第61話 ガールズトーク


「コーヒー、よろしかったら飲んで」


「ありがとう、ございます」


 レーノさんが煎れてくれた。砂糖たっぷりで、甘いコーヒー。とても私好み。こういう所も、良く気遣ってくれる。

 そして私がコーヒーを一口飲むと、話が始まる。


「ごめん。ウィンの本音とか、悩みとか──いろいろと腹を割って聞きたくてこの場を作ったの。ガールズトークってやつ」


「は、はい……」


「まずは仕事の方、大分慣れたみたいね。」


 にこっと微笑を浮かべて話してくる。


「そ、そうですね……料理とか接客とかもだいぶコツがつかめてきましたし。みんな、教えてくれる先輩のおかげです。先輩たちのおかげで、何とかうまくいっています」


 そう言ってちょこんと頭を下げる。決して、お世辞じゃない。

 ここの人は、接客のコツも美味しい料理の作り方も優しく、丁寧に教えてくれた。


 私はそんな先輩たちに答えようと一生懸命やったから、結果が出たのだ。


「アンナさんもレーノさんも、優しくて、面倒見が良くて私に対してわからないところを優しく教えてくれて、そのおかげです」


 私のことも、店のことも見ていてくれて、本当に頼りある先輩だ。


「そこまで言われると、こっちも照れちゃうわ。あとは、キャラクターの幅を広げる、なんて良いんじゃない? 例えばオプションでドS モードとか。アンナみたいに」


「そ、それはさすがにちょっと──」


 コーヒーを机において、ぶんぶんと首を横に振る。

 あれは、絶対に無理だ。アンナさんだからできる芸当だ。


「いいんじゃない? ウィンちゃんに蔑まれたり、罵倒されたいっていう人も中にはいると思うわ」


「ダ、ダ、ダメです……。あんな風には、私なれません」


 私に、お客さんを蔑んだり、罵倒したりするようなことは絶対にできない。

 そこまで、器用な人間じゃないのは自分でも分かってる。


 レーノさんは、そんな私に無理強いを──させなかった。


「そうね。ウィンにはお客様に尽くす系が一番似合ってると思うわ。演技を使い分けられるほど、器用でもなさそうだし」


「ありがとう、ございます」


 ほっとして、大きく息を吐いた。さらにコーヒーを口に入れる。


「貴方は仕事に対する姿勢は素晴らしいものがあるわ。とっても一生懸命、お客様に対しての誠意もある。だけど、見ていて心配なのよ」


「心配。何が、ですか?」


 私、何かやっちゃってるのかな? ちょっと考え込んでしまう。

 要領がいいわけじゃ無い。ただがむしゃらに、お客様に喜んでもらえるために、全力を尽くしているだけだ。


 私がキョドキョドと迷っていると、レーノさんが私にピッと指をさしてくる。


「あなた、真面目過ぎ。今日のお客さんで、あんたに手を触れてきた人、いたでしょ、会計の時」


 会計の時、偶然ちょこんと触れた男の人。やたら話しかけてきたから、憶えてる。


「偶然ですよ。別に、セクハラを受けているわけではないですし」


「今はね。他に、話しかけるときも肩を掴んできたり、私見てたけど、明らかに故意だったわ。目つきもまずいわ。ねっとりとあなたの胸や足を見てたし」


「そ、そうだったんですか?」


 思わず背筋が凍り付く。確かに、話しかけて来た時に肩を掴んで話しかけてきた。

 けれど、そんなことになっていたなんて思いもしなかった。


「あなたが一生懸命なのもわかる。けれど、そういう人だっているの。あなたに対して、変な感情を抱く人だって。ここ、悪い言い方をすると、お客さんの欲望をかなえる場所ってことでしょ。ほとんどの人はそれを商売の範囲内で、本気にしないって理解しているけど、中にはそれに、本気の感情を抱いている人だっているの」


 その言葉に、思わず引いてしまう。


「私なら、軽く注意して頭の中で警戒リストに入れるわ。もてなしは最低限で、体にタッチはさせない。ひどければ出禁。あなただって、度が過ぎたことをすればそう言う措置をとるのも考えなさい」


「でも、そんなことしたら悪いし──」


「ああいうやつは、放っておくとエスカレートするわ。身の危険を感じるくらいに。そういうことも覚えなさい」


 真剣な表情のレーノさん。反論するすべは、なかった。



「もっと、主張していいわ。あなたは」


「わかりました」


 私に、反論の余地なんてなかった。おとなしく、コクリと頷く。

 それから、レーノさんは話の話題を変えてくる。


「後、ガルド──だっけ。彼氏さんともうまく行ってる?」


「か、彼氏──さん……。ぶっ!」


 予想できない言葉に、思わずコーヒーを噴き出してしまった。


「レ、レ-ノさん。ガルド様とは、そんなんじゃないです。私なんて──」

「そうなの? 私には初々しくてお似合いのカップルだと思うわ」


「別に、交際をしているわけでは」


 私はあわあわと手を振って否定する。しかし、レーノさんはコーヒーを片手に微笑を浮かべる。


「顔が真っ赤よ。誰がそうみても、カップルだから」


 確かに、否定はできない。夜、一緒に寝ているし手をつないで出かけたり、いっしょに体を洗いっこしたりしてたし。


「でも、本当に付き合ってるわけではないんです。まだ──」


「ふぅ──。わかったわ。そう言うことにしておいてあげる。幸せに、暮らすのよ」


「はい──」


「彼、ちょっと地味でパンチはないとは思うけれど、あなたのことを気遣えて人の良さがにじみ出ているいい人だと思う。一緒に暮らして、幸せな気分になれるタイプね」


「あ、ありがとうございます」


 確かにそうだ。私のことを、本当に想ってくれている。一緒にいて、人の良さや優しさ、暖かさが本当に伝わってくる。


 ☆   ☆   ☆


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