その17

「見ちゃいましたね……」

「あれか。見たな」

「結構やばいのを見ちゃいましたね……」

「柳、絶対本人の前で動揺するなよ? 絶対だぞ?」

 おれたちは二郎氏の部屋を出て、客間に戻っていた。当の本人が酔い潰れてしまったのだから、あの部屋に留まっていても仕方がない。

 それに、どうやらおれたちは目的を達したようだった。例の封筒は中身を確認し、元通り二郎氏のデスクに戻しておいた。

「あの封筒の表書きは、山中太郎氏に宛てたものだった」と、先生が自分自身に確認するように呟いた。

「それを一郎氏が持ち出したんだろう」

「じゃあ、どうして二郎氏の部屋に?」

「知らん。なんであんなものを持ってるのか……」

 珍しく先生の当てずっぽうが出ない。少し考えていたが、やがて諦めたようにソファに腰を落とした。

「まぁ今は放っておこう。それより、犯人をどうやって押さえるかの方が重要だ。こればっかりは故人の霊がそう言っていますだけじゃ通らん」

「物理的な証拠を押さえなきゃならないってことですよね……」

「そこが霊能力者の面倒なところだ」

 先生はそう言ってソファの上でそっくり返った。

「釣れんかなぁ……柳を餌にして……」

「ひとを生き餌にしようとするのやめてくださいよ!?」

 大体おれが何をすれば釣れるというんだ。

 と思ったところで、釣りで魚を連想し、魚から食卓を連想して、そういえば腹が減ったなと思い出した。夕食は遅れると聞いてはいたけど、それにしても遅い。

「そういえば飯、どうなってるんですかね。ちょっと外に出て食べてくるなんてこともできないし」

「そういやそうだったな。誰かに確認して……」

 そのとき、突然客間のドアが開いて、小柄な人影が飛び込んできた。ヒイヒイと息を弾ませているのはミツヨさんだ。

「ミツヨちゃん、どうした?」

「た、祟りじゃ」ミツヨさんは目をむき出して叫んだ。「また人が殺されておる!」

「えっ!?」

 また殺人が起こるなんて……しかし、あの件が動機だったとすると、一体誰が犠牲になったというのだろう?

「落ち着いてミツヨちゃん。どこで、誰が殺されたって?」

「き、キッチンで、家政婦の佐藤さんが……」

「は?」

「へぇ?」

 これには先生も驚いて声を上げた。

 あのお手伝いさんが? 彼女はこの家に来てからまだ日が浅いはずなのに……それとも実はあの件と何か関係があったのか?

 とにかくおれたちは、ミツヨさんと共にキッチンに向かうことにした。

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