、このくらい当然と思っているようだ。もしかすると、今回俺たちにパーティーを組ませたのは、保険のつもりだったのかも知れない。

 まあ、あの感じだと、俺が魔法を使わなくても、ライナーたちで十分に倒すことができたと思うけどね。


 報酬を受け取ると、その場で解散することになった。早期解決ボーナスとゴブリンジェネラルの魔石のおかげで、小金貨一枚と銀貨二枚を稼ぐことができた。これなら街の宿屋に泊まるようにしても問題ないかな。

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