騎士団からの手紙
口頭でノルデンからどのように加護を制御するのかを抽象的に説明された。説明だけでは全く理解に至らなかった。
「振る時に力を入れ具合を意識するというかなんというか。難しいな」
「ノルデンさんはどうやって制御できるようになったんですか」
「私は使っているうちにいつのまにかできるようになっていた」
「経験を積むのみか……。」
「そうというしか言えないな。とりあえず何回かやってみたらどうだ」
言われて俺とハルタは振ってみたものの、どの斬撃にも付与されなかった。全く制御することができていなかった。俺はふと今までに加護がどのような条件下で発動したかを考えてみた。するとわかったことがあった。それは今まで発動したのは自分より強い相手と戦った時に発動したということだ。つまり自分が必死になって戦っている時だ。
それを踏まえた上で強い意志を持って剣を振ってみた。すると、思ったとおりに加護が斬撃に付与された。
「タツキ、今加護ついてたけど、どうやったの」
「ハルタ、今までどんな時に加護が働いたのかよく考えてみろ。それは自分より強い相手を倒そうと必死になって強い意志を持っている時じゃなかったか?」
「確かに」
ハルタも理解した上で振ると同じように加護が付与された。
「そうか? 私はそんな意志などいちいち考えていないぞ。もしかしたら人によって発動する条件が違っているのかもな。でも私が教えなくても自分達で解決できたな。よかったよかった」
ノルデンが剣を納めて宿の方へ歩き出した。
「お前たちは今日の昼ここを出るんだよな?」
「はい。もう稽古終わりですか?」
「今日は加護の制御の仕方を習得できたじゃないか。あまり詰め込みすぎても良くない。一つ一つに磨きをかけることが重要だと私は思っている。そうだタツキ、私の部屋に来てくれないか? 話しておきたいことがある」
「わかりました」
何を話されるかはさっぱりわからなかった。ハルタも隣で首を傾げて、なぜ自分は呼ばれないのだろうと言いたそうな顔をこちらに向けてきた。俺はノルデンの後を追った。
ノルデンの部屋に着くと真剣な顔で彼女は話をし始めた。
「シーナから話は聞いた。ユグドラシルにシーナが行くことは私は反対だがお前はどう思う、タツキ」
「僕は賛成です。一方でノルデンさんが反対する理由もわかります。俺はそこに首を突っ込める立場ではないのでなんとも言えませんが」
「この判断にはお前も関係している。シーナが私を説得しに来た時お前の名を何回も口に出して、一緒に過ごしたいと言うんだ。全く困った子だ」
ノルデンは頭を抱えた。
「シーナがそんなことを」
「あの子のことだから私が反対しようにも意志は断固として変わらないはずだ。おそらく今日の昼荷台にでも隠れてこっそりついていくはずだ。もし彼女がユグドラシルにいくようだったら、彼女のことをよろしく頼みたい」
「色々とまだ理解が追いついていませんが、とりあえず彼女の面倒を見ておけということですね」
「ああそうだ」
昼になって、出発の準備が整い、宿を出ると宿の前には村人たちが集まっていた。村長をはじめとしてこの前の襲撃で助けた女性まで全員揃っていた。
村人たちの前で会釈し、竜車に乗り込むとノルデンが近づいてきた。
「また半年後の卒業の時は私がユグドラシルへ行く。その時までに更なる研鑽を積んで高みを目指すことだ。あと色々よろしく頼む」
ノルデンが俺とハルタそれぞれと握手を交わした。
ヨーテルに合図を出して竜車が動き出すと村人たちが後ろから声を一斉に発した。
「タツキさん、ハルタさん、村を助けてくれてありがとう! また村にいらしてください」
俺たちはそれに応えるように手を振った。次にサザンカ村を訪れることができるのはいつになるだろうか。その時にはもっと強くなっていたい。
村の敷地を抜けて、央都への一本道に出ると荷台から物音がした。ノルデンの言っていた通りシーナがおそらく荷台に隠れているのだろう。
「そろそろ出てきたらどうだ」
「誰に言っているんだタツキ?」
荷物を覆っていた布がめくり上げられ、中から縮こまっていた体を伸ばしながらシーナが出てきた。
「え! なんでここにシーナが?」
「ノルデンさんの言った通りだ。シーナはこれでいいんだな?」
「はい。私は二人と一緒に過ごしたい一心です」
「ということだハルタ。これから央都でシーナと一緒に暮らすことになった。知らせるのが遅れてすまない」
「そうなんだ! 俺は大歓迎だよ。これからもっと楽しくなりそうだね」
央都への道中で今回は一度野宿して一夜を過ごすことにした。日が沈み始めたあたりで道端に焚き火を構えて、夕飯を食べながら談笑をした。夕飯を食べ終えると軽く睡眠をとるためにシーナは竜車でハルタは竜車の隣で寝た。俺はというと火の番のために起きることになった。
夕飯で残った温かいスープを飲みながら空を見上げると空には沢山の星が輝いている。こんなにも綺麗に見えるのは周りに妨げとなるものがないからだろう。元の世界には電気が通い、自然というものの素晴らしさが忘れられてしまっている。周りを見渡しても明かりひとつない。だが月の光がこの世界を照らし出し、明るさをもたらしている。何度もつくづく思うが異世界こっちはいいところだ。
感慨にふけて一人空を眺めていると竜車の方から足音が近づいてきた。見るとシーナがこちらに来ていた。
「どうしたんだ、寝れないのか?」
「うん。寝付けない」
シーナが俺の真横に座った。
「今日は色々と迷惑をかけてしまってごめん。私の自分勝手な行動で負担をかけさせてしまって」
「大丈夫だ。自分のことは自分で決めるべきだと俺は思っているから。でも今度ノルデンさんには謝っておいた方がいいかもな」
「うん」
しばらくその場には炎がパチパチと立てる音だけが流れた。
「シーナ明日もやることが盛りだくさんだからそろそろ寝たほうがいいんじゃないか」
「ここで寝てはだめ?」
「竜車の方が快適だけどいいのか」
「うん」
シーナは俺の肩にもたれかかってきた。
「お、おい……」
「これが一番落ち着くの」
彼女はそのまま目を瞑り静かな寝息を立て始めた。シーナにとって俺は一体どんな存在なんだ?
俺はもたれかかった彼女を起こさないように夜明けまで火の番をした。夜が明けると彼女とハルタを起こして再び央都へ進み始めた。
王都へ戻ると今日は央都全体での休日だったらしく、通りは人で賑わっていた。宿ではガリウドが暖かく迎い入れてくれた。シーナのことはもうすでにノルデンから手紙が入っているらしく事情は全て知っていた。
「よかった無事に帰ってきてくれて。それにディアブロから村を守ってくれたんだって? さらに村から可愛い女の子を引き連れてくるなんてタツキとハルタの二人コンビは最高だな」
「いえいえ、自分達のやりたいことをやっただけのことですから」
「ガリウドさん、これからお世話になります。宿の手伝いや料理は積極的にお手伝いするのでいつでも申し付けてください」
「おう、シーナとは三年ぶりくらいか? 身長が伸びてますます美人さんになったな」
「そんな冗談言わないでくださいよ」
「ガリウドさんと同じく俺もシーナは美人だと思うよ!」
「ハルタまで、もう」
三人の視線が俺に集まった。
「もちろん俺もシーナは今まで見てきた女性の中で一番美人だと思うよ」
「全くタツキは大袈裟に言うな。ハッハッハ」
シーナの方を見ると顔がほんの少しばかり赤みを帯びていた。
「そうだ、二人宛に騎士団から手紙が届いている」
「騎士団?」
「なんで俺たちに」
「よくわからねえから中身を見てみろ、ほら」
ガリウドから手渡された手紙にはこう記してあった。
『タツキ様とハルタ様
先日サザンカ村が“ディアブロ”による攻撃を受けたと村人の方々から報告をいただきました。そこでディアブロと懸命に戦い、村を救ったお二人のことを知りました。是非直接お会いして襲撃のことやあなた方のことをお聞きしたいと思うのですが、もしよろしければご都合の良い時に騎士団集会所へいらしてください。
騎士団副団長イヴェルより』
「どうだ? なんて書いてある?」
「俺たちに会って話をしたいらしいです」
俺はガリウドに手紙を渡した。
「副団長様直々手紙を送ってくるということは二人がいい意味で目をつけられているに違いないな。それでいついくんだ?」
「明日からは学校が始まってしまいますし、今日行ってきます」
俺とハルタは宿でひと段落ついた後騎士団集会所へ向かった。
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