第58話 レイクフィッシュ

 レイクエレクトリカスを倒し、新たなスキルを手に入れた。


「さっそく使ってみるか……!」


 取得したスキルは“レイクエレクトリカスの雷掌”だ。


「いや、待て……今までの傾向からして、雷のスキルだよな?」


 “魔物喰らい”は、元となった魔物の特徴をスキルとして使えるようになるものだ。

 たまに予想が外れることはあるが、“邪眼”や“空砲”あたりはわかりやすくその魔物特有の能力を引き継いでいる。


 エレクトリカスは雷を操るナマズの魔物だった。


「水中で使ったらやばい気がする」


 珍しく危機を察知した俺は、スキルの使用を中止した。

 服をぼろぼろにしたり、食べようと思ったら毒で死にかけたり、散々だったからな……。中級になったからには、思慮深く生きなければ。


 下級の俺とは違うのだよ。


「よし、地上に出てからにしよう。ここだと、なにかあったらそのまま死にかねない」


 水中ダンジョンで油断すれば、魔物に殺される前に環境で死ぬ。中級ダンジョンとはそういうものだ。


 旅神の力で、魔物と魔神の影響を受けた土地は結界によって隔離されている。だから、ダンジョンから出てしまえば安全だ。


「さて、できれば最後の一匹とも戦いたいんだけど……」


 残りの一匹はなんという名前だったかな。

 ユアに聞いたことを思い出しながら、警戒を怠らず進む。


 湖は広く、水は透き通っているとはいえ遠くまでは見えない。

 うっすらと影が見える程度だ。


「少し寒くなってきたな。あと一体倒したら上がろう」


 両手両足を精一杯使って泳いでいるが、水にどんどん体温を奪われていく。

 リュウカが作ってくれた自動修復付きのインナーは、肌にぴっちりと張り付いて体温も保持してくれている。それに、“風精霊の祝福”も、体温調節の効果があったはずだ。


 しかし、“鱗甲”の使用による疲労も合わせて、体力が限界に近づいている。


「ん、あれは……」


 湖底から離れ、少し水面に近づいたところで、魚影が見えた。


 レイクシールかと思ったが、よく見ると違う。

 普通の魚の形をしているようだった。


「レイクフィッシュか!」


 そう、認識した直後だった。


「……っ」


 慌てて、“水かき”を使い横に移動する。

 そのすぐ横を、突進してきたレイクフィッシュが通り過ぎていった。


 水中だから距離感が読みづらい。


「速いな!」


 レイクフィッシュは小さい魔物だった。

 大きさとしてはフォレストラビットと同じくらいか。両手で持ち上げられそうなサイズだ。


 細長い身体は、青く輝いている。口は尖っていて、刺されたら痛そうだ。


「美味しそうだな」

「……!?」


 ぼそりと呟くと、レイクフィッシュがびくりと震えた。

 言葉が通じているわけではないだろうけど。


 魔物を見て美味しいかどうかで考えるの、我ながらやばいな……?

 まあレイクフィッシュはリーフクラブと同じく、食用にされている魔物だし……。


 そんなことを考えながら、戦闘態勢を整える。


「喰らってやるよ」


 使うスキルは“炯眼”と“邪眼”、そして“刃尾”だ。


 非常に素早く殺傷能力の高い魔物だが、動きさえ止めてしまえば倒すのは容易いはずだ。


「……」

「くっ、やっぱ速いな!」


 先に気づけてよかった。

 無音で突進してくるので、不意を打たれたら一発で死ぬ。水中は全方位から攻撃できるので、さらに危険だ。


「速度特化のやつは防御が弱いって相場が決まってるんだよ!」


 “水かき”と“鰭脚”をフルに使って回避しながら、“刃尾”で切りつける。

 しかし、刃が動いた時にはレイクフィッシュは遥か後方にいた。


「追いつけないか……。水中は攻撃手段が限られるな」


 レイクフィッシュはすぐに転回して、再び突進してくる。

 ナイフのように鋭い口先が、まっすぐ俺の頭を狙っている。


「“邪眼”」


 突進に合わせて、石化の光線を発射する。

 水中だからか、光線の速度がやや遅い。だが、まっすぐ迫るレイクフィッシュには、問題なく直撃した。


「よし! ……やばっ」


 頭を石化させたとはいえ、勢いがいきなり消えるわけではない。不便なスキルだ。

 目視する必要がある関係上、突進の軌道上に目線を合わせたのがまずかった。


 文字通り目と鼻の先に、レイクフィッシュが迫る。


「くそ!」


 身体を捻って、なんとか直撃は回避した。

 しかし、レイクフィッシュの口先が“エアボール”を掠めた。頭の周りに張られた、空気を囲う膜はその攻撃で破れる。


 ぶくぶくと音がして、空気が水中に溢れ出した。いくつもの泡が水面に向かっていく。


「うぐっ」


 慌てて口を閉じる。

 水は飲み込まずに済んだが……まずい、息ができない。


 水面に上がらないと!

 しかし、石化が解ければすぐに攻撃してくるだろう。水中でレイクフィッシュから逃げきれるとは思えない。


 一瞬で倒して、すぐに上がろう。

 石化の効果時間との戦いだ。身体が小さいからか、石化によって完全に動きを止めている。


 突進の勢いのまま少し離れた場所に流れていたので、追いすがって両手で掴む。


「……!」


 しかし、その瞬間レイクフィッシュが再び動きだした。


 “刃尾”は間に合わない。

 なら……。


(いただきマスッ!)


 両手に力を入れ、逃がさないようにしながら、思い切り噛みついた。


 口を開けたから、水も一緒に入って来る。めちゃくちゃ苦しい。

 なんとかレイクフィッシュの喉元を噛みちぎり、呑み込んだ。


 小さい魔物だから、これで絶命したと思う。


 手を離し、巣面に向かおうとしたところで、脳内に声が響いた。


『スキル“レイクフィッシュの鰓孔えらあな”を取得しました』


 即座に、肺の中に残ったわずかな空気を吐き出して、スキルを発動する。


「“鰓孔”……っ」


 頬の当たりに、スキルが発動した感覚がある。

 エラ……それは、魚が水中で呼吸するために使う器官だ。


「息ができる……!」


 浮上をやめて、停止した。

 “エアボール”がなくても、もう慌てて水面を目指す必要はない。


「水中でも呼吸ができるようになったのか……!」


 ヒレとエラを手にしたことで、完全に水中で活動できるようになったのだった。

 地上が辛くなったら海に移住しようかな……?

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