大精霊の加護
目を覚ますと夕焼け空が広がっていた。痛みを伴っていたはずの体は治されていて違和感なく動かすことができた。横を見ると隣でハルタのことを治癒魔法で治療しているカナリアの姿があった。
「よかった目を覚まして。どう、体は痛くない?」
「ありがとう、おかげさまで大丈夫そうだ。カナリアこそ大丈夫なのか?」
「うん、私は自分で治療したから大丈夫。ハルタ君の治療ももうすぐ終わるよ。ウルドくんはモンスターから素材を採ってる」
倒したモンスターの方へ目を向けると討伐したモンスターの死体からウルドは素材を回収していた。
「あのトレントを倒したのはタツキくん?」
「俺とハルタだ」
「ありがとう」
「どういうことだ?」
「二人が倒してくれていなかったら私もウルドくんもそして二人もここに今いない」
「いや、今回みんな判断を誤って危険に晒した俺には感謝される義理なんてないよ。あの場面で戦闘を選択するんじゃなくて退却を選択するべきだった。すまない」
「タツキ君の選択に応えられなかった私も責任があると思う」
ウルドが素材を拾い終えて戻ってきた。
「よく倒したタツキ、褒めてやる。こんなに素材を剥ぎ取ってきてやったんだ、感謝しろ」
ウルドは相変わらずの調子だった。ウルドが持ってきた革製の鞄の中を覗くと、モンスターの素材が沢山入っていた。
「これが本当に金になるのか。そういうふうには見えないが」
「こいつらは央都で売られているさまざまなことに使われる。商人たちはこれらをギルドから購入し、集めるのが俺たち冒険者、そして買い取るのがギルドだ。こんぐらい常識だぞ」
話していると目をこすりながらハルタが起きた。
「体の調子はどう」
「特に痛みもないし大丈夫そうだ。カナリアありがとう」
「ハルタ歩けそうか?」
「もちろん大丈夫さ」
「よし皆ユグドラシルへひとまず帰ろう。話はそれからだ」
帰り道はみんな疲れていたのか口数が少なかった。それはそうだ、本当なら倒せないような相手と戦ったのだから。しかし樹人トレントを倒した時に自分の斬撃に風魔法が付与されていたのはなぜだろうか。ギルドに寄るついでに聞いてみよう。もしかしたらヘルヘイムさんが何か知っているかもしれない。
俺の体はモンスターの体液やら自分の血で汚れていたので央都に入ると周りからの視線が痛かった。ギルドへ行くといつも通りヘルヘイムが対応してくれた。
「お疲れ様です。無事任務は完了しましたか? ウルドさんもご一緒されていたのですね」
「はい、なんとかですけど討伐できました。はぁ……」
「ヘルヘイム、今回の任務は初級任務のくせに出現するはずのないトレントが出てきた。どうなっているんだ? まさか俺たちをはめたりしていないだろうな」
「ト、トレントが? そして倒した? 初級冒険者なのに?」
ヘルヘイムは驚いていた。
「質問に答えろヘルヘイム」
「ああ、はい。最近ギルド内で発注したクエストでそのようなことがあったと多数報告を受けています。騎士団が現在調査中ですが、まだ何もわかっていません。私からではありますが、今回皆様を危険な目に遭わせてしまったことをお詫びします」
「何も謝らなくたって。結果的に倒せたからオーケーですよ」
ハルタが言った。
「そう言っていただけると助かります。ではモンスターの素材を換金をしますので、もらってもよろしいでしょうか」
ウルドは手に持っていた鞄をヘルヘイムに渡した。ヘルヘイムはトレントから採った素材に驚いていただけでなく素材自体の多さに驚いていた。
「初任務でこれほど素材を持って来られるとは想像もしていませんでした。それで金額の方ですが、私からの気持ちもつけまして、金トナス一枚となりますがよろしいですか」
「そんなにもらってもいいんですか」
「中級任務一回程度の金額か。底辺のお前たちには十分だな」
周りの皆を見渡したが誰も硬貨を受け取ろうとしなかった。
「お金はタツキくんが受け取って」
「いいのか俺が受けっとって」
「今回の1番討伐に貢献したのはお前だ。今回はくれてやる」
「皆言うように今回はタツキのお陰でみんなで成功を掴むことができた。ぜひ受け取って」
三人から言われてしまったので、仕方なく俺は金トナスをヘルヘイムからうけっとた。稼ぐことの大変さを知ったからか硬貨はいつも以上の重みを感じた。
「ありがとうございます。三人は先に入り口へ行ってて待っててくれないか? ヘルヘイムさんと話したいことがあるから」
「わかった。先にいってるねタツキくん」
三人は入口へ向かっていった。
「タツキさん話とはなんでしょう?」
俺は今回任務でどのようにトレントを倒したことを説明し、双剣に風属性魔法が付与されていたことを話した。
「どうやって倒したのか疑問に思っていましたがそういうことでしたか」
「どういう意味です?」
「タツキさんとハルタさんはノルデンさん以来の逸材かもしれないです。先ほど説明してくれた剣に魔法が付与されていたというのは大精霊様の加・護・でほぼ間違い無いでしょう」
「加護? 大精霊様とは一切接点がないんですが」
「加護は大精霊様が気にいった人、一人だけに与える力です。つまりお二人はそれぞれ火の大精霊イフリートと風の大精霊シルフィードに気に入られたということです」
「ノルデンさん以来ということはノルデンさんも持っているんですか? 加護とやらを」
「はい、彼女は確か地の大精霊ドワーフからの加護を受けているはずです。大精霊様から加護を受けられる九人のうちに選ばれるとは。まったく今日は驚きばかりで困ります」
つまり俺はこの世界に来て特殊能力のようなものを開花させたということらしい。まだどういうものかわからないし、加護を受けている実感もないからから、フレイヤ先生に加護とは何なのかを聞くのが一番良さそうだ。
「教えてくれてありがとうございました。そろそろみんな待っていると思うので、行きます。またよろしくお願いします」
一言言うと俺はギルドを出た。
建物を出ると三人が待っていた。
「何を話していたんだ?」
ウルドが聞いてきた。
「それはこれから話すが、もう夜になってしまったから夕飯でも食いながら話さないか? これからみんなの予定は?」
予めガリウドには帰りが遅くなるから夕飯を食べてくると言っておいて正解だった。
「俺は特に予定がないから付き合ってやる」
「私は……。ごめん家の門限があるから今日は行けない」
カナリアは残念な顔をしたが家の事情ならば仕方がない。
「そうか、残念だ。また今度だな」
「うん、みんな楽しんで。また明日学校で」
カナリアと別れたあと俺たちは以前ノルデンといった料理店で夕食を取ることにした。何をオーダーすれば良いかわからなかったので、前回同様おすすめを頼むことにした。
「タツキ、さっき何を話してたか教えてよ」
ハルタは今か今かと待ちわびていた。
俺はハルタとウルドにヘルヘイムに教えてもらった加護について話した。
「お前たちに大精霊の加護がついているだと? そんなことがあるわけない。お前たち底辺が選ばれるはずがない」
「それがもし本当だとしたらすごいことだね。仮に付与されているとしてなんで大精霊様たちは俺たちのことを選んだんだろう」
ウェイターが料理をテーブルに運んできた。俺たちはもうすでに食べたことのある虫料理だったが、貴族出身であるウルドの顔は青ざめていた。ウルドは折角頼んんだにも関わらず料理に一切手をつけなかった。頼んだ料理は結局ハルタと二人で全部食べた。
「おいしかった。ウルドも食べればよかったのに」
「庶民はこんなものを日頃から食べていることに目を疑ってしまう」
「美味しいのにもったいないな。それはそうとしてウルド、今日一日色々と手伝ってくれてありがとう。一緒にいて心強かった。明日からも引き続きよろしくな」
「ふっ、今日行動を共にして俺がどれだけ重要人物かを理解したことだろう」俺とウルドは握手をした。
するとウルドは突然真剣な眼差しを俺に向けてきた。
「忠告しておく、加護についてはあまりよく知らないが、加護は強い反面、いつ無くなってもおかしくないものと聞いたことがある。雑魚が加護を手に入れて強くなって浮かれて努力を怠ると加護がなくなってた時の反動が大きいから気をつけろよ。あともう一つ、加護を目的として襲ってくる馬鹿どもも少なからずいるからあまり周りに広めない方がいいぞ」
「確かにウルドの言う通りだ。気をつけるよ」
店を出てウルドと別れて宿へ向かった。
大精霊様にいきなり加護をもらうとはどういう風の吹き回しなのだろうか。もしかしたら大精霊様たちはなぜ俺たちがこの世界に来たのか知っていて元の世界に戻れるように後押ししてくれているのかもしれない。
思ったよりも帰る時間が遅くなってしまったが、ガリウドは心配していないだろうか。いつしか宿は自分達がこの世界でほっと一息をつける憩いの場所になっていることに気がついた。
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