第43話 乗り越えて、行ける

「す、すいません……寝ちゃって」


「いいよ。ゆっくり休めた?」


「はい。もう大丈夫です」


 外を見ると、日が沈みかけていて、空が藍色になっている。

 俺がウィンと行きたいと決めていたところ。


 それにふさわしい時間になってきた。


「じゃあ、行こうか」


「はい」


 そして俺達は温泉を出て、再び外へ。


 山の中腹の丘から、山道をさらに登っていった。



「ふう……疲れたね」


「はい」


 俺達は温泉につかった後に訪れたのは、街の外にある山。

 そよ風が吹いて、あったまった身体を涼しくさせる。


 山の上から街を見下ろす形になり、夜は街の夜景が一望できる隠れた観光スポットとなっている。

 街の明かりが とても綺麗だ。

 夜風が、体にあたる。温泉で温まった身体に涼しい風が当たり、とても気持ちいい。



「夜景が、とても綺麗です──」


 ウィンは、山の中腹にある木のベンチに座りながら、街の夜景を見てはっとした表情になる。

 気に入ってくれて、とても嬉しい。


 俺も、ウィンの隣に座って一緒に風景を眺める。噂には聞いていたけど、とってもきれいだ。

 そんな綺麗な風景に見とれているウィン。


 ウィンもまた、この夜景に負けないくらい、とってもきれいに見える。


 あまりのかわいさに、ついつい見惚れてしまう。


 じっと、街の夜景を見ているウィン。何か、考えているのだろうか。

 風が、ウィンの髪をたなびかせている。


 いい機会だ。ウィンに、聞きたいことがあった。

 まるで腹を割って話すことのようだから、聞くのにためらいがあったけれど、とてもいい機会だから、聞いてみよう。



 一歩、横に歩いてウィンと肩をくっつける。ウィンが俺の方に視線を向けると、俺はウィンの向かい側の肩を掴んで、話かけた。


「俺と出会って、良かった?」


 ウィンの顔が、ほんのりと赤くなる。

 そして、俺から顔を反らして、言葉を返し始めた。


「ここに来る前は、私に信頼できる人。安心して身を寄せられる人はいませんでした」


 ウィンは、景色から目をそらし、視線を下に向けた。


「でもガルド様と出会って、私は変わりました──」


 その瞳に、強い意志を感じる。


「ガルド様は、いつも私のことを考えてくれていて、思ってくれていて──本当に素晴らしい人だと思います」


「お、大げさだよ……」


 ウィンの自信満々な物言いに思わず引いてしまう。


「そんなことはありません。それでいて、私に変なことを要求しないし……、こんな人はガルド様が初めてです」


 俺は、そこまでの人間じゃない。ウィンが街で捨てられていた時、あまりにも悲惨な姿をしていて、見過ごせなかっただけだ。


 下心だって、口にはしなかったけどウィンに抱かれている時とか、胸元が見えてしまっている時とか、やはりドキッとしてしまう。


「そんなことないよ……」


 自信なさげにそう言うと、ウィンはパッと俺に近づいてきた。

 髪がふわりと俺の鼻の前を通り、甘い香りが俺の鼻腔をくすぐってくる。


「そんなことないです!」


 自信に満ちた、強気な声。


「今まで、いろんな人と出会いましたが、出会って良かったって思える人は、最初に組んだ人たちとガルド様だけです。これからも、ガルド様と一緒にいたいと、心の底から思ってます」


 お世辞ではない、本心からの言葉なのが理解できる。


「わかった。ウィンが、ここまで俺のことを想ってくれてとっても嬉しいよ」


 俺は、恋愛経験に疎くて、気の利く言葉なんて言えない。本心から、思ったことをそのまま伝える。


 ウィンは、照れてしまっているのか顔をほんのりと赤くして、下を向いた。


「本当に、ありがとうございますこれからも、よろしくお願いいたします」


「こちらこそ。これからもよろしくね」


「俺の方こそ、よろしくね」


 そんな言葉を交わしながら、ウィンの頭をやさしく撫でる。

 まだ一緒に暮らす様になって、そこまで日はたっていないけれど、ウィンのことが良く分かってきた。



 とっても純粋で、とっても一生懸命。尽くすタイプで、相手への愛情を忘れない。


 俺が優しくすると、それに甘えずに俺に尽くしてくる。

 容姿もそうだけど、魅力的なその性格。



 そういう所が、とっても魅力的なんだと思う。


「ガルド様に撫でていただいて、とっても嬉しいです」


「そう言ってくれると、こっちも嬉しいよ」


 そんな言葉を交わしていると……。


 ぐぅ~~。


 ウィンのお腹から、腹の虫の声。ウィンは思わず恥ずかしそうにお腹を押さえる。


「す、すいません……」


 考えてみればもう日は沈んで夜。昼から何も食べていない。

 夕食の時間だ。


「夕飯、夜景を眺めながら食べる美味しいレストランがあるんだ。行ってみない?」


「行ってみたい、です」


 そして俺達は、山を下り始めて食事の方へと向かい始めた。

 ぎゅっと、その手をつないで。


 ウィンと出会って、一緒に暮らすことになって──。最初は上手くいくかどうか不安だった。

 けれど、ウィンは俺のことをとてもよく思ってくれた。


 これからも、きっと楽しいことばかりではない、乗り越えなきゃいけないことだってあるだろう。


 けれど、ウィンと一緒なら、乗り越えていけそうな──そんな気がする。





 ☆   ☆   ☆


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